銀座の上を走る「東京高速道路」の通行料金は一体なぜ無料なのか
銀座の上を走る道路でおなじみ「高速道路 = 有料」は半ば常識ですが、東京には無料の高速道路があるのをご存じでしょうか。それは、中央区を走る「東京高速道路(KK線)」です。銀座の商業施設「銀座インズ」「銀座ファイブ」「西銀座デパート」の上を走っている道路といえばわかりやすいでしょう。 東京高速道路の路線は、首都高の京橋ジャンクションから汐留ジャンクションの間の約2km。この区間だけは、首都高速とは似ているようで別の道路となっています。加えて、首都高よりも歴史が長いのです。 この道路の建設が始まったのは1953(昭和28)年のこと。戦後復興が進むなかで、銀座付近の渋滞を解消するために計画は始まりました。 計画は民間主体で進みました。のちに外務大臣などを歴任する藤山愛一郎(1897~1985年)を始めとする当時の財界人の出資で、東京高速道路株式会社が設立されます。道路は公共物にも関わらず、民間主体で進んだのは、東京都に当時70億円あまりという工費を出資する余力がなかったためです。 資金を調達するために考えられたのが、道路の下にテナントを入れて賃料を取るといったモデルでした。 建設費の調達が目的のため、入居希望者から前払いをしてもらい資金を調達し、さらに国から財政投融資資金を借りて着工。1959年に部分開通、1966年に全面開通に至りました。無料の理由は、有料で使われない場合、道路の意味がないと考えられたからです(『読売新聞』2002年11月7日付)。 テナント料があるから無料ということは比較的知られていますが、国土交通省の資料によると、正確には 「道路建設費と運営費をビル賃貸収益で回収し、通行料無料の自動車専用道路を提供」 「高速道路施設の敷地を東京都から賃借」 となっています。 そう、民間運営の道路ですが、正確には東京都が所有者なのです。 年間10.3億円の借地契約年間10.3億円の借地契約 計画立案時、財政難にあえいでいた当時の東京都はこの計画に賛同。 会社は都に地代を支払い建設費を負担する代わりに、テナントから賃料を徴収。建設費を償却後、施設を都に贈与。そして償却後に施設を再度借り受け、事業を継続する代償として、収入の4割を使用料として支払う条件が決められました。 銀座の商業施設の上を走る東京高速道路(画像:写真AC) 戦後復興期に「収入の4割を使用料」という大まかな契約を行ったため、経費などを除外するか否かなど、のちに収入の「解釈」を巡って論争が起きたこともありますが、現在は年10.3億円で借地契約が結ばれています。 なお、建設に必要な土地は外堀・汐留川・京橋川を埋め立てて造成されました。 首都高のトンネル建設で消える東京高速道路 こうして全国でも例を見ない無料の高速道路として運営されてきた東京高速道路ですが、近年になって廃止される可能性が高まっています。 その理由は、2019年に決まった日本橋周辺の首都高の地下化です。地下化にあたっては、江戸橋ジャンクションから都心環状線につながる連絡道路が渋滞緩和を目的に撤去されることが決まっており、東京高速道路には接続ができなくなります。 これに対応するため、道路の改修かトンネル化などについて話し合いが行われ、2020年3月に国や都などでつくる検討会で、銀座の地下に新たに首都高のトンネルを建設することが決められました。 トンネルの工事期間は、2020年での見通しによると10~15年ほど。現在の東京高速道路は、早ければ2030年にもその役割を終えることになります。 しかし現在の高架下の街並みが無くなると思いきや、中央区では跡地利用について遊歩道を整備する計画を提案しています。 地下化された東横線の渋谷~代官山間の線路部分を利用して誕生した商業施設「ログロード代官山」(渋谷区代官山町)にように、道路や鉄道が移動した後の土地を整備し、有効活用する事業は国内外でも数多く行われています。 商業施設「ログロード代官山」建設途中の様子。2014年7月撮影。オープンは翌2015年4月(画像:(C)Google) 銀座と日本橋かいわいをつなぐ新たな遊歩道の登場――。いまや銀座のシンボルともなった風景は、今後、便利な遊歩道として新たなにぎわいをつくっていくことになりそうです。 戦車が通っても壊れない頑丈さ戦車が通っても壊れない頑丈さ 東京高速道路下のテナントを使ったことがある人はご存じのように、振動や騒音がまったくなく、高速道路が上にあるとは到底思えません。ただ、1960年代の自衛隊のパレードで戦車が使われた際には、さすがに揺れたという面白話も残っています(『読売新聞』2002年11月27日付)。 揺れはしたものの、戦車が通っても壊れないので、やはり信頼できる道路といえるでしょう。 戦車のイメージ(画像:写真AC) 最後にもうひとつネタを。東京高速道路の成功ゆえ、首都高の土地を道路以外にも有効活用できるのではないかというアイデアがこれまで何度も生まれました。 そこでは高架下をテナントにするだけでなく、首都高の上を高層ビルにしてはどうかというものも。21世紀に入ってからの再開発で、建築できそうな大半の土地には高層ビルが建っていますが、東京にはまだ有効活用できる土地が多いということなのでしょう。
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