池袋の雑踏に消えた14歳の少女 東京の若者はなぜ絶望と孤独に苦しむのか
2019年10月23日
知る!TOKYO若者の生きづらさをテーマに20年以上取材を続けるライターの渋井哲也さん。渋井さんには、忘れられないひとりの少女の死の記憶があります。
かつて取材した若者たちが、自殺に追い込まれた
筆者(渋井哲也。フリーライター)は、若者の生きづらさをテーマに20年以上取材を続けています。
大きな事件として世間を騒がせたものについては、自著『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)に詳しくまとめました。同著では「生きづらさはネット空間で解消できるのか」というテーマにも踏み込んでいます。
取材してきた若者の多くがそれぞれに悩みを抱えていたからでしょうか。筆者が話を聞かせてもらった人のうち、知りうる限りで40人ほどがすでに自殺しています。そのほとんどは新聞の片隅の小さな記事にもならないまま、社会に知られることなくひっそりと自らの生涯に幕を閉じました。ここでは、都内の私立女子中学に通っていたひとりの生徒についてお話ししたいと思います。
「援助交際をしてみようと思うんです」
「友達としてなら会ってもいいですよ」
アオイ(仮名、享年14)に取材を申し込むと、返ってきたのはそんな答えでした。
そもそも知り合ったきっかけは、彼女から筆者のウェブサイトを通じてコンタクトを取ってきたこと。私、援助交際をしようか迷ってる、相談に乗ってください、そんな内容のメールでした。
筆者が援助交際というテーマについて取材を始めたのは1990年代後半のこと。体験者への取材を重ねるほどに、背景には必ずと言っていいほど虐待やいじめ、体罰、性被害の経験があることを思い知らされます。援助交際とはある種の自傷行為の形態であり、「承認されたい」「誰かとつながっていたい」という心理の表れであるということを、話を聞くたび痛感させられていました。
アオイもまた、希望を追い求めながらも自棄な思いを抱えた少女でした。「自分も援交をしてみたい」と思うに至るまで、彼女はいったい何を経験してきたのか。話を聞かせてほしい、と思いました。

あのころのアオイは強く友達を欲していました。ネットで知り合った面々とのオフ会をたびたび企画して、筆者もその場に招かれたことがあります。たいていは都内のカラオケックスが会場で、集まるのは10代から30代の男女10人ほど。
共通するのは、アオイ自身を含めて全員が「虐待サバイバー」だということです。そしてそのうちの半数が、性的虐待の経験者でもありました。しかしオフ会では互いに何かを話し合うこともなく、いつもそれぞれが好きな曲を歌って過ごしていました。悩みを赤裸々に打ち明け合うよりも、ただ一緒に過ごす時間の方が、彼らにとっては必要だったのかもしれません。
厚生労働省がまとめた全国の児童相談所の児童虐待対応件数は、2017年度、15万9850件。筆者が生きづらさについて取材を始めた1998(平成10)年度は6932件だったので、この20年で20倍以上に膨れ上がった計算になります。
ちなみに都内の虐待対応件数は1万3707件(17年度)。全国の8.6%を占めています。
おすすめ

New Article
新着記事
Weekly Ranking
ランキング
- 知る!
TOKYO - お出かけ
- ライフ
- オリジナル
漫画