新型コロナで話題の「9月入学」、実はかつての日本で主流だった
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、話題となっている学生の「9月入学」案。その歴史と実施後の懸念について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。自治体トップも「9月入学」を提案 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、小学校から大学まで、広範囲にわたって授業の再開がままならない状態が続いています。そうしたなか、宮城県の村井嘉浩知事をはじめとする自治体トップたちは「9月入学」を提案、国会の質疑に取り上げられるなど大きな波紋を呼んでいます。 入学式のイメージ(画像:写真AC) 9月入学は新しい制度のように聞こえますが、決してそんなことはありません。実は学制(日本最初の近代学校教育制度に関する基本法令)が公布された明治時代、日本の学校年度は9月だったのです。 今回は日本と世界の年度の違いや、9月入学を乗り越える難しさを考えていきます。 世界は「新年度 = 9月」 これまでに多くのメディアも取り上げていますが、アメリカや中国、ヨーロッパ各国の新学年は9月に始まります。 フランスでは感染拡大の影響で本年度を全て休校にし、オンライン授業などに切り替えて、9月から本格的に再開すると発表しました。イタリアも3月時点で年度末の6月まで休校措置を取るとしています。 日本では、感染拡大が年度末から年度初めにまたがったことで、教育現場に大きな混乱が生じています。各国の対応を見ていると、9月スタートの方が新入生や受験生の負担が少ないような印象を受ける人も少なくないでしょう。 9月入学は留学生来日のきっかけに(画像:写真AC) これを機に日本が学校年度を世界標準に合わせれば、海外の学校へタイムラグがなく進学でき、逆に留学生も母国と新学期が統一されているため、ちゅうちょなく来日できます。 こうしたことからも、世界標準から外れていることで優秀な留学生が日本を敬遠するのではないかーーという懸念材料は解消されるのです。 偶然が重なり合って4月年度初めになった日本偶然が重なり合って4月年度初めになった日本 日本はほぼ全ての年度が、4月に始まり、3月に終わるシステムを採用しています。 世界を見回してみると学校年度と会計年度を統一していない国は多く、中国や韓国、ドイツ、フランス、ロシアの会計年度は1月からとなっています。 これらの国の中で、学校が9月から始まらないのは韓国(3月新年度制)だけです。他にも、アメリカの会計年度は10月始まりとなっているのです。 日本の年度が全て4月で統一されたのは、1886(明治19)年4月から会計年度にイギリス方式を取り入れたことや、軍の入隊届け出日を9月1日から4月1日に変更したことが発端です。 時を同じくして、教員養成機関である東京高等師範学校(現・筑波大学)が創立し、他の学校は新年度が9月から始まるところを、同校は4月と設定したのです。 筑波大学のキャンパス内の様子(画像:(C)Google) このことは、他の学校にも影響を及ぼしました。 明治政府が西洋の制度を取り入れた9月入学は1887年前後から徐々に形骸化していき、大正時代に入ると高等学校、そして1921(大正10)年には帝国大学も4月入学に変更。現在に続く学校年度が定着しました。 秋入学実施の有名大学も ここまで日本独自の「全ての年度始め = 4月」の経緯をたどってきましたが、世界から見ると完全に「ガラパゴス化」しているといっていいでしょう。 こうした状況に危機感を覚えた東京大学(文京区本郷)は、2012年に秋入学実現を提唱し、本格的に議論した時期もありました。しかし企業や高校は従来通りの4月新年度ということもあり、結局計画は頓挫。現在に至ってます。 東京大学の外観(画像:(C)Google) しかし本格導入は断念したものの、東京大学や上智大学(千代田区紀尾井町)をはじめとする有名大学では秋入学・入試を積極的に行い、海外の優秀な学生や日本人帰国子女の受け入れを行っています。 経済界でも、秋入学の待望論は海外に事業展開する企業から出ていますが、教育機関以外はほとんど行われていないのが実情です。最高学府である大学でさえ、秋入学・入試の対応がはっきり分かれていることを踏まえると、まだまだ温度差は否めません。 日本全体を再構築するに等しい行為日本全体を再構築するに等しい行為 一部の例外を除き、日本のシステムの年度が4月から始まる現状を考えると、9月入学に対してやるべきことは山積しています。 新型コロナ感染拡大の影響で大きな岐路に立たされた日本(画像:写真AC) 導入により、生徒の学年を決める誕生月を改めて振り分けるなど、保護者からの異論や反対の声が出ることは避けられません。また、企業側も学生の卒業時期が大きくずれることで、就職セミナーの企画や、会計年度の途中で新入社員が入ることで生じる混乱も予想されます。 9月入学の提案は学校教育に直接関わるため、今まさに生まれたばかりの赤ちゃんや保育園、幼稚園に通う幼児にも影響を及ぼします。単に「4月から9月に変更します」と一言で済まされることではなく、日本全体のシステムを全て再構築、見直す必要があるのです。 明治時代に西洋にならって9月入学としたものの、紆余(うよ)曲折あり、小学から大学まで4月入学が定着し、約100年が経過しました。 新型コロナ感染拡大の影響とはいえ、くしくも100年ぶりに9月入学の復活が本格的に議論されることになるとは、明治・大正時代の人たちは考えてすらいなかったでしょう。
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