あらゆるモノがデジタル化するDX時代に、なぜか100年前の「行動モデル」が重要になるワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(2)
歴史の風雪に耐えた基礎的な理論・フレームワーク(思考の枠組み)を紹介し、現在でも色あせないその魅力について学んでいく連載シリーズの第2回。今回紹介する理論・フレームワークは「AIDMA」です。都内の家電量販店での体験 私事ですが、最近のショッピング体験をふたつ紹介します。 次女が4月から大学に入学することになり、3月下旬、ふたりで東京都内の家電量販店に行きました。進学・就職この時期、多数のパソコンが展示されていて目移りしますが、娘があるメーカーのパソコンに目を止めました。デザインも良く、性能も大学が指定しているスペックを満たしています。 そこにタイミングよく店員がやってきて、大学の授業でのパソコンの利用法やセキュリティー対策について丁寧に説明してくれ、そのパソコンを買おうと思いました。ただ、大学の生協でも類似した商品を売っているようなので、いったん保留しました。 そして生協よりも家電量販店の方が安いことを確認し、3日後、その家電量販店でパソコンを買いました。 パソコンを持つ男性のイメージ(画像:写真AC) もうひとつは私自身の体験です。 3月末、私のコンサルティング事務所のホームページに、動画制作会社から「プロモーション用動画を制作しませんか?」という問い合わせがありました。どういうサービスなのかイメージが湧きませんでしたが、コンサルタント仲間との会話でプロモーション用動画が話題になっていたので、話を聞いてみることにしました。 営業担当者から商談を打診されて、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」でサービスの説明を受けました。実際にほかの顧客に作成したサンプル動画を見せてもらい、だいたいのイメージはつかめました。 しかし、サンプルが小売店のもので私のビジネスとかなり違ったこと、プロモーションの効果がわかりにくかったことから、結局購入しませんでした。 AIDMAが進んだか、進まなかったかAIDMAが進んだか、進まなかったか どうして私はパソコンを購入し、プロモーション用動画の作成を購入しなかったのでしょうか。 もちろん、パソコンは買う必要があった、プロモーション用動画は特に必要ではなかったという条件の違いが大きいわけですが、もうひとつ注目したいのはAIDMA(アイドマ)です。 多くの家電量販店が並ぶ秋葉原(画像:写真AC) AIDMAは、消費者が実際に商品を認知してから購入するまでの購買行動をモデル化したもので、 Attention(注意) ↓ Interest(関心) ↓ Desire(欲求) ↓ Memory(記憶) ↓ Action(行動) というプロセスの頭文字をとっており、日本では「AIDMAの法則」「AIDMA理論」とも呼ばれています。なお記憶せず、そのまま買ったらAIDA(アイダ)になります。 パソコンの場合、 ・家電量販店で商品を見つけて(Attention = 〇) ・デザインの良さなどから興味を持ち(Interest = 〇) ・店員の説明を受けて買いたくなり(Desire = 〇) ・その場では買わず(Memory = 〇) ・他店と比較して3日後に購入しました(Action = 〇) まさにAIDMAの通り進みました。しかしプロモーション用動画では進みませんでした。 私のようなコンサルタントにとって、 ・プロモーション用動画はまだあまり身近な存在ではありません(Attention = ×) ・私はたまたま以前から少し興味があったので(Interest = △) ・営業担当者の話を聞きましたが、メリットを感じることができず、買う気になりませんでした(Desire = ×) 営業担当者の側から見ると、Attentionを高めるために広告宣伝をしてプロモーション用動画を目に触れてもらうようにする、Desireを高めるために顧客のビジネスに合ったサンプルを使って提案をする、といった対策をする必要がありました。 AIDMAの新しい展開AIDMAの新しい展開 現在、商品を売る環境は激変しています。まず基本条件として、デフレ・所得低下で、消費者はものを買わなくなっています。インターネット・SNSの普及で、双方向型のコミュニケーションが可能になりました。 またDX(デジタルトランスフォーメイション。ITの浸透による変革)の普及で、マーケティング業務の効率化が進んでいます。そして、新型コロナウイルスで対面のプロモーションが難しくなっています。 DXのイメージ(画像:写真AC) こうした変化を受け、新しい技術を取り入れたいろいろな工夫がAIDMAの各局面で求められるようになっています。 Attentionでは、インターネット広告を活用し、低コストで幅広い層にアプローチできます。ただ、情報量が爆発的に増え、自社の広告を見てもらうノウハウが必要です。 Interestでは、SNSでの情報発信によって世間に対し大きな影響をインフルエンサーを使って、自社のファン作りをすることが有効です。 Desireでは、AI(人工知能)による顧客分析でピンポイントに的確なターゲットを絞ってアプローチすることができます。 なお、コロナ禍で2020年からウェブ営業を取り入れる企業が急増していますが、対面営業と違って商品の良さを体感してもらうのが難しい、顧客の反応に応じた柔軟なレスポンスがしにくいという問題があります。 ウェブ営業のノウハウを向上させて蓄積していくのは、今後の大きな課題と言えるでしょう。 AIDMAはもう古いのかAIDMAはもう古いのか ところで、マーケティングに詳しい人にAIDMAの話をすると、「AIDMAはもう古い」とよく言われます。 「インターネットの時代にはAISAS(アイサス)だ」 「いやDECAX(デキャックス)が有効だ」 「最新はRsEsPs(レップス)だよ」 などと多種多様な新しい購買行動モデルが話題に上ります。 ちなみにAISASとは、 Attention(注意) ↓ Interest(関心) ↓ Search(検索) ↓ Action(行動) ↓ Share(共有) DECAXとは、 Discovery(発見) ↓ Engage(関係作り) ↓ Check(確認) ↓ Action(行動) ↓ eXperience(体験と共有) RsEsPsとは、 Recognition(認識) ↓ Search・Spread・Share(検索・共有・拡散) ↓ Experience(体験) ↓ Search・Spread・Share(検索・共有・拡散) ↓ Purchase(購買) ↓ Search・Spread・Share(検索・共有・拡散) を表しています。 たしかにAIDMAは、1920年代に米国で提唱された、とてつもなく古いモデルです。しかし、人間がある商品を購入するとき、その商品を認識し、関心を持ち、欲しくなり、買う、というのは普遍的なプロセスで、新しいも古いも、東洋も西洋もないのではないでしょうか。 AIDMAのイメージ(画像:写真AC) 時代の変化に合わせてAIDMAに代わる新しいモデルを探るのも悪いことではありません。しかし、AIDMAという普遍的なプロセスをベースに、新しい技術を使ってどう対応するかを考えることが、シンプルでより有効だと私は考えます。
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