鼻孔をくすぐる郷土の香り 都内に進出加速「地方発コーヒー店」の魅力とは
近年、地方発のカフェが都内に続々進出しています。その魅力とはいったい何でしょうか。法政大学大学院政策創造研究科教授の増淵敏之さんが解説します。「珈琲所 コメダ珈琲店」の関東進出 近年、地方発のカフェを東京で見かけることが多くなりました。 その先鞭(せんべん)をつけたのは、「珈琲所 コメダ珈琲店」(以下、コメダ珈琲店)です。同店のフランチャイズ展開は現在加速し、2020年2月末時点で「珈琲所 コメダ珈琲店」(873店)となっています。 「珈琲所 コメダ珈琲店」三鷹上連雀店(画像:(C)Google) なお同店を運営するコメダ(名古屋市)は、「甘味喫茶 おかげ庵」(11店)、コッペパン専門店「コメダ謹製 やわらかシロコッペ」(10店)、セルフサービス型店「コメダスタンド」(1店)、ベーカリー「石窯パン工房ADEMOK」(1店)も手掛けています。 コメダ珈琲店は2003(平成15)年に初めて関東へ進出、2019年には青森県に進出し、全都道府県への出店を達成しています。2016年には上海にも出店し、海外にも目を向けています。 出店加速の背景には、2008(平成20)年に投資会社「アドバンテッジパートナーズ」(港区虎ノ門)、飲料メーカー「ポッカコーポレーション(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ。名古屋市)」の出資があるといってよいでしょう。 創業は50年以上前 創業は1968(昭和43)年で、コメダという名前は創業者の家業が米屋だったところから来ているといいます。 コメダ珈琲店で有名なのは、何と言っても「シロノワール」です。シロノワールはソフトクリームを載せたデニッシュで、パンケーキブームの追い風を受けて「コメダ珈琲店」の定番となりました。 「珈琲所 コメダ珈琲店」の「シロノワール」(画像:コメダ) なお名古屋は朝食を家でなく、カフェで取る人も少なくないため、カフェのモーニングサービスが名物となっているなど、独自のカフェ文化が形成されていることでも知られています。 札幌発のカフェも札幌発のカフェも また日本橋や新橋駅前などにある「宮越屋珈琲」は札幌発のカフェです。 1985(昭和60)年、札幌の円山地区にて創業。現在は宮越商事、ミヤコシヤサンズ(ともに札幌市)が展開し、北海道を中心に業務委託含めて27店舗を構えています。日本橋と新橋駅前のほか、東京には銀座や恵比寿、目白、町田に出店。 同店のルーツは、宮越屋という札幌の老舗旅館です。2代目の息子たち3人はそれぞれにカフェを経営し、同チェーンの創業者は末っ子にあたります。 さて「宮越屋珈琲」は店舗によっては店名を変えるほど、各店舗の個性が異なります。創業者が学生時代に歌手・中島みゆきとギター仲間だったこともあってか、店舗の幾つかは音楽を意識した造りになっています。 「宮越屋珈琲 新橋店」の外観(画像:(C)Google) 東京の店舗でもっとも北海道の店舗に近いのは新橋店(港区新橋)です。れんがを使った内装やテーブル、椅子などの調度品は本来の「宮越屋珈琲」の雰囲気を漂わせています。筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)もかいわいに用事があるとき、足を向けるカフェのひとつです。 茨城からの刺客 さらに現在話題になっているのは、1969(昭和44)年に茨城県ひたちなか市で創業した「サザコーヒー」です。同店も「宮越屋珈琲」同様、異業種からの転換です。「サザ」とは、茶道の表千家の「且座(さざ)式」という儀式が由来となっています。 もともとは1942(昭和17)年開場の「勝田 宝塚劇場」という映画館から始まり、1989(平成元)の本店建設に伴い映画館は廃業、本格的にチェーン展開を行っていきます。 2005(平成17)年に、エキュート品川(港区高輪)で初めての東京出店を果たします。現在は品川のほかに丸の内、二子玉川に出店。都内外の直営店だけで14店舗を展開しています。 世界初のゲイシャ専門店・「サザコーヒー KITTE 丸の内店」の外観(画像:サザコーヒー)「サザコーヒー」の大きな特徴は、コロンビアにコーヒー豆の自社農園をふたつも所有していることです。コーヒーを文化として捉える経営者の姿勢が、「サザコーヒー」の哲学なのでしょう。 一時のはやりに迎合するのではなく、自社農園で採れたコーヒー豆を使用したり、各国のコーヒー生産者と提携して高品質の豆を買い付けたりしてできた現在のコーヒーは、一種の芸術と呼ぶことができます。 東京で「地方発」を味わえる喜び東京で「地方発」を味わえる喜び また、日本でもっとも人気のあるカフェのひとつである「SHOZO CAFE」も2018年、「SHOZO COFFEE STORE 北青山店」(港区北青山)を出店しました。 「SHOZO COFFEE STORE 北青山店」の外観(画像:(C)Google)「SHOZO CAFE」は1988(昭和63)年、栃木県黒磯のアパートの2階に開店しました。それが「1988CAFE SHOZO」(栃木県那須塩原市)です。現在では系列店として、「NASU SHOZO CAFE」(同県那須町)、「SHOZO SHIRAKAWA」(福島県白河市)があります。 2018年の北青山店出店以前に、同店は2012年にコーヒースタンド「SHOZO COFFEE STORE」として、南青山の屋台村「246COMMON」に期間限定でオープン。その後、同スポットを引き継いだ「commune 2nd(現・COMMUNE)」で復活営業し、現在に至ります。 「SHOZO CAFE」といえばコーヒーもさることながら、スコーンなどの焼き菓子も有名です。また黒磯には小物や雑貨を扱う「SHOZO 04 STORE」もあり、現在のカフェブームの火付け役にもなったカフェといえましょう。 独自の文化を楽しもう 地方発のカフェが東京に出店する理由は、その市場規模の大きさや全国ブランドへのアプローチなど、いくつかあります。ただ文化的側面から見ると、地方発のコーヒー文化を東京で楽しめるのはうれしいことです。 京都の「イノダコーヒ」は東京大丸支店(千代田区丸の内)を出店しました。同店でミルクと砂糖入りのコーヒーを頼むと最初からコーヒーに入った状態で運ばれてくるので、これも独自の文化と言えます。 「イノダコーヒ 東京大丸支店」の外観(画像:イノダコーヒ)「森彦」(札幌市)を始めとする札幌のカフェは深入りのフレンチローストが主流ですが、同店は東京のスーパーで「森彦の時間 森彦ブレンド」を販売し始めました。浅入りが主流の東京で、同店のコーヒーはどのように捉えられるのでしょうか。地方発のカフェの今後が楽しみです。
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