景品ゲーム機が「ゲーセン」救う? ピークの7割、救世主は「3本の爪」だった
リーマンショック以降、大幅な落ち込みを見せていたゲームセンター市場。しかし数年前から底を打ち、2017年度は前年比3.1%増の回復を見せています。市場規模は10年で約30%縮小 メダルゲームからプライズゲーム(景品〈プライズ〉を獲得するゲーム)、テレビゲーム、音楽ゲームまでが一堂に並ぶ近年のゲームセンター。見ているだけでも心が躍ります。 多くの業務用アミューズメント機製品が発表された「ジャパン・アミューズメント・エキスポ 2019」の様子(2019年1月25日、國吉真樹撮影) 業務用のゲームメーカーや、ゲームセンターから成る業界団体「日本アミューズメント産業協会(JAIA)」(千代田区九段南)が2018年11月に発表したレポートによると、日本国内の2017年度におけるアミューズメント産業の市場規模は、前年比3.1%増の6388億円となりました。 この値は、業務用アミューズメント機製品販売高(ゲーム機の販売高)と、オペレーション売上高(ゲームセンターの売上高)を合算したもので、特に後者は5.2%増と好調です。 売上をけん引したのはプライズゲームで、そのなかでも「3本爪のクレーンゲーム」が大きく貢献。人気キャラクターの大型ぬいぐるみやコアユーザー向けのフィギュア製品のほか、ハンドスピナー、デジタル機器といった景品の需要が高かったとのことがその要因となりました。 ここまで一見好調に見えるアミューズメント産業ですが、実は10年前と比べると市場規模は約30%も縮小しているのです。いったいなぜでしょうか。アーケードゲーム業界向け業界誌「月刊アミューズメント・ジャーナル」副編集長・焼田芳生(よしお)さんに聞きました。 スマホアプリゲームの台頭も影響スマホアプリゲームの台頭も影響――なぜ約30%も減少しているのでしょうか。 アミューズメント産業(ゲームセンター業界)は、2006(平成18)年のオペレーション売上高(ゲームセンターの売上高)の7029億円をピークに、2008(平成20)年のリーマンショック直後から下降局面に入りました。 なかでも2008年は前年の6781億円から1000億円以上減少。それ以降、2014年まで減少が続き(4222億円)、そこから2017年度の調査(4859億円)まで、少し持ち直している状況です。 アミューズメント産業の市場規模を示したグラフ(画像:日本アミューズメント産業協会)――その理由とは。 世界的な経済不況により、世間の消費マインドが著しく落ち込んだことが影響しました。このようなことが起こると、アミューズメント産業は真っ先に抑制されます。来客数や店舗での使用額が減少し、経営を維持できなくなり、廃業、もしくは新規の設備投資の減少という「負のスパイラル」に巻き込まれたのです。 また、2010年代はスマートフォンが普及し、無料で遊べるアプリゲームが盛んになりました。ゲームセンターはゲームの質においてはまだ優位でしたが、若者の可処分所得と可処分時間(自分の意思で使えるお金と時間)が変化したことで、需要がアプリゲームへとシフトしました。これもアミューズメント産業不振の一因です。 また、復調の気配があるゲームセンターの売上高と異なり、ゲーム機の販売高はこの数年、前年比微減です。 一番の要因は、ゲームセンターの数がこの10数年でかなり減っているため、アーケードゲームの開発メーカーが減少しているからです。オンラインやカードシステムなどのアーケードゲーム機が進化を続ける一方、開発コストが大きく膨らみ、製品単価が上昇。購買力のある大型店舗でしか高単価の製品を購入できず、一部のヒット機以外はなかなか売れない状況となったのです。 ゲームセンターの売上高にしても、ゲーム機の販売高にしても、ジャンル的にメダルゲームの減少幅が大きく、ピークの2006年と比べて、2016年は半分程度になっています。その一方、プライズゲームは比較的検討しているジャンルといえます。 売上の多くを支えるプライズゲーム売上の多くを支えるプライズゲーム――日本アミューズメント産業協会のレポートでは、店舗数の減少が著しい理由について、不採算店舗の撤退や運営企業の廃業、事業譲渡が進んだとしています。 理由のひとつとして、ゲームセンターというビジネスモデルが「限界」を迎えているためです。限界を占める大部分は、店舗の「利益率」の部分です。ゲーム機の価格が年々高騰していく中、売上減が続くと新規マシンを導入できなくなります。そうした店舗は競合力が薄れ、顧客が他店舗に流れてしまうといった、負のスパイラルに陥ります。 また、消費税増税の影響も大きいですね。ゲームセンターのゲームは、一般的にワンコイン(100円)から2コイン(200円)で遊べると考えられています。そのため、増税となっても値上げに踏み切れず、増税分(3%)がそのまま利益から削られます。 近年のオンライン使用のビデオゲーム機は、レベニューシェア(成果報酬型の契約)がほとんどです。ゲーム機の金額を抑える代わりに、店舗の売上の一部、例えば「100円の売上に対して、店舗が20円程度をゲーム機メーカーに支払う」ことになっており、これも店舗の利益を削る一因となっています。そのような状況下で、体力のある大型店舗以外は店舗を維持できず、廃業や事業譲渡、業態転換が進んでいるのです。 「3本爪」のクレーンゲーム(2019年1月25日、國吉真樹撮影)――その一方、プライズゲーム、特に大型景品に対応した3本爪のクレーンゲームが好調です。なぜですか。 現在、ゲームセンターの売上はプライズゲームが支えています。一部の店舗では、店舗全体の売上高に占める割合が50%を超えています。 3本爪クレーンが好調な要因は、3本爪がプレイヤーに「景品を取れやすそう」と感じさせるからです。実際、多くの3本爪のクレーンゲームは、景品をそこそこ持ち上げ、1プレイに対して何らかのアクションを加えます。 それ以前にあった、2本爪のクレーンゲームのプレイ方法が2000年代中ごろから変わり、クレーンのアームで「景品を持ち上げて穴に落とす」から、「景品を少しずつ移動させ獲得する」といった形式に変わりました。 景品の取らせ方に変化が景品の取らせ方に変化が――それがどのように関係しているのですか。 これは、「景品の原価に対して、店舗がどのくらいの利益を見込んでいるか」という「ペイアウト率」の調整に関係します。景品の原価が規程で定められた「上限800円」になり、品質の高い景品が主流となった結果、ペイアウトを調整するため、クレーンの「アームがゆるく、取りづらい」設定となることが増えたのです。 「景品を少しずつ移動させる」手法を使えば、景品を獲得できますが、そのようなことを知らない初心者は「持ち上げよう」とした結果、アームが景品をすり抜けるような状況が続いたのも、プレイ意欲減少の一つの要因かと考えます。 それ対して、3本爪は前述のように景品をそこそこ持ち上げるため、プレイ意欲が高まり人気となったのです。また、マシンそのものが大きく、目を引く大型のぬいぐるみを獲得するのに適したマシンだったことも関係しています。 小型のクレーンゲームも3本爪がほとんどになりました。小型は「景品の取りやすさ」がファミリー層に受け、特にショッピングセンター内のゲームセンターで人気です。 ゲームセンターは、子どもからシニアまで楽しめる(画像:日本アミューズメント産業協会)――最後に、ゲームセンターの楽しみとは。 ゲームセンターは「リアルな場」です。だからこそ体験できる楽しさがあります。メダルが大量に払い出される興奮や、プライズをゲットした時のドキドキ感、友だち同士で楽しむ対戦・協力型のゲーム機など、スマホアプリのゲームにはない魅力に溢れています。若年層もそのような部分を再評価し始めていますし、2020年の東京オリンピックを前に、インバウンド(訪日外国人)の増加も期待されます。 ゲームセンターは子どもからシニアまで、幅広い世代が一様に楽しむことができる希有なレジャースポットですから、ぜひ皆さんに楽しんでいただきたいですね。 ※ ※ ※ 業界の構造が変化しつつあるアミューズメント産業。今後の動きに注目です。
- ライフ