ジェンダーレス男子の先駆け? 90年代登場の「フェミ男」は性差の壁を超え始めた偉大な存在だった
1990年代にさっそうと現れた「フェミ男」を覚えていますか? 従来の「男らしさ」を脱却したその魅力は、当時多くの話題を呼びました。ルポライターの昼間たかしさんが解説します。「フェミ男」とは何か 編集者の深澤真紀さんが2006(平成18)年10月に、『日経ビジネス』オンライン版の連載「U35男子マーケティング図鑑」で命名した「草食男子」という言葉は、その3年後の2009年の流行語大賞トップテン入りを果たし、社会にすっかり定着しました。 草食男子とは、 「性格がおだやかで協調性に富み、恋愛や異性関係に対して執着の薄い男性」(小学館デジタル大辞泉) のこと。 この言葉が知られ始めた当時、恋愛に対してガツガツしない若い男性は少し奇異の目で見られていましたが、今ではひとつのライフスタイルとして受け入れられています。 草食男子以前に、昔からの「男らしさ」とは異なる男性像が世に広まったことがあります。それは昭和が終わってしばらくたった1994(平成6)年頃のこと。現れたのは「フェミ男」という言葉でした。 ジェンダーレス男子のイメージ(画像:写真AC) 言うまでもなく、フェミとは「フェミニズム」の略語です。フェミニズムとは本来、 「女性の社会・政治・法律上の権利を拡張し、女性の地位を高めようという主義」(精選版 日本国語大辞典) という意味ですが、当時の日本社会には一般的に広まっておらず、 ・女性のような感性を持っている ・女性に優しい男性 を指す表現として使われていました。 むしろこうした誤読した理解のほうが多数だったことは、女性問題の専門家として取材を受けた官僚が「フェミニストというと女性に甘いと思われる」と、現在ならかなり問題のある発言をしていることからもうかがえます(『朝日新聞』1985年5月10日付夕刊)。 こうした背景を踏まえ、フェミ男は女性向けファッションで用いられていた「フェミニン」と「フェミニズム」が混在する形で「女性のような雰囲気が漂う男性」を指す言葉として用いられ始めるようになったといえます。 1993年9月頃から登場した「フェミ男」1993年9月頃から登場した「フェミ男」 フェミ男の登場に最初に言及したのは、雑誌『アクロス』1994年5月号です。最新トレンドの分析を得意とするこの雑誌では、世に増えている女性的な男性たちを 「カマ男が街に増殖した理由」 として取り上げています。なお「オカマ」という言葉の是非が広く議論の対象になるのは21世紀以降のため、言うまでもなく、揶揄(やゆ)する意味としては使われていません。 同号では後に「フェミ男」と呼ばれる新しい男性群は、1993(平成5)年9月頃から登場したとしています。その特徴はファッションです。 「キャスケットに、撫(な)で肩にピッタリした上着、柳腰にフレアパンツ、ピアス、ネックレス、指輪などのアクセサリー。DC衰退後の80年代後半から、10大の男の子を支配し続けたカジュアル・ファッションとは、明らかに趣向の違う」 ファッションが多様化した現在、このようなファッションの人たちは取り立てて珍しい存在ではありません。しかし1990年代は違いました。 ピアスをした男性のイメージ(画像:写真AC) とりわけ男性向けのなで肩ファッションはなく、こうしたものを好む男性たちはレディースの服を着ている人が少なくありませんでした。そんなスタイルが「男性が女性服を着るのか」と珍しく見られたのです。 この象徴的な存在だった芸能人が俳優の武田真治さんでした。「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリに輝いた武田さんは中性的な美貌で人気でしたが、当時の評価を見ると 「ちょっと前ならヘンなやつで、終わっていたでしょう」(『週刊朝日』1994年7月1日号) とも記されていて、時代変化の象徴だったことがわかります。 「フェミ男」が与えた新しい社会的価値「フェミ男」が与えた新しい社会的価値 フェミ男登場の背景には、女性文化が活発になったことがあります。 1990年代の女性文化の代表はコギャルですが、それに限らず、女性の好むファッションや音楽などが注目された時代でした。こうした 「女性のほうが流行に敏感でセンスが優れている」 ということに気づいた男性たちが、女性のファッションを取り入れていったのです。 男性と女性(画像:写真AC) また、こうした文化は男女関係の在り方にも変化をもたらしていきました。 それまで男女間の関係といえば恋愛が意識されがちでしたが、フェミ男の登場で、男女が友人として気軽に付き合うことが当たり前に。1980年代までの主流だった「肉食スタイル」は、むしろガツガツしていて見苦しいと思われていくようになりました。 前述のように、ファッションやルックスに注目されがちなフェミ男ですが、実は ・男女が共通した文化を楽しめること ・女性文化の影響力 を世に知らしめた存在でした。今、漫画や映画でも男女関係なく楽しめる作品が増えている源流はまさにここにあるといえるのです。
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