デフォルメされる東京 ハリウッド映画から見たその姿とは
タランティーノは「日本オタク」 日本では2019年8月30日(金)から全国320スクリーンで公開されたクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が順調なスタートを切っているようです。 クエンティン・タランティーノ監督(画像:Art Streiber、ザ・シネマ) レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットの2大スターが主演を務めていることもあり、アメリカでも好調だったと報じられています。なお日本公開前には、タランティーノとディカプリオがジャパンプレミアに出席のため、来日しました。 この作品は1969(昭和44)年に起きた俗にいう「シャロン・テート事件」を題材に、かつての西部劇俳優とそのスタントマンが事件に巻き込まれていくというものです。本作品中に日本の風景は登場しませんが、タランティーノは「日本オタク」といわれるほど日本映画や文化に造詣が深く、作品にもそれらの影響が散見されます。 彼の作品でもっとも日本テイストが強いのは、2003(平成15)年の『キル・ビル』でしょう。ユマ・サーマン演じる主人公「ザ・ブライド」ですが、『Vol.1』は日本が舞台という設定で、お台場周辺の道路も登場します。 メインの舞台になる高級料亭「青葉屋」のモデルは西麻布の居酒屋「権八」(港区)といわれています。しかし青葉屋のシーンは中国にセットを作って撮られました。東京は映画の撮影許可を得るのが難しい都市のため、仕方ありません。 ただ作品はチャンバラや日本刀、ヤクザなどが盛りだくさんで、役名やせりふ回し、演出などに日本映画へのオマージュが盛り込まれており、タランティーノの日本愛を充分に感じることができます。ちなみに2004年には、続編となる『Vol.2』が公開されており、日本や東京の風俗や特徴がデフォルメされ、とても興味深いです。 タランティーノは黒澤明や深作欣二などが好きで、先日の記者会見では彼らの古い邦画DVDを探していると話していました。またレオナルド・ディカプリオやキアヌ・リーブス、スティーブン・タイラー、レディ・ガガなどは東京を始めとするさまざまな場所に足を運んでおり、日本好きであるのがうかがえます。 東京に改めて気付く契機に東京に改めて気付く契機に 2000年以降に設立した全国のフィルムコミッション(映画やテレビなどの撮影を誘致する組織)の努力にはもちろん頭が下がりますが、東京を舞台にした海外の映画作品の数は意外と少ないのが実情です。 『ウルヴァリン:SAMURAI』に登場した増上寺と東京タワー(画像:写真AC) しかし、2013年公開の『ウルヴァリン:SAMURAI』はスタッフが相当頑張ったのか、撮影許可をもっとも得るのが困難といわれる、新幹線を使ったシーンが出てきます。またウルヴァリンの登場シーンでは増上寺、東京タワー、秋葉原、そして広島県福山市の鞆の浦(とものうら)までが網羅されていました。なお、三池崇史監督の『藁の盾』(同年)はJRから許可が下りず、台湾で撮影されたといいます。 筆者(増淵敏之。法政大学大学院政策創造研究科教授)がもっとも記憶に残っている東京ロケの作品は、『キル・ビル』の『Vol.1』と同じ年(2003年)に公開された、ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』です。 コッポラ監督のお気に入りのホテル「パークハイアット東京」を舞台にした作品で、多忙なカメラマンの夫に構ってもらえない若い妻と、盛時を過ぎた孤独なハリウッド俳優の淡い恋を描いた内容となっています。ほとんどが東京ロケで、新宿の電気量販店や渋谷のカラオケ店、中目黒駅周辺、中野の成願寺(中野区本町)などが印象的でした。しかし作中に登場したクラブ「代官山AIR」は、2015年に閉店しています。 東京に住む日本人からすれば日常の風景ですが、銀幕に映る風景は少し非日常の感覚を呼び起こします。つまりそれらは外国人の視点から見た東京の風景なのです。これはおそらく私たち日本人が外国を訪れて見る視点に近いものなのでしょう。しかし外国人の監督が撮った日本や東京を描いた作品は、そういう意味で私たちが日頃見落としていたものに、改めて気付く契機を与えてくれるものなのかもしれません。 多様な魅力を内包する東京多様な魅力を内包する東京 映画を始めとするコンテンツはその都市や地域のイメージを「対外的に伝える」という役割を担っています。前述のとおり、2000年以降は日本でもフィルムコミッションが積極的な姿勢を見せています。いくつかの都市では海外にも積極的にアプローチを行い、それが訪日外国人客の増大のひとつの遠因にもなっているようにも思えます。 『ロスト・イン・トランスレーション』に登場した中目黒駅周辺の様子(画像:写真AC) 東京は多様な魅力を内包している都市です。もちろん生活圏に影響を与えるオーバーユース(酷使)では困りますが、もっと多くの外国人に東京の魅力を発見してもらいたいとは思います。 確かにそういう意味では21世紀になるまで、日本はどちらというと内向きの国だったのかもしれません。初めて訪日外国人観光客が1000万人を突破したのが、2013年でした。それ以降、急激に増加しており、2018年では3119万人を越えました。 これからどんな監督が東京の風景を作品の中に映し出してくれるのか、とても楽しみです。とくに外国人の視点から見た風景は日本人とはおそらく感覚的に違うものになるかと思いますが、それはそれでとても興味深いと思います。またタランティーノも次作で引退などと発言していますが、その作品が日本や東京に関連する作品になることを期待するのは筆者だけではないような気がします。
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