そもそもシェアサイクルって?
ここ1年くらいで都会の新たな交通手段として人気急上昇の「シェアサイクル」。もしも、東京に暮らしているのに、まだ使ったことがないという人がいるならもったいない。全力で利用を推薦したい交通手段です。
ちょっとした移動にものすごく便利。シェアサイクルはこれから確実に伸びる交通手段(画像:写真AC)
今や全国のさまざまな都市で導入されているシェアサイクル。まずはその概要を簡単におさらいしましょう。まずは名称について。その呼び名は、地域によって違いがあります。
・自転車シェアリング
・バイクシェア
・レンタサイクリングサービス
・シティバイク
・サイクルシェア
・コミュニティサイクル
などなど。
それぞれの名称をYahoo!検索してみたところ、最も多かったのは「バイクシェア」。こちらはNTTドコモの子会社であるドコモ・バイクシェア(港区虎ノ門)が運営するサービスの固有名詞なので、本稿では「シェアサイクル」もしくは「シェア自転車」と呼びたいと思います。
ちなみに東京都では「自転車シェアリング(コミュニティサイクル)事業」という名称を用いていますので、23区内では「コミュニティサイクル」を名乗っているところが多いのですが、サービスそのものを示す言葉としては「シェアサイクル」「シェア自転車」の方が定着しつつあるようです。
「ももちゃり」(桃太郎のまち岡山市)など、地域柄を反映した愛称があるのもかわいらしいですね。
レンタサイクルとの決定的違い
さて、シェアサイクルは従来から存在したレンタサイクルと同じく自転車の時間貸しを行うサービスです。従来のレンタサイクルと異なるのは、より利便性を高めている点にあります。
従来のレンタサイクルの場合、運営するお店や事務所で申込書などに記入して料金を支払って自転車を借ります。返却は、基本的に借りたときと場所にする決まりです。
対してシェアサイクルは、無人のサイクルポートで、自転車に装着されたカードリーダーに交通系ICカードやおサイフケータイをタッチして自転車を借りるというデジタル方式。
2021年6月1日時点のYahoo!での検索結果件数。シェアサイクル、シェア自転車など、さまざまな名称で広がりを見せている(画像:ULM編集部)
また、専用アプリにアクセスして借りたい自転車を選び、アプリ上で発行された暗証番号を自転車に入力するという方法もあります。
返却は同じ事業者のサイクルポートであればどこでもOK、料金は事前に登録したクレジットなどによる電子決済です。
最初に会員登録をして、使用するクレジットカードなどの支払い方法を登録する手間はありますが、その以降はワンタッチで利用することができます。
近年「IoT技術」という言葉をよく聞きます。IoTとは「モノのインターネット」と訳され、家電をはじめ日常に使用するものをインターネットに接続することを意味する言葉。その技術を特に身近に感じることができるのが、シェアサイクルといえます。
都内に多いのはドコモとHELLO
都内でも見かける機会が増えた大手事業者であるドコモ・バイクシェアとHELLO CYCLINGはどちらも、一度登録すればどこのエリアでも利用が可能になっています。
ドコモ・バイクシェアはエリアをまたいでの返却は不可ですが、都心10区が広域連携エリアとなっているので都心での利用なら困ることはあまりありません。
始まりは今からちょうど40年前
気がつけば存在していたように見えるシェアサイクルですが、普及のための動きは長らく続いていました。
日本では、1981(昭和56)年に仙台市で、1992(平成4)年には練馬区で社会実験が試行されました。
「シェアサイクルに関する現状と課題」より、国内おけるシェアサイクルの年表(画像:国土交通省)
その後、2005(平成17)年に世田谷区で実験的に導入されたのを皮切りに2007年に名古屋市が、2008年に千代田区が導入。2010年には富山市がポート15か所、150台で大規模な導入を実施したことで各地により事業が本格化しました。
都内では2012年に江東区が実証実験を始めた後、2016年に千代田区・中央区・港区・江東区・新宿区が区を越えて相互乗り入れできるシステムを整えて本格的に導入を始めました。
しかし、この後普及に水を差す出来事も起こります。東京と同じくシェアサイクルの導入を進めていた北九州市や和歌山市、奈良市などでは、シェアサイクル大国である中国系企業が参入したものの、短期間で撤退してしまったのです。
劇的な普及の背景に新型コロナ拡大
このことから日本ではシェアサイクルは根付かないのではないかという意見も出るようになりました。ただ、その後の同社の動向を見ると、日本での事業展開が困難だったことよりも、過当競争になった本国での事業に注力する必要があったことも明らかになっています。
実際、中国系企業に去られてしまった都市の多くでは新たな事業者が参入し、シェアサイクルは普及に向けて進んでいます。
現在、振り返ってみると日本で普及が劇的に進まなかった背景には、やはり最初の登録手続きが面倒ということがあったようです。しかし、この点は利便性が知られるにつれて次第に克服されています。
コロナ禍では、感染対策のため人との距離を取り、適度な運動をして健康を保とうとする人が増加(画像:写真AC)
そうした中で劇的に利用者を増やしたのが、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大です。
荒川区では2019年からの試験導入を経て2021年1月にHELLO CYCLINGを本格的に導入しました。
導入を後押ししたのが、利用者の急増です。荒川区では2019年には導入直後の1日平均利用回数は48回だったのが、2020年11月には346回と、7倍以上にまで激増。中でも同年4月からの緊急事態宣言を経て需要が増えたことで本格整備が決まりました。
新規会員登録は2~5割の増
2020年の統計はまだ出そろっていませんが、『東京新聞』2020年8月29日付朝刊によれば、ドコモ・バイクシェアは「緊急事態宣言前の3月と比べ、4月以降は月ごとの新規会員登録数が2~5割増えている」としています。
これまで環境への配慮や健康などを掲げて普及が図られてきたシェアサイクルですが、現状では「感染を避ける」という、より直接的な効果を求めて利用者が増えているのは確かです。
でも、単に感染を避けるという理由だけではないシェアサイクルの本当の魅力……。それは次回以降にひとつひとつ記していきたいと思います。
※ ※ ※
かつて人気を博した歌手グループ、東京プリンが1999(平成11)年に発表したシングルで、「自転車なんだよ 人生は」というタイトルの楽曲がありました。
確かに人生は、自転車のように上り坂・下り坂の連続です。でも現代は、シェアリングエコノミーの時代。苦楽も皆でシェアしながら、そう「シェア自転車」のように人生の荒波も越えて行けたならと、筆者は思うのです。