代官山からガチな「下町」へ引っ越した、イラストレーターの私が「得たもの」と「失ったもの」

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代官山からガチな「下町」へ引っ越した、イラストレーターの私が「得たもの」と「失ったもの」

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おのみさ(エッセイスト、イラストレーター)

おしゃれの代名詞のような街・代官山から下町へ引っ越したエッセイストでイラストレーターのおのみささん。そんなおのさんが下町の魅力についてゆるーく語ります。

自転車で埼玉県や千葉県にも行ける

 私は24歳の時に上京して以来、50歳の今までずっと東京で暮らしています。27歳の時に代官山のオンボロ木造アパートを紹介してもらい、40歳までそこで暮らしました。オンボロとはいえ代官山ですから、恵比寿・中目黒・渋谷に自転車で行けますし、仕事の打ち合わせも、友人と飲むのもほとんど近所で済ませていました。

東京下町のヒーローといえば、葛飾柴又の寅さん(画像:写真AC)



 フリーでグラフィックデザインやイラストの仕事をしていたのに、私自身はダサかったので、おしゃれなものや文化的なものに囲まれている代官山の環境がちょうど良かったのです。

 そのアパートは本当にオンボロだったので、建て替えの為に引っ越しをしましたが、その前後もずっと東京の西側で暮らしてきました。

 40代の半ばあたりから出版不況で少しずつ収入が減ってきたので、「どうにかして家賃支出を抑えられないか」と考えていた時、下町の大衆酒場好きの人と出会い、色々な店に連れていってもらっているうちに、すっかり下町に惹かれ、初めて東京の東側・下町で暮らす決心をしました。

 下町と言っても、私が住んでいるのは昔ながらの下町ではなく、もとは田んぼや畑ばかりだったような土地。昔は自転車で恵比寿・中目黒・渋谷まで行けましたが、今は自転車で埼玉県や千葉県に行けてしまうという「国境の町」。そんな場所なので、とにかく家賃が安い。代官山時代とほぼ同じ家賃で、広さは倍以上(しかも鉄筋!)です。

 暮らしてみてわかったのは「おしゃれで文化的なもの以外は何でもある」ということ。大型スーパー、激安スーパー、24時間営業のスーパーに100円均一ショップはもちろん、八百屋や総菜屋、大衆食堂、酒場などの個人商店も充実していて、生活するのにこの上なく便利。それにお年寄りや、若い子育て世代の人たちが多く住んでるせいか、町の空気がのんびりしていて、早歩きでイライラしている人なんてほとんど見かけません。

 区民農園もあるので、田舎に移住せずとも自分で野菜を育てることも可能。私はもっぱら食べる専門ですが、地元の採れたて野菜が食べられるのはありがたいです。

17時くらいからお酒を飲み始める人もチラホラ

 そして東側は酒を飲み始める時間が早い! 西側が19時スタートだとしたら東側は17時くらいからもう飲み始め、22時には閉まる店がほとんど。私も明るいうちから飲み始めて21~22時には就寝、なんてこともよくあります(子供か!)。

 狭い町なのでよく行く飲み屋は2~3軒。そのため少しずつ面が割れ、店に入って座るといつものお酒が出てくるし、常連のおっちゃんたちともなんとなく顔見知りになってきて面白い。私もおっちゃんたちも高級店ではなく、安くて普通においしくて、部屋着のまま気軽に飲めるような店が好きなんですよね。

朝から飲めるいつもの食堂(おのみさ撮影)



 疲れている時は近所の銭湯に行き、無料のサウナでがっつりと汗をかき、すっぴんのまま近所の食堂へ。相撲中継や夕方のニュースなんかを見ながらグィッと飲むチューハイのおいしさたるや! 疲れなんか吹っ飛びます。

 近くには大きな川が流れているので、休みの日には巻き寿司や餃子やビールなんぞを買いこみ、河原に座って、広い空と流れる川を眺めながらのお昼ごはんのおいしさたるや!(公園で湖を眺めながら…というのもアリ!) これだけでも下町に住む価値があるんじゃないかと思えるほどです。

「柴又公園」で江戸川を眺めながらお昼ご飯(おのみさ撮影)

 もちろん下町暮らしは、いいことばかりじゃありゃしません。文化的なものやおしゃれなものはほとんどないので、必要な時は電車で3~4駅の栄えた町まで行きます。

 まぁそれくらいならいいのですが、仕事や飲み会などで都心に行く場合の電車賃が高い! その分、家賃が安いのでしょうがない。そして移動に時間がかかるのもしょうがない。幸い、我が町の電車はわりと座れるので、がっつりと本を読んだり、SNSを見たりして楽しんでいます。

 あと、都心での飲み会の際は必ず終電をチェックしておかないと、タクシー料金が恐ろしいことになってしまいます。常に腕時計(スマホよりチェックしやすい)を見て、終電15分前には店を出る事にしています。「飲み足りないっ!」と思っても、ベロベロに泥酔するよりいいかもしれない(数々の失敗を思い出して遠い目)。でも結局、地元とか家で飲んでしまうんですけどね。

 50歳になったら都心を離れ、すごく西側か、親が住む地方か、はたまた海外などに住んでみようかと考えていました。ひょんなきっかけで50歳手前で下町に住むことになったのですが、下町って言っても23区内だし、都心から電車で1時間弱だし、さほど生活も変わらんだろう…と思っていたのですが、自分でも気付いていなかった、代官山では満たされなかったものが下町にはたくさんあって、自分でも驚くほど楽しんでいます。

 都心のしゃれたオープンエアのカフェで食べるガレットより、河原で食べる、地元にあるパン屋で売っているおじーちゃん手作りのコロッケパンの方がおいしいと思ってしまうのは、私が50歳になったからかもしれません。

 都会の忙しい生活に疲れたら、東京の東側でのんびり暮らすという選択もアリなのではないかと、私は思っています。

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