あなたが思い浮かべる「これぞ東京」という景色・建物は何ですか?
約40年前に東京都が行った「新東京百景」。その名の通り、都内のさまざまな風景を選定する取り組みです。そんな新東京百景について、フリーライターの出島造さんが解説します。都内計100か所の風景を選定 いきなりですが、皆さんが思い浮かべる「これぞ東京」という景色は何でしょうか。湾岸タワマンエリアのような近未来的な情景、もしくは上野公園のような古くからにぎわう場所、東京タワーのような東京の発展を象徴する歴史的建造物など、さまざまでしょう。 そんな東京を象徴する風景を選定する試みが、かつて行われたことがありました。1982(昭和57)年10月に、都民の日(毎年10月1日)制定30周年を記念して行われた「新東京百景」です。 千代田区千代田にある二重橋(画像:写真AC) 選ばれたのは区部から56か所、多摩から33か所、島しょ部から11か所の計100か所で、誰もが納得する東京の風景。1番目の二重橋と皇居外苑(がいえん)に始まり、千鳥ヶ淵から日比谷、東京駅と丸の内ビル街、大井埠頭(ふとう)中央海浜公園とモノレール、石神井公園と三宝寺池、志木街道のけやき並木、奥多摩湖、三原山など各地域から満遍なく選ばれました。 景勝地より都会の人工美に軍配景勝地より都会の人工美に軍配 選定方法は、学識経験者が選んだ約200の候補地から都民が投票で100か所を選ぶというもの。 当初の予定では、「人々の心に感動や安らぎを与える景勝地」を選ぶことが新東京百景の目的でしたが、ふたを開けてみれば、都民が支持したのは「都会の人工美」のほうが多く、新宿の超高層ビルや池袋のサンシャインシティ、多摩ニュータウンなどが選ばれました。 豊島区東池袋にあるサンシャインシティ(画像:写真AC)『週刊文春』1982年9月16日号はこの状況について、大都会ならではの結果であり、欧米との貿易摩擦、ウサギ小屋、交通渋滞を連想する人も多くないと否定的に論評しています。 今でこそ東京タワーや多摩ニュータウンに歴史を感じますが、当時は歴史的価値を感じる人はまだ少なかったのです。これは、現代における歴史的建造物の保存問題も同様です。 「東京都選定歴史的建造物」とは 東京都は「東京都選定歴史的建造物」という選定を行っています。建造物は東京都の景観条例に基づいて選定されますが、その基準のひとつに「原則として建築後50年を経過していること」が定められています。 ちなみにこの制度で指定されている建造物には、聖路加国際病院のチャペルおよび付属する旧病棟(1933年完成、中央区明石町)や立教大学本館(1918年完成、豊島区西池袋)などがあります。ちなみに重要文化財になると欠番になるため、三越本店(1914年完成、中央区日本橋室町)などはこちらには含まれていません。 東京都景観条例が制定されたのは1997(平成9)年。このときに築50年と言うと1947年。この年に生まれた人は既に70歳を過ぎています。2020年の50年前は1970(昭和45)年となります。 この年に完成したよく知られてる建物を見ると、2020年3月に閉館した東急百貨店東横店、建て替えが予定されている世界貿易センタービル(港区浜松町)などがあります。ただし五反田TOCビル(東京卸売りセンター、品川区西五反田)は現役です。 品川区西五反田にある五反田TOCビル(画像:(C)Google) ついこないだまで現役だった建物や、いまだ使われている建物が歴史的建造物の対象になり得ると考えると、少し不思議な気がします。そのため、新東京百景の選定時にも同様に違和感を抱く意見があったのは当然と言えるでしょう。 選定から長いときを経て、今となってはどれも歴史を感じる風景へと変化しています。例えば新宿のビル群がかつての淀(よど)橋浄水場から高層ビルへと変わっていった流れを知れば、歴史に思いをはせることができ、楽しいのではないでしょうか。 練馬版「百景」の濃密さ練馬版「百景」の濃密さ 新東京百景は東京都全体で100か所だったことから、選ばれなかった地域では独自に地域の風景を選定する動きも見られました。 例えば練馬区では1987年12月に「ねりま百景」を選定しています。これは東京都より熱が入っていて。まず区民から候補を募り315か所をピックアップ。それを学識経験者らで200か所に選んだ上で、候補地をプロの写真家に依頼して撮影。区内の7か所で写真展を開催した上で区民投票を行ったのです。 ここまで熱が入っていたのは、練馬区が同事業を練馬区独立40周年記念の一環で実施していたからです。 こうして選ばれた百景には三宝寺池(石神井台)や、長命寺(同区高野台)などが選ばれる一方、光が丘団地(光が丘)も入りました。 練馬区光が丘にある光が丘団地(画像:(C)Google) これを報じる『読売新聞』1987年12月12日付朝刊でも光が丘団地の選定は「異彩を放つ」としていますが、現代では練馬区の風景を語る上で外せないエリアとなっています。 こうした風景の選定は、東京都の多くの区市町村で実施されています。かつての最新場所の変化を楽しんでみませんか?
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