昭和のプール必須アイテム 「洗眼器」「腰洗い槽」が知らぬ間に姿を消したワケ
昭和・平成初期には必ずあったプールの洗眼器と腰洗い槽ですが、今ではその数を急激に減らしています。いったいなぜでしょうか。エデュケーショナルライターの日野京子さんが解説します。夏に欠かせない学校のプール 小学校では季節ごとにさまざまな行事が行われます。そのなかでも「今年もこの時期がやってきた」と最も感じるのは、やはりプールの授業でしょう。 小学生にとって、プールは夏に欠かせません。体育の授業に限らず、昭和・平成初期の夏休みにはプールが当たり前のように開放されていました。 しかし現在は子どもの安全面や監視員確保の難しさもあり、自治体によっては中止や規模縮小傾向の動きとなっています。 昭和のプールサイドにあった洗眼器 東京都内の学校のプールは屋内プール・温水プールが多数ですが、かつては当たり前にあった設備もなくなっています。 それは洗眼器です。蛇口が上を向いている独特な形状の洗眼器は一定の年代にはおなじみで、プールサイドには欠かせない存在です。 洗眼器(画像:photolibrary) かつては、プールを出た後に目を洗うことが当たり前。目を洗うのに行列を作ったり、蛇口を思いきりひねって噴水のようにしたりして、先生によく怒られた経験のある人は少なくないでしょう。 しかし令和となった現在、子どもたちが洗眼器に群がることはありません。昭和・平成初期は ・プールの塩素を洗うため ・感染症防止 といった意味合いで、洗眼の指導が積極的に行われていました。しかし時代が変わり、学校でもスイミングスクールでも、先生から「目を洗いなさい」と声がけがされることはもうありません。 洗眼は数秒にとどめることが大切洗眼は数秒にとどめることが大切 洗眼器が使われなくなったのは、目の健康への認識が変わったためです。近年、水道水で長く目を洗うと目の粘膜を保護する成分が洗い流され、角膜を傷つける恐れがあるという考えが浸透しました。 プール(画像:写真AC) 日本眼科医会の学校保健部が2016年に発表した「眼科学校保健 資料集」の「プール後の洗眼とゴーグル使用についての見解」には、洗眼は数秒にとどめることが望ましいと記載されています。 話はそれますが、洗眼器自体は無くなったわけではありません。化学製品を扱う工場などで異物が目に混入した際の応急処置として、設置が義務付けられています。 腰洗い槽は必須ではない そして、洗眼器同様に忘れられないのが「腰洗い槽」です。こちらも洗眼器と同様、現在の学校プールで必須ではなくなりました。 腰洗い槽とは、プールに入る前に漬かった塩素臭の漂うお風呂のような設備です。記憶に残るくらい強烈な臭いを覚えている人も多いでしょう。 現在は水を循環ろ過する装置が整備されているプールが多いですが、かつては水質管理が難しかったため、別名「プール熱」と言われる夏風邪やさまざまな菌の感染予防対策として、腰洗い槽は設置されていました。塩素濃度は国により指定されていました。 プールのビート板置き場(画像:写真AC) 水質基準について、学校のプールは文部科学省、学校外のプールは厚生労働省が定めており、文部科学省も腰洗い槽の使用に関して方針を変更しています。また、厚生労働省が2001(平成13)年に発表した「遊泳用プールの衛生基準に関する指針の一部改正」で、腰洗い層の項目も削除されました。 現在はろ過装置を完備する学校のプールは95%を超え(文部科学省平成30年度「学校環境衛生管理マニュアル」より)、腰洗い槽を積極的に使用する理由、義務付ける理由がなくなりました。 ただ、ろ過装置設備のないプールについては衛生面から腰洗い槽の使用を望むとしており、こちらも完全に姿を消したわけではありません。 昔の常識は通用しない昔の常識は通用しない 洗眼器や腰洗い槽を経験した世代にとって、当時は何の疑いもなく使っていましたが、かつての常識が覆るのは世の常。変化が少なさそうに見える学校でも、昔の常識は通用しなくなっています 洗眼器(画像:photolibrary) ひんやりとした腰洗い槽に体を沈め、キャーキャー騒ぎながらカウントダウンをした記憶も、プールから出た後に競うようにして洗眼器に並び、遊び半分で目を洗った思い出も、今の若い人たちに話しても通じません。 太陽の光で水面がキラキラ輝いていた学校のプールの思い出すら、昭和を知る世代にとっては遠い過去のものとなったのです。
- ヘルスケア