荻窪駅北口、バスロータリーに立ち尽くした日【連載】散歩下手の東京散歩(1)
2019年11月16日
ライフ散歩とは、目的を持たずに歩くことも、寄り道しながら目的地を目指すことも、迷子になってしまうことも、迷子になりたくなくて右往左往することも、すべて包み込む懐深い言葉。出版レーベル「代わりに読む人」代表で編集者の友田とんさんが、荻窪駅のバスロータリーに立ち尽くした日の自分を回顧します。
「これは散歩なのか」。ふと足が止まる
どちらかと言えば散歩は苦手です。目的地があるとついついまっすぐにそこへ向かってしまいます。
拙著『パリのガイドブックで東京の町を闊歩する 1』(代わりに読む人刊)に詳しく書いたことですが、2018年は荻窪の本屋「Title」(杉並区桃井)に足繁く通いました。荻窪駅から青梅街道をまっすぐに歩いて行って、まっすぐに歩いて帰ってきました。
はて、これは散歩なのでしょうか。わかりません。ただ、ある時期までの私は、目的地へは駅から自分の足で歩かねばならないという、よくわからない義務感に取り憑かれていたことは確かです。ひょっとしたらこのことは私が散歩を苦手としていることと何か関係があるのかもしれません。
もっともっと散らばらさなければいけない。何しろ散歩は「散」と書きます。けれども私は一心不乱に目的地を目指して歩きました。これを真面目という言葉で片付けてよいものかどうか迷います。ひょっとしたら、これは極めて不真面目なことかもしれないからです。

こんなことを思い出します。
かつて大学院生だった私は研究集会で長野県内の山荘に宿泊していました。日程の中日は夕方までが自由行動で、多くの人は山に登りました。ある高名な数学者の先生は朝私たちが起きるともう山登りに出発した後でした。
先生はどこへ行ったのだろうと仲間で山を登り始めました。先生のことだから、自分の足でいくつも山を越えて湿原の方まで行かれたに違いない。私たちは同じように自らの足で山を越えはじめたのですが、ひとつの山を越えるのがやっとで、昼過ぎに諦めて引き返してきたのです。
ところが、夕方会場に姿を現した先生ははるか遠くの湿原まで行ったとおっしゃいます。ひょっとしてものすごい速さで踏破されたのでしょうか。
「いえ、手前のいくつかの山はリフトを使いましたよ。いちばん行きたい場所をしっかり歩くため、使えるものは使います。全部を自分の足で歩かなくったっていいんですよ」

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