園内にはベンチと〇〇だけ!上野・根津の「細長い児童公園」どうして生まれた?

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園内にはベンチと〇〇だけ!上野・根津の「細長い児童公園」どうして生まれた?

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若杉優貴

都市商業研究所

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お花見シーズンだけでなく年間を通して愛される上野~谷中エリア。最寄り駅の東京メトロ根津駅の近くに不思議な空間があるのをご存じでしょうか。今回は都市商業研究所の若杉優貴さんがその謎について取材しました。

東京メトロ根津駅の近くにある「狭くて細長い公園」

 上野動物園近くの不忍通り沿いに、狭くて細長い不思議な公園があるのをご存知でしょうか。その名は「台東区立池之端児童遊園」。児童遊園といっても、狭い園内には遊具などは全く置かれていません。

 ここは一体どういった場所で、どうして公園となったのでしょうか。

狭くて細長い「台東区立池之端児童遊園」、その横を走るのは台東区循環バス「めぐりん」。 写真のどこに公園があるの!?と思うかも知れませんが、ベンチがある狭い場所が「公園」なのです。(写真:若杉優貴)



幅たった3メートル、公園にあるにはベンチと電車だけ!

 台東区立池之端児童遊園があるのは、不忍通り沿いの東京メトロ千代田線根津駅の南側。上野動物園西園の池之端門にも近い場所です。銀座線上野広小路駅前にある「上野松坂屋前」バス停から都営バス「上58系統」に乗って「池之端二丁目」バス停で降りれば3分ほど。上58系統は日中約10分おきに走っている乗りやすい路線ですが、上野駅方面からは歩いても10数分なので、上野公園や不忍池あたりを散策しながら行くのも良いでしょう。

池之端児童遊園は上野駅などからも徒歩圏、近くには上野動物園西園の池之端門があります。池之端門はパンダ舎に近いため、パンダを見たついでの訪問も便利。(写真:若杉優貴)

 池之端児童遊園に着くと驚かされるのが、「児童遊園」という名前とは似つかわしくないほどの狭さ。奥行きは30メートルほどあるものの、幅は何とわずか3メートルほど。その細くて狭い園内には全体に亘ってレールが敷かれており、手前にはベンチ2台と防火用具が、そしてその奥には、敷地の大部分に都電が鎮座しています。

 果たして、この場所はもともとどういった土地だったのでしょうか。

池之端児童遊園。公園の幅は約3メートル!しかも細長い園内の敷地の大部分は「都電」です。一体この土地は…?(写真:若杉優貴)

「狭くて細長い公園」は「都電の停留所跡」だった!

 実はもともと池之端児童遊園の場所にあったのは、都電の停留所と線路。ここには、1971年まで「池之端二丁目」電停(1960年代までは「池之端七軒町」、1966年の住居表示実施後に改称)と、それに続く線路がありました。それゆえ、この公園は「細くて狭い土地」なのです。

 池之端二丁目(池之端七軒町)停留所を通る都電は須田町電停(東京メトロ神田駅北側)から根津一丁目電停(現在の東京メトロ根津駅)などを経由して江戸川橋電停を結んでいた「都電20系統」など3つの路線。線路は上野広小路方面から上野モノレールをくぐり、道路上ではない専用軌道を通って不忍通り沿いの道路上へと出ていました。ちなみに、先述した都営バス「上58系統」は都電20系統の代替となっている路線ですが、現在都営バスのほうは上野四丁目交差点を左折し、不忍池の南西を半周して根津・千駄木方面へと向かいます。

都電があった当時の池之端七軒町停留所周辺の地図。都電は上野公園入口から不忍池の東側を通って不忍通りへと抜けていました。地図上の町名は1960年代に殆ど変更されています。(1963年発行「東京都区分地図」(日本交通出版)より)

「都電の停留所跡を地域の歴史を伝える場」に――地元の声で生まれた細長い公園

 池之端二丁目(池之端七軒町)電停の跡地が池之端児童遊園となり、そして都電が設置されたのは停留所の廃止から40年以上も経った2008年のこと。保存されている都電は更新7500形の7506号です。7500形はもともと東京オリンピック・パラリンピック(1964年開催)のため1962年に製造された車両で、当初は渋谷エリアを中心に担当する青山車庫に所属していました。その後、都電が都心から撤退するのに伴い荒川車庫に移籍。1986年には車体が新しいものに更新・乗せ換えられて更新7500形となり、2008年まで活躍していました。更新7500形は荒川線の主力車両として2011年まで走っていたため、乗ったことがある人も多いのではないでしょうか。

かつて荒川線を走っていたころの更新7500形。(都電早稲田停留所) 同型は2011年までに全車引退しており、池之端児童遊園の7506号が唯一の保存車です。(写真:若杉優貴)

 通りかかった人に伺ったところ「池之端に都電が走っていた記憶を残したい」という地元の声がこの場所への都電の設置に繋がったそう。公園に設置されている案内板にもこの細長い土地を「地域の歴史が学べ、まちのランドマークとなる」場所とすべく、児童遊園として整備された旨が記されています。

 池之端二丁目(池之端七軒町)電停は1971年に廃止されており、更新7500形がこの地を走ったことはありません。しかし、設置されている7506号は車内に入ることこそできませんが、設置から16年が経過したにしては非常に綺麗な状態。地域の歴史を伝える存在として大切にされていることが伺えます。

都電7506号に設置された案内板には都電の停留所があった当時の写真も。 この細長い公園は、都電の停留所跡地を利用して「都電があったという地域の歴史を伝える場」とするべく開設されたものでした。(写真:若杉優貴)

都内各地にある「細長い土地」、実は都電の跡地かも…?

 都内には、今回紹介した「台東区立池之端児童遊園」以外にも、都電や国鉄などの線路跡を整備した遊歩道や公園がいくつかあります。あなたの身近な場所にある「細長い謎の土地」も、実は都電などの線路の跡地かも知れません。

都電の廃線跡を利用した新宿ゴールデン街の近くの遊歩道「四季の路」。 身近な場所の「細長い土地」の歴史を調べてみては。(写真:若杉優貴)

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