都内の古き良き銭湯が次々とリニューアルしている深刻な事情
近年加速する銭湯ブーム。そのブームと時を同じくして、都内の古い銭湯がリニューアルをしているといいます。いったいなぜでしょうか。温泉ソムリエマスターの高橋里実さんが取材しました。友人を連れて、「THE・銭湯」へ 昨今は空前の銭湯ブーム。テレビやラジオでも、銭湯やサウナを題材とした番組をよく目や耳にするようになりました。 富士山のタイル絵がある銭湯(画像:写真AC) それは私(高橋里実。温泉ソムリエマスター)の周囲にも響いているようで、これまでまったく興味のなさそうだった友人から「銭湯に連れて行ってほしい」「オススメを教えてほしい」と言われることが増えました。 銭湯好きとしてはとてもうれしいことなのでここぞとばかりに、宮造りで、番台があり、富士山のペンキ絵があるような「THE・銭湯」を教えて、一緒に行ってみることにしました。 常連客とのコミュニケーションも醍醐味 外観を見て「風情があるね」と喜んでいた友人でしたが、実際に浴室内に足を踏み入れると開口一番「かけ湯ってどこでするの?」の質問。カラン(蛇口)を教えると「シャワーが取れないんだけど!」と不思議そうな表情。これには周囲のおばあちゃんたちも思わず吹き出してしまい、みんなで一生懸命に教えてくれました。 銭湯のカラン(画像:写真AC) 当たり前だと思っていた銭湯内の文化が、想像以上に知られていないことに気付きましたし、同じ日本人同士でも銭湯慣れしていない人がこんなに身近にいるのだから、外国人はわからなくて当然なのかもしれないなと感じました。 それでもそんな物珍しさにプラスして、大きな湯船にゆったり浸かれる解放感や、浴室で知り合ったおばあちゃんたちとのコミュニケーションなど、銭湯の醍醐味も存分に味わえたようで帰り際には、「他の銭湯も行ってみたい!」と満足気な顔が見られて一安心しました。 増税やオリンピック、後継者不足などが影響増税やオリンピック、後継者不足などが影響 ここ数年、多くの銭湯がリニューアルしたという話を耳にするようになりました。銭湯業界で初めてプロジェクションマッピングを取り入れた「久松湯」(練馬区桜台)や、大正ロマンをコンセプトにした「はすぬま温泉」(大田区西蒲田)、スタイリッシュでモダンな雰囲気になった「改良湯」(渋谷区東)など、新しく生まれ変わった個性の光る銭湯が増えています。 妙法湯の外観(画像:高橋里実) 2019年1月には妙法湯(豊島区西池袋)もリニューアル。フロントロビーの床にはベルギー製新素材を使用、大きなポイントは水の機能性とのことで、日本で初めて「軟水炭酸シルキー風呂」を導入したそうです。そんな妙法湯の店主・柳澤幸彦さんに、なぜ最近リニューアルする銭湯が増えているのか伺ったところ、 「まずは消費税増税が大きいですね。それと昭和の終わりから平成の初めに建て直した銭湯が多く、時期も時期なんです。あとは、オリンピックの影響もあります。オリンピック終了後は景気がどうなるかわからないので、先にやっておかないと時期を逃して廃業しなくてはならない心配がありますから」 と話してくれました。 また、ある銭湯関係者は、 「代変わりのタイミングで直しているところも多いのかと思います。リニューアル系の銭湯が増えているというよりは、リニューアルできるところが少ないから、できるところが注目されているのかもしれませんね。また、お金の問題だけでなく、経営者に何かあったとき、後継ぎがいるかという問題もあります。いなければ自分の代で終わりにするという判断をするでしょうし、銭湯を貸している人はやる人がいなければマンションにしたほうが利回りのいい場合もあるでしょうし……銭湯経営者は『経営者』なので、稼ぎがでないことはやらないですよね」 とのこと。 銭湯のリニューアルの裏には、増税やオリンピック、後継者不足など社会の影響が大きく反映されているようです。 新旧両方を楽しむのがグッド リニューアル系銭湯には、細かい設備も現代風に変わったところが多くあります。それこそ取り外しのできるシャワー、最新式ドライヤー、温水便座式トイレなどが導入され、銭湯に馴染みのない人たちでもわかりやすいものが増えたように感じます。 妙法湯に掲げられた説明書き(画像:高橋里実) それでも銭湯特有の温かいコミュニティは変わらずそこにあり続けます。古き良き文化を残しながら、時代に合わせて進化する銭湯。460円で体感できるのですから、新旧両方を訪れて楽しんでみるのも良いかもしれません。
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