渋谷ハロウィーンに飽き飽きしたあなたへ……「板橋」は、ひと味違うぞ! 人情とぬくもり通うドタバタ模様【連載】東京商店街リサーチ(番外編)
毎年大勢の人出で賑わい、昨年は逮捕者まで出てしまった巨大繁華街・渋谷のハロウィーンイベント。あの騒々しさは正直もういいよ……と思っている人へ、東京を代表する庶民的住宅街、板橋区で行われた商店街ハロウィーンの様子をご紹介したいと思います。フリーライターの荒井禎雄さんがナビゲートします。このハロウィーンは、「板橋らしさ」の爆発だ 板橋区の商店街でハロウィーンイベントがいっせいに行われたのは2019年10月26日(土)。イベント名と開催場所は、次の通りです。 1. 「いたばしこどもハロウィン」 11時~15時 at 板橋駅前本通り商店街ほか(JR板橋駅西口) 2. 「ハロウィンイベント」 16時~ at 板橋宿不動通り商店街 3. 「2019ハロウィンフェスティバル in 仲宿」 16時~ at 仲宿商店街 板橋の商店街で行われたハロウィーンイベント。ファミチキの恰好をしたコンビニ店員からお菓子をもらう子どもたち(画像:荒井禎雄) イベントの概要は「仮装をした子どもたちに商店街の従業員たちがお菓子を配る」という、その説明を聞いただけなら実に微笑ましいものです。しかし、その実態は「板橋らしい」というか「ぶっ飛んでいる」というか、とにかく突っ込みどころ満載な無二のイベントになっていました。 「板橋とハロウィーン」という組み合わせが、なぜ絶妙なのか イベントの中身に入る前にまず、会場となった板橋駅前~不動通り~仲宿という商店街の土地柄について触れておきたいと思います。 この3つの商店街はすべて旧中山道沿いにあって、じつは江戸時代の中山道の第一の宿場「下板橋宿」そのものなのです。当時の名称で言うと平尾宿~中宿となります(これに上宿 = 本町商店街が加わる)。 この一帯はいまだに当時の宿場通りが商店街としてそのまま残っていて、JR板橋駅から環七とぶつかる辺りまで三間~三間半の道幅がおよそ2kmに渡って続いています。 今回のハロウィーンイベントは、この旧下板橋宿を端から端までまるまる使った一大イベントでした。言うなれば「由緒ある江戸時代の宿場町で、今どき流行りの舶来イベントが開かれる」という、なかなかねじれた和洋折衷の催しだったのです。 旧中山道の板橋一帯は、古くは鎌倉時代に源頼朝が陣を張ったとされ、義経の行軍記録も残されています。さらには安土桃山時代には上杉謙信らの軍勢も通ったという、歴史的に見て極めて重要な道。そこを今は思い思いのハロウィーン仮装をした子どもたちが「トリック オア トリート!」とさけびながら練り歩く。そう考えると筆者はジワジワと面白くなってしまいます。 ただ、甲冑(かっちゅう)で身を固めるか、オバケのコスプレをするか、というちょっとした違いでしかないので、案外違和感はないのかもしれません。 下板橋の中心地・中宿こと仲宿商店街。大勢の親子連れで商店街は最高潮の盛り上がり(画像:荒井禎雄) さて、前置きが長くなりましたが、2019年下板橋宿のハロウィーンイベントの様子を見て行きましょう。アンチ渋谷ハロウィーン派の人も、そうでない人も必見です。 初めてのハロウィーンイベントに、うろたえる商店街の店主たち初めてのハロウィーンイベントに、うろたえる商店街の店主たち まずは「不動通り商店街」へ。筆者は子どもを連れて、JR板橋駅方面川から入ってみました。この商店街の南側の入り口は現在の中山道に面していて、昔「平尾追分」と呼ばれた辺りになります。 ちなみに平尾追分とは街道の分岐点で、日本橋 → 巣鴨 → 板橋と至った旧・中山道が、ここで旧・川越街道と分岐していた場所です。このふたつの旧街道は現在、商店街として多くの軒が連なっている、板橋区にとって非常に重要な道。そう、じつは板橋区の南部エリアは、江戸時代から街の中心地がちっとも変わっていない地域なのです。 さて、不動通り商店街はこのハロウィーンイベントに参加するのは今年が初めてだそうで、いろいろな部分に「慣れていなさ」が垣間見えました。その筆頭が南側入り口すぐの某店です。 店先で、店のおじちゃんにお菓子を求めて群がる子どもたち。おじちゃんが一生懸命配っているものは何だろうとのぞき込んでみるとと、それはなぜか「熱中症対策の塩分チャージ飴」90g入りの大袋でした。それも子どもひとりに1袋ずつ。 個包装された飴玉ひと粒くらいがハロウィーン的には適量かと思うのですが、きっとおじちゃんは初めてのハロウィーンで勝手が分からず、「子どもたちにお菓子をあげねば!」という思いが暴走してしまったのかと思いました。庶民の善意とぬくもりがちょっと空回りした、何とも板橋区らしい光景でした。 これがハロウィーンで配るお菓子……? どこかズレていて憎めない、板橋の商店街店主たち(画像:荒井禎雄) ちなみに肝心の子どもたちは、この予想外な飴袋にやや面食らった様子。手に持ったお菓子入れ用バケツには収まりきらず、すぐ母親に押し付けていました。この商店街を行き交う母親たちの手に手に、同じ熱中症対策飴の大袋が握られていたことは言うまでもありません。 板橋の商店街が、人混みで埋め尽くされた日板橋の商店街が、人混みで埋め尽くされた日 不動通りは商店街の中にタワーマンションが建つなど住宅街化が進んでしまっている一角ですが、この日ばかりはここ何年か覚えがないような賑わいを見せました。 おそらく、筆者が子どもの頃(昭和50年代)の人通りと遜色(そんしょく)のない通行者数。少子化が言われて久しいものの、そんなことなど信じられなくなるほど子どもたちで溢れかえっていました。 イベントに参加しているのは、老舗店から新しいお店、チェーン店まで分け隔てない顔ぶれ。そんなところにも、まだまだ不動通りは商店街としての未来があると感じさせられました。このことが、筆者にとっては今回のイベント最大の収穫だったかもしれません。 お次は、仲宿商店街へ。 仲宿は日常の買い物に使われているまだまだ元気な商店街で、毎日けっこう人通りのある場所です。しかし……、この日は商店街の中央に近付くにつれてどんどん人が多くなり、ぎゅうぎゅうに。ついには道の先が完全に人で埋め尽くされて、先が見えないほどになってしまいました。 満員の通勤電車か? と思うほど、ぎゅうぎゅうの人で埋め尽くされた仲宿商店街の真ん中へん(画像:荒井禎雄) ここは近所の氷川神社の氏子が多くお祭りが賑やかに執り行われる地域ですが、まるでその氷川神社の大祭で神輿(みこし)や山車(だし)が通るときのような人の波です。 言い伝えによるとこの土地の氷川様は、1200年頃に建てられたのだとか。そんな歴史ある神社のお祭りに、早くも規模で並ぼうとしているハロウィーンの求心力たるや。その効力は渋谷のみにはとどまらないようです。 直線距離で500m以上もある仲宿商店街は、このハロウィーンイベントの中心的存在。参加店舗もとても多いはずなのに、それを上回るほどの人通りで、ほとんどお店に回れません。運良く行列に並べたとしても、ほとんどのお菓子が売り切れてしまって閉店……という大盛況ぶりでした。 表通り側から攻め始めた人々と、反対側から歩き始めた人間が、ちょうど仲宿の真ん中でぶつかって、もはや前にも後ろにも進めず。残念ながらここで子どもを抱えて離脱しました。 最後の最後であまりの人通りに驚きましたが、スタートした16時頃はまだ平穏だったため、来年参加する方は15時過ぎ辺りに商店街にいるようにし、16時のスタートと同時に回れるだけ回って、ダメだと思ったら早々に退散という作戦が良いと思われます。 肝心の子どもたちはというと、手に持ったバケツにそれなりの量のお菓子が貯まったので充分に楽しかった様子。人通りのすごさは幼児でも分かったようで、お菓子切れで幕切れという残念な結果にも、駄々をこねる子はあまり見かけませんでした。 商店街にこそ、ハロウィーンは必要だ商店街にこそ、ハロウィーンは必要だ 今回の板橋のハロウィーンをひと言で表現するならば、「巨大商店街を守り抜いて来たからこそできたイベント」ということでしょう。 仮装してお菓子をもらいながら歩く子どもからすれば、お菓子をもらえるお店は多い方がいいに決まっています。 ところが、シャッター店がほとんどという商店街でハロウィーンをやろうとすると、イベントに参加するお店を確保することがまず難しく、結局どこかに配給所的なるテントを建てて、そこで子どもにお菓子を配るというやや味気ない手法にならざると得ません。 しかし今回の板橋のように店舗数にも道幅にも余裕のある商店街ならば、商店街全体を巨大なイベントスペースとして仕立て上げることが可能になります。街全体を巻き込むようなスケール感の非日常 = 「ハレの空間」という演出が、親子連れをこんなにも楽しませられるということを筆者は今回のイベントに参加してあらためて感じさせられました。 昔ながらの商店街というものは、買い物をするための場所というだけでなく、「道そのものがインフラである」という見方をすることもできます。今回のようなイベントは、その商店街の特性を存分に活かした、原点に立ち返ったものであるとも言えるのではないかと思いました。 老舗の家具屋にもハロウィーングッズが。もはや商店街にあるお店なら、何屋であっても参加OK!(画像:荒井禎雄) 仲宿商店街の人通りの多さにははっきり言って面食らいましたが、2020年、2021年と繰り返していくごとに慣れてきて、だんだんと改善されていくと思います。そうなれば、ゆくゆくは区民祭りや「いたばし花火大会」のような区を代表する催事のひとつに数えられるようになるかもしれません。そんな日を筆者はとても楽しみにしています。 そのためにも住民である私たちが、普段から「商店街」というインフラで買い物をし、買い支え、守っていきたいと、あらためて思う2019年のハロウィーンでした。
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