大学の「カタカナ学部」は今も増殖中 もはや「軽い」イメージは払しょくされたのか?
近年よく目にする大学の「カタカナ学部」。それはいつ始まったのでしょうか。また、そのメリットとは。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。20世紀末に登場したカタカナ学部 コミュニケーション、メディア、グローバル、キャリア、そしてアントレプレナーシップ(企業家精神)――これらの言葉には共通点があるのをご存じでしょうか。実は、全てが大学の学部名として使用されている言葉なのです。 カタカナを使った学部が日本で初めて登場したのは、芝浦工業大学(江東区豊洲)が1991(平成3)年に設置したシステム工学部です。ただ、システム工学という言葉自体は珍しいものではありませんでした。 すでに1972(昭和47)年には神戸大学(神戸市)の工学部にシステム工学科が設置されており、理系や工学系ではシステム工学という実学色の強い分野が定着していました。そのため、芝浦工業大学が新設した学部は世間が驚くような真新しいものとは言えません。 真の意味で日本初となるカタカナ学部と言えるのが、東京経済大学(国分寺市南町)のコミュニケーション学部です。学部の新設は1995年、当時の日本はバブル崩壊後の時代でした。 カタカナ学部「情報コミュニケーション学部」を有する明治大学(画像:(C)Google) 就職氷河期など暗いムードが漂っていたものの、マイクロソフト社からWindows95が発売されるなどICT(情報通信技術)が大きく前進。社会のグローバル化が一層進みました。ある意味、社会や働き方を新しく構築する黎明(れいめい)期だったとも言えます。 コミュニケーション学部を「意思伝達学部」とすると、言葉が堅苦しく、受験生の心には響きません。インパクトはカタカナ表記の方に軍配が上がります。 こうして東京経済大学のコミュニケーション学部を皮切りに、時代のニーズをくみ取ったカタカナ学部が20世紀末から次々に誕生していきました。 有名大学でのカタカナ学部事情有名大学でのカタカナ学部事情 しかし、全ての大学が満遍なくカタカナ学部が増えているのかとそうではありません。国公立大学に比べれば私立大学、そして私立大学のなかでも、カタカナ学部の多い少ないがみられます。 私立大学の双璧と言われる早慶のうち、13学部を擁する早稲田大学(新宿区戸塚町)でカタカナを含むのは2003(平成15)年設置されたスポーツ科学部のみ。一方の慶応大学(港区三田)ではカタカナ学部がありません。 新宿区戸塚町にある早稲田大学(画像:写真AC) また近年、早慶上理の難関私立大学のグループとしてくくられることの多い上智大学(千代田区紀尾井町)でカタカナ学部と言えるのは、2014年に設置された総合グローバル学部のみです。なお、東京理科大学(新宿区神楽坂)にはカタカナ学部はありません。 都内有私大で最も有する大学は しかし、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)になると事情が変わってきます。中央大学(八王子市東中野)にはありませんが、他の大学ではひとつ以上存在しているのです。 MARCHの中で最初にカタカナ学部が誕生した立教大学(豊島区西池袋)には、1998(平成10)年開設のコミュニティ福祉学部、そして2008年開設の異文化コミュニケーション学部のふたつがカタカナ学部にあたります。 明治大学(千代田区神田駿河台)は2004年に誕生した情報コミュニケーション学部のみ。青山学院大学(渋谷区渋谷)も2019(令和元)年に新設されたコミュニティ人間科学部がカタカナ学部です。 千代田区富士見にある法政大学(画像:(C)Google) 東京都内の有名私立大学の中で最もカタカナ学部を有しているのが、法政大学(千代田区富士見)です。2003年に誕生したキャリアデザイン学部を皮切りに、デザイン工学部(2007年)、グローバル教養学部(2008年)そしてスポーツ健康学部(2009年)の4学部と、MARCHの中では最多です。 一般受けしやすいカタカナ表記一般受けしやすいカタカナ表記 都内の有名私立大学の例をみても、大半が2000年代の学部新設の際にカタカナ学部が誕生しているのが分かります。 また、このほかにも都内の私立大学では桜美林大学(町田市常盤町)の6学群のうち4学群(リベラルアーツ学群、グローバル・コミュニケーション学群、ビジネスマネジメント学群、航空・マネジメント学群)や、帝京平成大学(豊島区東池袋)では5学部中4学部(現代ライフ学部、ヒューマンケア学部、健康メディカル学部、健康医療スポーツ学部)のようにカタカナ学部が多数を占める大学もあります。なお、現代ライフ学部は2022年度より人文社会学部に変更予定です。 町田市常盤町にある桜美林大学(画像:(C)Google) 大学の学部名はいまだに漢字が主流です。しかし、前述のように新学部設置する際にカタカナを取り入れる大学も多く、それ自体は珍しいものではなくなっています。 もちろん、カタカナの持つ「軽い」イメージは否定できませんが、学部名が漢字だと他大学と重なったり、埋没したりしてしまい、受験生にアピールしにくいというデメリットがあります。 その点、カタカナ学部は大学の独自性が出しやすく、また日本初という斬新さも大きな武器になるのです。 カタカナ学部は出尽くしたかカタカナ学部は出尽くしたか 例えば、2021年4月に武蔵野大学(江東区有明)が開設したアントレプレナーシップ学部は一般的になじみのない言葉ですが、内外に与えるインパクトは相当なものがあり大学の宣伝効果の役割を果たしていると言えるでしょう。 江東区有明にある武蔵野大学(画像:(C)Google) 目新しい学部だけではなく、「コミュニケーション」「コミュニティ」のように漢字表記にすると伝わりにくい言葉は、むしろカタカナにした方が受験生を始め万人に受け止めやすい印象があります。 特に「スポーツ」は日本語として定着しており、スポーツ科学を学ぶ学部では下手に漢字に変換しない方が理解しやすいと言えます。 21世紀に入り、次々に生まれたカタカナ学部。時代のニーズを取り込み、コミュニケーションやグローバル、メディアなどを含んだ学部が定着した今、もはや出尽くした感があるのは否めません。 しかしデータサイエンス学部など、社会が求める人材育成を前面に出した学部も誕生しています。このことからも、現在は考えられなくても、時の流れとともに新しいカタカナ学部がどこかの大学で立ち上げられる可能性は大いにあるのです。
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