司法書士資格を取得するためには筆記試験と口述試験に合格する必要があります。中でも難しいとされる筆記試験に合格するためには「基準点」と「合格点」をともに上回る点数を取らなければなりません。本稿では司法書士試験の基準点と合格点について、試験の概要と過去5年間の推移を交えて解説します。
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司法書士試験の基準点について
筆記試験は三つの部に分かれます。午前の部(択一式)、午後の部(択一式)、午後の部(記述式)です。それぞれに基準点が設けられ、三つ全ての試験で基準点を上回ることが合格の条件とされます。
全ての試験で基準点をクリアするためには偏りのない総合的な知識が求められるので、まんべんなく学習することが重要になります。
基準点はその年の得点状況を元に法務省が算定するため、毎年変動します。平均点より高めに設定されるので、受験生には全体から頭ひとつ抜けた解答力が要求されます。
択一式の両試験で基準点を超えた受験者のみ、記述式の採点を受けられます。
過去10年の基準点の推移を見ると、受験者全体の15%ほどしか記述式の採点まで辿り着けていません。
択一式の試験で基準点を上回るのが容易ではないことがわかります。
基準点①午前の部(択一式)
午前の部の択一式試験は、憲法、民法、商法・会社法、刑法の4科目から合計35問が出題されます。配点は1問3点ですので105点が満点です。例年の出題の内訳は次の通りです。
科目 | 出題数 |
憲法 | 3問 |
民法 | 20問 |
商法・会社法 | 9問 |
刑法 | 3問 |
「民法」と「商法・会社法」からは全体の80%を超える、29問が出題されます。この数字は司法書士の仕事と関係の深い科目に比重を置いていることを表しています。対して憲法と刑法の問題は少なく設定される傾向にあります。
続いて、過去5年の基準点の推移を見てみましょう。
実施年 | 基準点 |
令和4年 | 81点 |
令和3年 | 81点 |
令和2年 | 75点 |
令和元年 | 75点 |
平成30年 | 78点 |
平均 | 78点 |
上のデータの平均から予想される基準点は78点前後です。午前の部の択一式試験の基準点は、おおよそ得点上位30%付近に置かれる傾向があります。
また、平均点数を得点率に換算すると「74.2%」であり、「民法」と「商法・会社法」の問題全てに正答すれば基準点に達する可能性が高い、という事実が浮かんできます。
ゆえに「民法」と「商法・会社法」の深い理解は合格の必須条件となるのです。
基準点②午後の部(択一式)
午後の部の択一式試験は、民事訴訟法、民事執行法、司法書士法、供託法、不動産登記法、商業登記法、民事保全法の7科目から出題されます。問題数、配点については午前の部と同様。合計35問、1問3点で105点満点です。出題の内訳は次の通りです。
科目 | 出題数 |
民事訴訟法 | 5問 |
民事執行法 | 1問 |
司法書士法 | 1問 |
供託法 | 3問 |
不動産登記法 | 16問 |
商業登記法 | 8問 |
民事保全法 | 1問 |
午後の部の択一試験では不動産登記法と商業登記法からの出題が全体の70%近くを占め、司法書士の主な業務である「登記」に関する法律の知識が重要視されていることがわかります。また、登記に関する2つの法律は記述式の試験でも出題範囲とされます。
過去5年の基準点の推移は次の通りです。
実施年 | 基準点 |
令和4年 | 75点 |
令和3年 | 66点 |
令和2年 | 72点 |
令和元年 | 66点 |
平成30年 | 72点 |
平均 | 69.6点 |
上のデータから予想される基準点は70.2点前後です。午後の部の択一式試験の基準点は、おおよそ得点上位20%のラインに置かれる傾向があります。
平均点を得点率に換算すると「66.8%」ですので、不動産登記法と商業登記法の正答率が、基準点到達へのカギを握っているのがわかります。
基準点はその年ごとに変動しますので、平均を上回る「学力」を身につけておくことが必須条件です。択一式の解答力を徹底的に鍛え抜くことが記述式の採点に進むための第一歩なのです。
午後の部(記述式)
午後の部の記述式試験では、契約書や登記事項証明書などの添付資料を読み解き、問題文に従って登記申請書を作成します。実際の司法書士業務にかなり密接した設問であり「何を記述すれば何点」という明確な採点基準がわからない難しさがあります。
不動産登記法と商業登記法の2科目からそれぞれ1問ずつ出題されます。配点は1問35点で、70点が満点です。
過去5年の基準点の推移は次の通りです。
実施年 | 基準点 |
令和4年 | 35点 |
令和3年 | 34点 |
令和2年 | 32点 |
令和元年 | 32.5点 |
平成30年 | 37点 |
平均 | 33.9点 |
平均の34.1点が予想される基準点になります。記述式の基準点は例年、得点上位50%付近に置かれる傾向があります。
しかしながら、得点率にして50%以下という厳しい採点のうえ、年によって得点状況にばらつきが出るため、予想は難しいのが実情です。
合格点について
択一式で210点、記述式で70点。合計280点が満点となる筆記試験において、合格点は基準点とは別に設けられた合格条件です。
合格点は全受験者の約4%、もしくは約600人が合格者となるよう設定される傾向にあります。基準点の合計に20〜30点加算された値が、おおよその合格点とされます。
司法書士の筆記試験では3つの試験で基準点を満たすことは最低条件であり、その上で合格点を超える得点が必要とされるのです。
過去5年の合格点の推移は次の通りです。
実施年 | 基準点 |
令和4年 | 216.5点 |
令和3年 | 208.5点 |
令和2年 | 205.5点 |
令和元年 | 197.0点 |
平成30年 | 212.5点 |
平均 | 208.0点 |
280点満点中208.0点というのが予想される合格点です。
過去5年間の基準点の平均が181.5点ですので、平均で26.5点が合格点に上乗せされている計算になります。
たとえ基準点をギリギリで満たしたとしても合格点が存在する限りは簡単には合格できません。受験生にとっては厳しい仕組みです。
合格点の平均を得点率に換算すると74.2%ですので、さしあたっての学習目標としては80%の正答率を目指すのがよいでしょう。
基準点の発表と合格発表
択一式試験の基準点は例年8月中旬に法務省から発表されます。同時に解答も発表されますので、自身の解答が基準点を超えたかどうかが明らかになります。基準点を満たした受験者の解答は、記述式試験の採点へと進みます。
筆記試験の合格者は10月上旬に合格点と共に発表されます。受験生は、およそ1カ月半ものあいだ、落ち着かない日々を過ごさなければなりません。
口述試験は10月中旬〜下旬、筆記試験の合格発表からおよそ2週間後に実施されるのが通例です。午前の部と午後の部に分けて実施され、振り分けは法務局から郵送される受験票に記載されます。
最終合格者は11月上旬〜中旬に法務省より発表されます。筆記試験の合格発表からは慌ただしく試験スケジュールが進んでいくことになります。
毎年配信される解答速報と基準点予測
毎年、司法書士筆記試験の当日には大手予備校から解答速報と基準点の予想が発表されます。早い予備校では各試験の終了時刻から、なんと2時間程度で解答速報を順次公開しています。
予想された基準点ギリギリであった場合には気が気でないことも確かですが、およそ1カ月半後に開示される法務省の正式発表を待たずして、合格の目安がわかることは受験者にとって大いに重宝する情報です。
合否の大まかな予測ができて、口述試験または再挑戦、いずれの場合でもスタートをいち早く切ることができる点は、解答速報と基準点の予想を得られるメリットです。
迅速な分析による予想発表が可能であることは、多くの受講生を抱え、膨大な試験データを持ち合わせている大手予備校の強みと言えます。毎年多くの合格者を輩出する大手予備校の試験対策の精度はこうして高められていると言っても過言ではないのです。
司法書士の解答&基準点速報を配信するスクール
例年、解答速報および基準点予測を行う主な予備校とその特徴は次の通りです。
予備校名 | 特徴 |
LEC東京リーガル マインド
| 試験当日に順次公開される解答速報のほか、数日後の「本試験徹底検証会」のライブ配信で、基準点予測がされる。LEC独自の試験分析による「記述式再現答案無料添削サービス」で自己採点が難しい記述式の採点を受けられる。 ▶公式サイト |
アガルート
| 試験当日に順次公開される解答速報に加え、択一式試験の総評と基準点の予測動画が当日配信される。翌日には記述式問題の徹底解説動画が配信されるなど、スピーディーな情報公開が特徴。 ▶公式サイト 関連記事:アガルート司法書士講座の評判・口コミを調査【サポート体制が充実?】 |
クレアール
| 択一式試験の解答速報が試験当日に公開されるほか、翌日には記述式試験の解答例が公開される。いずれもPDF形式のデータを用いた発表。基準点を予測する動画配信はなし。 ▶公式サイト |
伊藤塾
| 筆記試験の解答速報の公開はないが「択一成績診断」による自動採点を受けられる。基準点の予測を含む「本試験問題徹底分析講義」の動画が数日後に配信される。 ▶公式サイト |
TAC / Wセミナー
| 解答速報公開のほか、オンライン記述式解説会が当日に配信される。基準点の予測は後日の配信で公開。TAC独自のサービス「択一式データリサーチ」では全国の受験生の解答データを元に精度の高い得点分析結果が提供される。 |
まとめ
司法書士の筆記試験を難関たらしめている理由は「基準点」と「合格点」の二つを乗り越えねばならないという点に尽きます。
ただでさえ範囲が広く網羅的学習が難しいとされる司法書士試験で、相対的に群を抜いた成績を残すことは生半可なことではありません。
膨大な試験データから出題傾向を分析し、効率的な学習を提供できる大手予備校の存在は受験生にとって大きな助けとなるでしょう。
また、丸1日をかけて実施される試験で集中力を維持して実力を出し切るためには精神面、健康面の充実も必須です。
万事周到な準備で試験に臨むためにも、生活リズムを保って学力を高めていく計画的な学習スケジュールを心がけましょう。