ムーミンも驚き? 本格サウナブーム支える「フィンランドの流儀」とは(後編)
サウナがブームです。1964年の東京オリンピック以降に普及したといわれるサウナですが、現在のトレンドは「フィンランド式」。いったいどういった形なのでしょうか。都内スパ、フィンランド一色のフェア開催(前編はこちら) スパ施設「タイムズ スパ・レスタ」(豊島区東池袋)では3月1日(金)から5月31日(金)までの3か月間、「フィンランドフェア」を開催しています。 光や音とコラボレーションしたサウナ「アーネトン」(画像:タイムズ スパ・レスタ)「五感でフィンランドを知って、楽しむ」をコンセプトに、光や音とコラボレーションした「アーネトン(フィンランド語で「静寂」の意味)」や、フィンランドの天然石で作られた「ポイントマッサージストーン」を体験できるサウナイベントのほか、写真家・かくたみほさんによるフィンランドの風景写真を施設内の各所に展示したり、館内BGMに現地ミュージシャンの音楽を流したり、フィンランドをテーマにした料理を提供したりと、まさにフィンランド一色のイベントとなっています。 北欧ファン「よくぞここまで」「2019年に日本とフィンランドが外交関係樹立100周年を迎えたことから、フィンランド大使館に後援いただき、春のイベントとして本イベントを企画しました。 サウナの常連の方からは『珍しくて面白い』という声を、サウナとこれまで関わりの無かった北欧ファンの方からは『よくぞここまでやってくれた』という声をいただいています。本イベントが、本場のフィンランド式サウナやフィンランドの文化に触れるきっかけになれば嬉しいです」(タイムズ スパ・レスタ担当者) フィンランド大使館「ぜひ現地へ」フィンランド大使館「ぜひ現地へ」 イベントを後援するフィンランド大使館(港区南麻布)は、近年のフィンランド式サウナのブームについて、次のように感想を述べます。 「両国をつなぐ関係のひとつが知られるようになり嬉しいです。フィンランドでは、サウナは心身ともにリフレッシュ・瞑想できる静かな空間として、テレビや携帯電話といったデジタルな『雑音』から切り離されることが良いと考えられています。 その点、テレビがよくついている日本式サウナと異なりますが、なにより重要なのは、両国がサウナを『価値あるもの』として捉えている点です。サウナは働いた疲れを癒し、家族や友人との会話を楽しむ場所。日本でフィンランド式サウナを楽しんだら、次は海や湖が身近で自然豊かなフィンランドを訪れ、現地のサウナをぜひ体験してください」(フィンランド大使館) フィンランドの森の湖畔にたたずむコテージと、その中に設置されたフィンランド式のサウナ(画像:写真AC) また、フィンランド政府観光局は2018年9月、次のような声明を出しています。 「サウナではすべての人が平等です。フィンランドの人たちは、上下関係がフラットだと言われますが、その秘密はサウナの中にあるのかもしれません。さらに、かつてフィンランドでは、サウナの中で出産や亡くなった方のお浄めが行われ、とても神聖な場所とされています。まさにフィンランドの人の生活はサウナなしには語れません」(フィンランド政府観光局) サウナ好きが高じて、自ら作った企業もサウナ好きが高じて、自ら作った企業も そんなフィンランド式サウナに魅せられ、なんと自社で作ってしまった企業が東京にあります。ウェブ制作を手掛けるLIG(台東区小島)です。 「The Sauna」と名付けられたサウナ。そのヒーターは電気式ではなく、なんと薪式。場所は、長野県の北端に位置する信濃町の野尻湖畔です。 「The Sauna」は「CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA」同様、水着着用タイプの混浴サウナで、ロウリュのほか、ウィスキング(白樺の葉っぱを使ったマッサージ)も楽しむことができます。 そして、なんといっても水風呂の代わりが野尻湖の水か、長野県ならではの雪。現在、利用できるのは同社運営の「ゲストハウス LAMP(ランプ) 野尻湖」の宿泊客のみとなっています。同社に制作の詳細を聞きました。 2018年秋から制作、2019年2月オープン――サウナを作った経緯を教えてください。 本事業は、当社で広報を担当していた社員・野田クラクションべべー(以下、野田)の発案で始まりました。当社は自社のウェブメディア「LIGブログ」を運営しており、その企画の一環として2016年、野田が日本一周にチャレンジしました。 「The Sauna」の前に立つ野田クラクションべべーさん(画像:LIG) 旅の途中、野田はお遍路を体験し、炎天下のなか山道を歩き続け、偶然立ち寄った高知県田野町の「たのたの温泉」でサウナの魅力に目覚めたそうです。 野田は東京に帰ってきてからも毎日サウナに通い続け、約1年後、「自分が本当にしたいことは何か」と考えたときに、自分が救われたサウナの気持ちよさを少しでも多くの人に伝えたいと思い立ったといいます。 そこから、当社が長野で運営する「ゲストハウス LAMP 野尻湖」の近くで大自然に囲まれたサウナを作ることを構想し、当社で事業として行うことになりました。企画が通ったのは2018年夏で、サウナの制作は秋からです。約半年をかけ、2019年2月に「The Sauna」はオープンしました。 「日本独自のサウナ文化を」の声も「日本独自のサウナ文化を」の声も――なぜ、フィンランド式を選んだのでしょうか。 サウナの研究を進めるなかで、野田はフィンランドを訪れました。そこで電気やガスではなく、「薪」の放つ柔らかい熱に感動し、フィンランド式サウナを日本に広めたいと思ったようです。ロウリュが大好きだったことも理由のひとつです。また、気候や豊かな自然があるなどの点から、野尻湖近辺でフィンランド式の「自然のなかで楽しむサウナ」を再現できると考えたとのことです。 「The Sauna」に設置された薪式のヒーター(画像:LIG)――「The Sauna」を通して、世に訴えたいことはありますか。 老若男女問わず、気さくに話をしながら汗を流し、リフレッシュできるような体験を多くの人に届けたいと考えています。そして、「The Sauna」をきっかけにサウナを好きになってもらい、自宅近くのサウナに足を運んでもらうことで、日本のサウナカルチャーを盛り上げ、アップデートしていきます。 ――最後に。 日本にも川や湖は多いですが、夏以外は観光資源としてあまり活用されていません。しかし、そのような場所にサウナを作れば、1年中活用できます。自然と調和しながら水場を楽しめるモデルケースとして、「The Sauna」の「アウトドア×サウナ」というカルチャーを広めていきたいです。 ※ ※ ※ ロウリュの実施から、さらに本格的な薪式サウナまで、日本に広がりつつあるフィンランド式サウナ。ロウリュを行わず、「高温低湿」な旧来の日本式サウナは今後、その姿を減らしていくのでしょうか。前出の日本サウナ・温冷浴総合研究所は、日本古来の銭湯文化の観点から、日本式サウナの今後を話します。 「1591(天正19)年、江戸城内にある銭瓶橋(ぜにがめばし)の近くで初めて開業して以来、銭湯は公衆浴場における『蒸気浴』として親しまれてきました。その文化は日本人のDNAに組み込まれているといっても過言ではありません。そのため、フィンランド式サウナを模倣するだけではなく、日本が(蒸気浴/熱気浴である)サウナ文化を独自に発展・進化させることを期待しています」(日本サウナ・温冷浴総合研究所) フィンランド式サウナと日本式サウナから、それぞれからどのような文化が醸成されていくのか、今後も目が離せません。
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