東農大と東工大が合体? 隠れた名門「東京農工大」とはどのような大学なのか
理系学生以外にはあまりなじみのない東京農工大学。しかし実は「THE世界大学ランキング日本版2020」にも堂々ランクインする名門大学です。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。東京農大とイメージがかぶる? 東京都内には、「東京」の名前がつく国立大学が八つあります。 ・東京大学(文京区本郷) ・東京外国語大学(府中市朝日町) ・東京工業大学(目黒区大岡山) ・東京芸術大学(台東区上野公園) ・東京医科歯科大学(文京区湯島) ・東京学芸大学(小金井市貫井北町) ・東京海洋大学(港区港南) ・東京農工大学(府中市晴見町) その中でも一般的に知名度があまり高くなく、さらに同じ都内にある私立大学の東京農業大学(世田谷区桜丘)と混同されがちなのが、東京農工大学です。 東京農工大学・府中キャンパスの外観(画像:(C)Google) また名前に「工業」とついていることから東京工業大学との区別ができず、「一体どんな大学なのか」と思う人も少なくないでしょう。 今回は地味だけどすごい、そんな東京農工大学に迫っていきたいと思います。 農学部と工学部は別の教育機関だった 東京農工大学は、農学部と工学部の2学部からなる国立大学です。繰り返しになりますが、付属高校が甲子園に出場すると応援団がアルプススタンドで大根を持って威勢よく応援する東京農業大学とは、全く別の大学です。 その歴史は都内大学の中でも古く、農学部は明治政府の内務省が1874(明治7)年に開設した内務省勧業寮内藤新宿出張所の農事修学場を起源としています。1877年には、樹木試験場を設立。農業と林業のふたつの教育機関を有していました。 修学場は移転し、名称を駒場農学校に改めました。なお、現在の東京大学農学部、筑波大学生物資源学類もその流れをくんでいます。 農学部の源流はその後、帝国大学農学部乙科から帝国大学農科大学実科、東京帝国大学農学部実科へと受け継がれ、1935(昭和10)年に帝国大学から独立。現在のキャンパスである府中へ、東京高等農林学校として移転しています。 一方、工学部の歴史は農学部と同様に1874年、内務省勧業寮内藤新宿出張所が設置した蚕業試験掛までさかのぼります。 工学部の源流である蚕業試験掛は、1935年に東京高等蚕糸学校と名称を改めた後、太平洋戦争直前の1940年に現在の工学部キャンパスがある小金井市に移転しました。 東京農工大学・小金井キャンパスの外観(画像:(C)Google) 終戦直前にそれぞれ東京農林専門学校、東京繊維専門学校に変更したものの、戦前は別々の教育機関であり、戦後の学制改革によって合流合併して出来上がった大学なのです。 戦後しばらくは農学部と繊維学部の2学部構成でしたが、1962(昭和37)年、時代の流れに沿うように繊維学部の名称を工学部へと改めています。 目を引く大学院進学率の高さ目を引く大学院進学率の高さ 農学部と工学部のキャンパスはJR中央線と武蔵野線、京王線と西武多摩川線に囲まれるように立地しています。 多摩地域の都市開発以前に取得した所有地は広く、農場を含む総敷地面積は975ha以上と、都内の大学とは思えない広さを誇ります。 豊かな農場を有する東京農工大学・府中キャンパス(画像:(C)Google) 両学部を合わせても学部生は1000人前後であり、2016年度の大学のデータでは教員と学生の比率は1対9と少人体制で、きめ細やかな授業を実施しています。 大学名から、男子学生の割合が偏っていると思われがちですが、農学部の男女比率はほぼ同率です。工学部全体の比率は8対2ですが、その中でも生命工学科の男女比率は同率となっています。 特に東京農工大学で目を引くのは、大学院への進学率の高さです。 東京農工大学の2019年3月卒業者のデータによると、工学部の78%は学部卒業後も大学院へ進学し、農学部は6年制の共同獣医学学科を含めると58%となっています。 農学系トップで、大学院進学率が高い東京大学農学部(獣医学課程を含む)の約60%と比べても、学部卒業後に専門を学ぶ学生が多いことを示しています。 また都内の有名私立総合大学の中で唯一、農学部を持つ明治大学(千代田区神田駿河台)ですら大学院進学率が17.2%であることを考えても、その数値は際立っています。 産学官連携の実績とチャレンジ精神 東京農工大学は中期ビジョンを「世界が認知する研究大学へ」と掲げ、その第3期が2016年度から始まっています。 東京農工大学のロゴマーク(画像:東京農工大学) この中期ビジョンは2004年度から2009年度までを第1期としてスタートし、毎年度細かな教育方針や目標を定めています。このことからも、大学での研究結果を社会へ還元するシステムを構築していることがわかります。 15年以上にわたる東京農工大学の地道な積み重ねは、産学官連携の分野で結果がでています。 1069機関を調査対象にした文部科学省の「平成30年度大学における産学連携等実施状況」によると、民間企業との共同研究実施件数は全国15位、外国企業との実施件数は慶応義塾大学(港区三田)と並んで7位、対象となる機関を地域別でみた場合、都内および地方公共団体との共同・受託研究実施件数は東京大学、東京工業大学、早稲田大学(新宿区戸塚町)、慶応義塾大学、東京理科大学(新宿区神楽坂)に次ぐ6位となっています。 学生と教員との距離が近い東京農工大学学生と教員との距離が近い東京農工大学 最近では3月10日(火)に、プレシジョン・システム・サイエンス(千葉県松戸市)とともに新型コロナウイルスのPCR検査を全自動化するシステムと開発したと発表するなど、社会貢献に迅速に対応しています。 東京農工大学とプレシジョン・システム・サイエンスによる、新型コロナウイルス対策のフロー(画像:プレシジョン・システム・サイエンス) また、国内の大学では初めてキャンパス内でのプラスチック製品削減を宣言し、マイボトルを推奨するなど、環境問題を大学全体で取り組んでいます。 世間的な知名度は決して高くないものの、大学の規模を考えると東京農工大学の奮闘がありありと伝わってきます。 3月に発表された「THE世界大学ランキング日本版2020」でも前年から4ポイントアップとなる18位にランクインしていることから、大学として明確なビジョンを掲げ、それに向かってまい進し、研究力に磨きをかけ、社会貢献や人材育成にたけている大学と言えます。 少人数制の授業を行っており、研究内容を相談したり意見交換を通じたりして学生と教員の距離感も近くなります。 新型コロナウイルスで学生にも影響が出ている中、大学の中でもいち早く学生支援の声を上げたのも、東京農工大学の「親心」なのかもしれません。
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