訪日客でにぎわう渋谷 魅力のウラには「川」と「谷」の存在があった

  • 未分類
訪日客でにぎわう渋谷 魅力のウラには「川」と「谷」の存在があった

\ この記事を書いた人 /

内田宗治のプロフィール画像

内田宗治

フリーライター、地形散歩ライター、鉄道史探訪家

ライターページへ

大規模工事が続く、渋谷駅。この工事と密接に関わるのが、渋谷の「川」と「谷」です。渋谷の知られざる成り立ちについて、東京の地形や地理に詳しい、ライターの内田宗治さんが解説します。

渋谷は聖なる水と谷の町

 渋谷駅は今、まさにいたる所が工事中。渋谷ヒカリエのある東口に出ると、真上では東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事が行われています(今年度下期供用開始予定)。山手線ホームの上には地上47階の渋谷スクランブルスクエア東棟(今年秋の開業予定)が、ほぼ姿を現しています。

 そんな現在の光景からは想像しにくいのですが、渋谷は類い希な聖なる水の流れ、清らかな流れの谷につくられた町です。現在の工事も、その谷の地形と密接に関係しています。

大規模な開発工事が続く渋谷駅周辺(2019年3月17日、内田宗治撮影)



 50数年前、前回の東京オリンピックが開かれる前くらいまで、駅前には小川が流れていました。渋谷川と宇田川です。その川跡を確認しながら渋谷の町の特異性を見ていきましょう。

 渋谷駅の隣の原宿駅。駅の背後には明治神宮が広がっています。この地も、実は渋谷の町と大きな関係があります。

 パワースポットとして有名な清正井(きよまさのいど)をご存じでしょうか。明治神宮境内の本殿近くにあり、井戸からはこんこんと湧水が溢れ出ています。あたりは鬱蒼(うっそう)とした木々に囲まれ、文字どおり神秘的なムード。井戸の写真をスマホで撮り壁紙にする人などで、数年前から長蛇の列ができる日が多いです。

神聖な小川の流れを追って行くと……

 その神聖ともいうべき湧水の流れ行く行き先を追ってみましょう。

 原宿駅ホームをくぐり、地下水路化される前は、竹下通りと並行するブラームスの小径を経て、表参道を参宮橋地点で横切ってキャットストリートを通り渋谷駅東口前へとやってきていました。

 ブラームスの小径はその小川の跡を小道にしたもの、キャットストリートの下には現在も清正井からの水が流れています。キャットストリートが若者たちで賑わうのは、「清正井からのパワーのおかげ?」と想像してしまうのは私だけでしょうか。

 もうひとつの流れは、小田急線代々木八幡駅北側の線路沿いにある「春の小川歌碑」と関係があります。

「♪春の小川は さらさら行くよ~」と歌われる有名な小学唱歌「春の小川」は、大正時代、近くに住んでいた国文学者・高野辰之氏が、田んぼの広がるこのあたりの風景を愛でて作詞したものです。歌詞にあるとおり、レンゲやスミレが咲いてエビやメダカの群れが泳ぐ小川が流れていました。そこからの流れが宇田川となり、現在のセンター街を通ってハチ公前広場のスクランブル交差点へとやってきていました。

 このスクランブル交差点は、近年激増している訪日外国人旅行者にとって、有名な観光スポットになっています。

 歩行者信号が青になると一斉に全方向から人が渡りはじめて、一瞬カオス状態に見えながらも一人としてぶつかることなく交差点を渡り終わる。日本人のこの群衆行動が神秘的に映るらしいのです。「この惑星で最もクレージーな交差点」とコメントした外国人もいました。周辺ではその動画を撮る外国人を数多く見かけます。
 
 ちょうどふたつの小川が合流していたすぐ近くにこの交差点があるのも、パワーを秘めた水のおかげだろうかと感じてしまいます。

地下鉄がJR線より上を走る、ふたつの理由

 川の流れというのは、大雨が降れば激しい濁流となり、浸食作用で谷を深くしていきます。坂の多い谷の町渋谷の地形はこうしてできました。

JRよりも上にある地下鉄銀座線渋谷駅のホーム(2019年3月17日、内田宗治撮影)



 山手線渋谷駅ホームが高架上にあるのに対し、地下鉄銀座線ホームがさらにその上にあるのも、この深い谷のためです。青山方面の台地の比較的浅い地下を走っていた銀座線は、突然渋谷の谷に出くわして、谷の斜面から飛び出るようにして地上に顔を出してしまうのです。

 ちなみに御茶ノ水駅や四ツ谷駅でも地下鉄が地上に顔を出しますが、これらは渋谷のように自然の谷ではなく、江戸時代に徳川幕府が江戸城の外濠として掘った窪地に地下鉄が出くわすためです。徳川家康が計画して掘らせた濠のせいで、地下鉄が地上に出てしまうというわけです。

 渋谷川の谷は南北に続いているので、同じく南北に走る山手線に乗っていても谷をあまり実感しません。

 一方、山手線に直角に交わる線路は、渋谷が谷にあるのを如実に感じさせてくれます。井の頭線も谷から出るのにトンネルが必要でした。神泉駅がトンネルの中にあるのはそのためです。2013年に地下化する前の東急東横線も代官山駅に行くのにトンネルを通っていました。

 渋谷駅の再開発は、谷の地形をうまく活かすことも考慮されています。2018年開業した高層ビルの複合施設、渋谷ストリーム(渋谷区渋谷)の地点で渋谷川が地上に顔を出し始めます。河岸には東横線の線路跡地を利用した遊歩道、渋谷リバーストリートが完成しました。

 再開発の完成は2027年ですが、東側の谷上、宮益坂上付近から山手線渋谷駅ホームをまたいで西側の谷上の道玄坂上まで、スカイデッキが通じます。谷を完全に横断する幅の広い橋が渡される形で、両方の坂上を含めた谷全体がバリアフリーで結ばれます。

 JR埼京線のホームが2020年予定で山手線ホームに隣接して便利になるなど、順を追って様々な施設が完成していくので、楽しみに見ていきたいものです。

関連記事