「3児より1児の方がラク」、なんてあり得ない
小学生から2歳の子ども3人を持つ筆者(ライター・宮野茉莉子)は、よく「3人の子育ては大変でしょう」と声をかけられます。たしかに3人分なので育児にかかる「量」としては相当なものがありますが、「質」という意味ではひとりめの育児の頃の方が大変だったという記憶があります。
実際3人を育てる今の方が、ひとりめ育児時代よりも自分の時間を作れたり、おしゃれに気を回せたりしています。ではなぜ、ひとりめ育児が大変だったと思うのか、ポイントに分けてご紹介していきます。
赤ちゃんの生態が分からない
仕事でも勉強でもそうですが、「はじめてのとき」は分からないことだらけです。最初は何でもガムシャラに真面目にやるしかありません。ある程度慣れてきたところで効率のいいやり方や手の抜きどころが分かってくるもので、これは育児でも同じです。
新生児を抱く母親のイメージ(画像:写真AC)
ひとりめは、赤ちゃんの生態がすべてにおいて分かりませんでした。首がすわらない間は抱っこをするのも怖く、何で泣いてるのか、何でグズってるのか、しゃっくりをしているけど大丈夫なのか、など、とにかくすべてが「分からないし、怖い」のです。ただ一緒に遊んでいるだけでも「これで大丈夫なのかな?」と義務感と不安感につねに急き立てられているような感覚でした。
ひとりめの育児では、完璧な自炊や除菌対策に縛られてしまう母親も少なくありません。それが3人目ともなれば不安が減り、自然体で育児ができるようになり、大切なところと手を抜くところのメリハリを付けられるようになります。未知の体験であるひとりめ育児は、とにかく「大変なことしかない」状態なのです。
社会人生活時代との埋めがたきギャップ
子どもが生まれる前、社会人だった頃の筆者は、夜は飲みに歩き、休日の朝は遅くまで寝て、朝食はフルーツにコーヒー、おしゃれもメイクも趣味も、と自分の時間を存分に満喫していました。
それが一転、子どもが生まれると、夜は細切れにしか眠れなくなり、朝は早く起きて和食を作り、身だしなみはほぼノーメイクでTシャツにジーパン姿、自分のための時間はゼロ――という生活へと激変しました。特に出産直後は悪露(おろ)という出血があって、腰痛や授乳時の痛みも多いなかで睡眠時間は1~2時間、外出することもままならない、極端な生活に没入していました。
産前産後の生活のギャップの大きさに慣れるまで、1年近くもかかったことを覚えています。それに平日の昼間つねに家の中にいる自分が、社会から取り残されてしまったような感覚に陥ることも。
これがふたりめ以降になれば、育児自体の大変さは変わらないものの、一度は経験していることなので以前ほどのギャップは感じずに済みます。逆に自分の時間を作る方法を考えたり、好きだった音楽を聴き始めたりする余裕も出てくるはずです。
「ひとりめ」だからこそ、周りに頼れない
「育児は周りに頼って」と簡単に言われますが、筆者はひとりめのときほど周りに頼れませんでした。その理由は4つです。まず子どもを預けること自体が、「不安で怖い」のです。
一時保育やファミリーサポートセンターといった子どもを預けるサービスも数多くありますが、乳児や幼児初期は何が起こるか分からず、うまく説明できないほどの不安感を抱くことがあります。託児付きの歯医者もありますが「1時間でさえ託児に預けるのはためらわれる」と話す人もめずらしくありません。母親としての本能的な危機意識も大きく作用しているのだと思います。
夜泣きする子どもをあやす母親のイメージ(画像:写真AC)
ふたつめは、預けてもわが子が泣きっぱなしということに引け目を感じて「泣かれるぐらいなら自分で見る方がいい」と我慢してしまうことです。ただこれも、ふたりめ、3人めともなれば上の子を預けた経験がありますから「遠慮する必要はないんだ」と自分のなかのハードルを下げられるようになるはずです。
「周りに弱音を吐くのは恥ずかしいこと」と考えてしまうケースもあります。「母親になったのだから周りに頼っていけない」と、ひとりめ育児だからこそ完璧を目指そうとしてしまう女性は少なくありません。でも、親にも育児にも「完璧」なんてないんだ、と徐々に分かっていくはずです。それに気がつけたとき、筆者はずいぶん気が楽になったと感じました。
子どもがひとりなのだなら母親の自分ひとりでも面倒を見られるはずだと、無理をしてしまう人もいるかもしれません。でも実際のところ、子どもがひとりでもいれば、親は育児以外の何もできなくなってしまうということを知っておいてほしいのです。子どもひとりだからと遠慮せずに、ぜひ周りに頼ってください。それはまったく恥ずべきことではありません。
「子育てワールド」への違和感
子どもが生まれると、それまで自分がいた環境とは違うルールの世界に身を置くことになります。筆者はこの世界を「子育てワールド」と呼んでいます。
子育てワールドでは、自分の名前ではなく「お母さん」「~ちゃんのママ」と呼ばれることの方が多くなります。道を歩けば見知らぬ人に話しかけられ、子どもが泣けばときに冷たい視線を送られることもあります。どれもこれも、子どもが生まれる前にはあり得なかった体験ばかりです。
ごく何気ないことですが記憶に残っているのは、子ども同士ならどの子に対しても「お友達」と呼び合う習慣について。「相手の子の名前も知らないし、今日初めて会ったばかりのに『友達』っていうの?」と、慣れない言葉遣いに戸惑ったのを覚えています。
今では何のためらいもなく「お友達」という言葉を使ってわが子に語りかけていますが、ひとりめのころはそんな些細な経験ひとつとっても、まったく知らない世界に突然放り込まれたような違和感を覚えながら育児に奮闘する日々でした。
夫婦のすれ違いを回避するために
それまでは夫婦ふたりきりだった生活に、新たなメンバーが加わる、しかもそのメンバーとは生まれたての赤ちゃん――。こうなると当然、夫婦関係も変化を余儀なくされます。
はじめの頃ほど夫婦のコミュニケーションはうまくいかないもの。男性側は子どもと触れ合う機会が少なく、変化する妻に対してもどう接したらよいのか分からない状態。女性側はというと産後で心身ともにボロボロで、どの家庭であっても、夫婦喧嘩に発展することを覚悟しておかなければなりません。
ときにぶつかり、ときに諦め、ときに受け入れ学びながら、ひとつずつコミュニケーションを重ねて協力して育児ができるようになることで、だんだんと改善方法も分かってくるはずです。
子育てする夫婦のイメージ(画像:写真AC)
ひとりめの育児に苦悩しながらも周囲に頼れない、という母親は少なくありません。「いくらでも頼っていいんだよ」という助言を伝えるとともに、気軽に相談できる窓口や預かりサービスがいっそう充実することを願っています。