いよいよ8月開業「宇都宮ライトレール」、都電など「昭和の路面電車」とどう違う?

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いよいよ8月開業「宇都宮ライトレール」、都電など「昭和の路面電車」とどう違う?

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若杉優貴

都市商業研究所

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栃木県宇都宮市に「宇都宮ライトレール」が8月26日開業予定です。全国的に見ても路面電車が新しく開業するのは75年ぶり。都内で見られるようなレトロな路面電車とはどのような点で違っているのか、開通前見学会に参加した都市商業研究所の若杉優貴さんが解説します。

首都圏で戦後初「新・路面電車」誕生!

 栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅と東隣にある芳賀町(はがまち)を結ぶ「宇都宮ライトレール」(以下「宇都宮LRT」)が、いよいよ今年(2023年)8月26日に1期開業します。

 首都圏で路面電車が新規開業するのは戦後初、全国的に見ても1948(昭和23)年の富山県高岡市(現:万葉線)以来となります。(既存路線延伸を除く)

 21世紀初の路面電車は、都電や東急世田谷線などといった昔から残る路面電車とはどう違うのでしょうか。実際に車両に乗車して、その特徴を体感してみました。

宇都宮に登場する首都圏初「本格的ライトレール」、都電などとどう違う…? (上:宇都宮LRT、下左:都電荒川線、下右:東急世田谷線)(画像:若杉優貴)



JR宇都宮駅と郊外を結ぶ「雷都のライトレール」

 宇都宮LRTは、宇都宮市や地元バス会社の関東自動車などが出資する第三セクター企業「宇都宮ライトレール株式会社」が運営する、完全新設の路面電車路線です。

 LRTとは「Light Rail Transit」(ライトレール・トランジット)の略で、路面電車を中心とした中小容量の鉄軌道路線のことを指し、おもにLRV(「Light Rail Vehicle」ライトレール・ビークル)と呼ばれる超低床車両を用い、誰もが利用しやすい交通機関を目指すことも特徴。日本語では「次世代型路面電車」、中国語では「軽軌」と呼ばれることもあります。

 宇都宮LRTは首都圏初となる本格的ライトレールで、8月26日に1期区間として「宇都宮駅東口」電停―「芳賀・高根沢工業団地」電停間(約14.6km)が開業する予定。沿線には大型ショッピングセンターやシネコン、大学などもあり、起終点を含めて合計で19の停留所(電停)が設けられます。

起点となる宇都宮駅東口電停周辺。 東口(宮みらい地区)は再開発により以前と違う雰囲気に。(画像:若杉優貴)

 路線愛称「ライトライン」(正式名:宇都宮芳賀ライトレール線)は、雷が多い宇都宮市の愛称「雷都」にも通じることから名づけられたもので、今後は宇都宮駅西側にある中心商店街(オリオン通り)・東武宇都宮駅方面への延伸も検討されています。

 今回筆者が参加したのは、宇都宮市東部にある「清原地区市民センター前」電停で5月末に開催された開通前見学会。会場までは宇都宮駅から路線バスで向かいました。

宇都宮LRT「ライトライン」の停留所デザインと路線図。(宇都宮駅東口電停) 大谷石を使ったベンチも印象的。(画像:若杉優貴)

車両は首都圏唯一の「超低床電車」

 見学会の会場「清原地区市民センター前」電停に到着すると真っ先に目に入ったのは黄色の新車両「HU300形」。HUは「芳賀・宇都宮」の略で、ボディカラーは「雷都」をイメージしたものです。

 宇都宮ライトレールの一番の特徴といえるのが、全列車がこのバリアフリー型の超低床LRVで運行されるということ。ホームからは無段差で乗車することができ、車内もフラット構造となっています。

電停に停車するHU300形。1編成3両。(画像:若杉優貴)

 都電荒川線が乗降口の段差を解消してバリアフリー化したのは、1977(昭和52)年とかなり早かったのですが、当時は超低床電車の技術が未熟でありコストもかかるため、ホームのかさ上げと既存車両のステップ改造(乗降口かさ上げ)などによる対応となりました。

 また、東急世田谷線も2001年に同じくホームのかさ上げと車両のステップ改造などによるバリアフリー化を図っています。(世田谷線の前身・東急玉川線には1955年~1969年まで日本初のノンステップ低床路面電車「デハ200形」が導入されたことあり)

都電荒川車庫で保存されている5501号(1954~1967年廃車、左)と7504号(1962~2001年廃車、右)。都電バリアフリー化後も生き残った7504号は乗降口のかさ上げが行われたため、両車で乗降口の高さが異なります。(画像:若杉優貴)
都電荒川車庫に展示されている都電7504号の車内。7504号は1964年の東京五輪を前にデビューした電車。宇都宮LRTと比べてみると…?(画像:若杉優貴)

 多くの「路面電車が走る街」ではおなじみとなった超低床LRVですが、首都圏では宇都宮でしか乗ることができない乗り物となります。

定時制確保のカギ「全ドア乗降可能」

 ノンステップの乗降口から真新しい車内へと足を運びます。

 都電や世田谷線をはじめ、ほとんどのワンマン運転の路面電車は「乗車扉」と「降車扉」が分けられていますが、この宇都宮ライトレールは何と全ての扉からの乗降が可能。乗車時には緑色の、降車時には黄色のカードリーダーにタッチします。

宇都宮LRTの乗降口。乗降でカードリーダーが分けられています。 幅広・ノンステップで車椅子やベビーカーも安心。

 全国的にも珍しい「全扉乗降」が採用された理由は、乗降時の混雑を防ぐことで定時制を確保するため。

 宇都宮エリアでは2021年より地域オリジナルの交通系ICカード「totra」(トトラ)が導入されていますが、これはJR東日本のICカード「Suica」をベースとしたもので、宇都宮LRTではSuicaをはじめとした全国ほとんどの交通系ICカードを利用することができます。トトラを使った場合はLRTを含む宇都宮の公共交通機関でオトクにポイントを貯めることができるため、複数回乗車する人はトトラの購入をオススメします。

 なお、現金支払いでの乗降の場合は、進行方向先頭の運転台近くにある扉のみが利用でき、多くの路線バスと同様に乗車時に整理券を取り、降車時に支払う形式となります。

運転台も「昔の路面電車」とは違うイメージ。(画像:若杉優貴)

3両編成の広い車内、クロスシートの座り心地は◎

 HU300形は1編成3両。1両のみの都電、2両編成のみの世田谷線などと比べるとかなり長く感じられます。軌間(線路幅)はJRの在来線と同じ1,067mmで、都電や世田谷線(1,372mm)よりも狭いのですが、車内は広々とした印象。車幅は2,650mm(都電は約2,203mm)と国内の超低床LRVとしては最大級で、また連結部には広い貫通路が設けられているため、思った以上に開放的です。

宇都宮LRT車内・連結部。 車内は広々としており、車椅子・ベビーカー対応のフリースペースも。 天井には多くのLCD(液晶ディスプレイ)が並びます。(画像:若杉優貴)

 座席は国内の路面電車では珍しい2人がけ2列のクロスシートを採用。超低床LRVは特殊な構造ゆえ、(とくに台車を収めるタイヤハウスの上など)一部に「固くて座りにくいな…」「長く乗車してるとつらい…」と感じる座席があることも多いのですが、実際に座ったところHU300形の座席はクッションが厚く、かなり座り心地が良いことに驚かされます。

クッション性が高い椅子は座り心地抜群。椅子後ろには荷物置き。 足元の模様は「大谷石」をイメージしたもの。(画像:若杉優貴)

車内に「隠れ宇都宮」満載!

 宇都宮LRTの天井には都心の電車のように多くのLCDモニターが取り付けられており「新時代の路面電車」を感じさせられます。

 そして座席に座ると目に入る、日除けのロールカーテンに入る雷模様、足元の大谷石を模した床――車内にはこうした「隠れ宇都宮」ともいうべき「ご当地デザイン」が随所に取り入れられており、移動中にご当地感を味わえることも大きな特徴といえるでしょう。

 乗車した際には、車内にあふれる「隠れ宇都宮」を探してみては。

宇都宮LRTの車内には「隠れ宇都宮」が沢山。(画像:若杉優貴)

路線バスと「段差なし対面乗り換え」

 今回見学会が開催された「清原地区市民センター前」電停の横には、路線バスが横付けされていました。この仕組みこそが、都電や世田谷線など首都圏のほかの路面電車にはない大きな特徴の1つなのです。

 その特徴とは「路面電車と路線バスの一体整備」と「電車とバスの対面・無段差乗り換え」。このように「複数の公共交通機関の一体整備をおこなうとともに、電車のホーム横にバス停を設けて乗り換えの利便性を図る」という手法は、欧州など海外のLRTでも多くみられる手法です。

宇都宮LRTの大きな特徴の1つが「電車とバスの対面乗り換え」。(画像:若杉優貴)

 日本国内では、JR富山港線を2006年にLRT化した富山ライトレール(現:富山地方鉄道富山港線、富山市)でも「お団子と串の都市構造」と題して「生活圏・都市機能=団子」、「LRT路線=串」に見立て、団子を串でつなぎ、その団子に電停を設置して、そこからさらに枝分かれした串(フィーダーバス路線:フィーダー=支線)を伸ばすかたちで公共交通網を整備。一部電停では乗り換えの利便性を図るべく、電車のホームにバスを横付けできる構造としています。

 宇都宮LRTもこの「お団子と串の都市構造」をモデルとしており、5つの電停に「トランジットセンター」と称する路線バスとの乗り換え拠点が設けられます。

 今回訪問した「清原地区市民センター前」電停にもトランジットセンターが開設されており、電停の横にバス停とタクシープールを設置。バスやタクシーは電停のホームに横付けされるかたちで停車するため、ほぼ無段差で乗り継ぐことができるようになります。

 なお、宇都宮ではLRTの開業に合わせ、フィーダーバスの整備に加えてデマンドタクシー(予約制乗合タクシー)の充実も図られるということで、LRTの恩恵は沿線隅々にまでいきわたることになりそうです。

「軌道内通行禁止」「快速運転」も…「次世代の路面電車」一度体験してみては

 見学会終了後、ライトレールは西日に照らされながら車庫へと戻っていきました。

 都電荒川線では、JR王子駅周辺(明治通り)で軌道内をクルマが通行できる区間がありますが、宇都宮LRTは定時性確保のため、右折時などを除いて軌道内全面通行禁止。また開業数年後には、電停での追い越しを伴う快速運転が開始される予定となっており、これも都電などでは見られない大きな特徴といえるでしょう。

西日を浴びながら車庫へと戻る宇都宮LRTの試運転電車。8月26日の1期開業まであとわずか。(画像:若杉優貴)

 1期開業区間に観光客が乗車する機会は少ないかもしれませんが、もしJR宇都宮駅周辺を訪れた際には、試しに短区間だけでも乗車して「次世代の路面電車」を体感してみてはいかがでしょうか。

 そして「宇都宮周辺をクルマで走ることがある」という人は、交通ルールの確認もお忘れなく。

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