人はなぜ「散歩番組」を思わず見てしまうのか? 過去から現在までを振り返って考えてみた
かつては珍しかった大人の平日散歩 僕(高杉順平、芸能コラムニスト)はあちこちに雑文を書くことを仕事にしており、サラリーマンではないため、平日の昼間に都内をブラブラ歩くことが習慣になっています。 今ならそんなこともありませんが、かつてはいい大人が昼間からブラブラしているのは怪しいということで、近所の人から警察を呼ばれたこともあります。事情を説明するとすぐにわかってもらえましたが、当時は珍しかったのかもしれません。 そうやって昼間からブラブラしていると、町の変化やそこを歩く人たちの変化もわかってきます。 散歩好きに人気の台東区・谷中銀座(画像:高杉順平) 2006(平成18)年くらいから、仕事をリタイアした人たちが散歩をする光景をよく見るようになりました。理由はいくつかありますが、ひとつは当時始まったテレビ朝日の『ちい散歩』の影響だと思われます。 『ちい散歩』が面白かったワケ『ちい散歩』は俳優・地井武男さんが散歩の達人としてさまざまな町を歩く番組で、僕もよく見ていました。 この番組は散歩ブームの火付け役となったと言われ、実際にその影響力を目の当たりにしたことがあります。 『ちい散歩』のウェブサイト(画像:テレビ朝日) ブラブラと散歩している途中、僕が動画を撮影していると、高齢の女性に「ちい散歩の方?」と声をかけられたのです。このご婦人は、僕が『ちい散歩』のスタッフで、ロケ地の下調べをしていると思われたようです。 『ちい散歩』の面白さは、スタッフが入念に下調べをした町の情報をベースに、地井さんが散歩しながら、目についたところで足を止め、ロケを行うスタイルを採っていました。 実際は事前に取材のアポを入れているのですが、どこか予定調和ではない面白さがありました。こういった散歩番組はそれまでありそうでなかったため、人気が出たのでしょう。 また、番組のスタッフだった人から聞いたのですが、地井さんはスタッフ全員の名前を覚えていて、ひとりひとりを名前で呼んでいたそうです。そういう心遣いがチームの団結力を高め、面白い番組を作るきっかけとなったのかもしれません。 その後、『ちい散歩』の関連本を持って散歩する人を多く見かけるようになりました。僕も書店でそれらの本を探したところ、多く並んでおり、これはひとつのムーブメントだと感じました。 地井さんの後任も人気地井さんの後任も人気 しかし地井さんの体調が悪化し、『ちい散歩』は2012年に終了しました。その後、同じ放送枠で、加山雄三さんによる『若大将のゆうゆう散歩』が始まり、その後は高田純次さんによる『じゅん散歩』となり、今に至っています。 『じゅん散歩』のウェブサイト(画像:テレビ朝日) 加山さんはスターの輝きがあり、まるでお殿様の散歩という感じで、地井さんとはまた違った面白さがありました。 高田さんの『じゅん散歩』は面白さで言えば、これまでの中で最高です。お店の情報などはあまり伝わってこないのですが、地元の人たちとのやり取りで彼のユーモアセンスが爆発しています。エンターテインメント性を突き詰めた結果、こういったスタイルになったのかもしれません。 深夜番組『夜はクネクネ』のインパクト 皆さんは、『遠くへ行きたい』という散歩番組をご存じでしょうか。日本テレビ系列の読売テレビで1970(昭和45)年から放送され、現在も続いている長寿番組です。 かつては、2016年に亡くなったラジオパーソナリティーの永六輔さんがさまざまな街を歩くなど、細部まで作りこまれた番組として知られています。 また、毎日放送で1983(昭和58)年から1986年まで放送されていた『夜はクネクネ』もインパクトのある散歩番組で、深夜に放送されていました。 アナウンサーの角(すみ )淳一さんとタレントの原田伸郎さんがただ街をブラブラ歩き、そこで出会った素人とトークをするという、ただそれだけなのですが伝説的な番組として知られています。 今でこそ、素人とのやりとりを面白おかしく演出して話を引き出す散歩番組は多いですが、まさにその元祖と言える番組なのです。 これらのやり取りから僕が感じたのは、 「どんな人でも掘り起こせば、面白い人生がある」 ということ。これが散歩番組の醍醐味(だいごみ)といってもよいでしょう。 現在それを地で行っているのが、NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』や、テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』でしょう。 『家、ついて行ってイイですか?』のウェブサイト(画像:テレビ東京) 特に『家、ついて行ってイイですか?』は、番組のスタート場面こそ街ですが、主役は家であり、そこに住んでいる人です。 YouTubeの散歩番組にも期待YouTubeの散歩番組にも期待 僕も散歩をする中でさまざまな人と出会いますが、テレビ番組に出てくるような面白い人に巡り合うことはまずありません。まさにテレビならでは、といったところでしょうか。 東京散歩の1コマ(画像:高杉順平) しかし、散歩の途中で人に道を聞きながら歩くのはとても楽しいことです。今はコロナ禍で大変ですが、テレビ番組だけでなくYouTubeも含め、散歩番組の可能性はまだあると信じています。僕は新しい散歩番組の誕生を、今でも楽しみにしています。
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