軽石の被害が拡大 海底火山「福徳岡ノ場」の噴火は近年最大規模だった!

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軽石の被害が拡大 海底火山「福徳岡ノ場」の噴火は近年最大規模だった!

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大島とおる

離島ライター

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新島を形成して話題になっている福徳岡ノ場。その噴火が実はいかにすごいものだったか、ご存じでしょうか。離島ライターの大島とおるさんが解説します。

深刻な軽石被害も

 2021年8月に噴火し、新島を形成して話題になっている小笠原諸島の海底火山・福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)。同火山は予想外の被害を生み出しています。

福徳岡ノ場。10月12日撮影(画像:海上保安庁)



 それは噴火によって作られた大量の軽石です。洋上を漂う軽石は噴火直後から観測されていましたが、海流に流され西に向かい、10月に入ってから沖縄県内に漂着するようになりました。

 10月4日時点で沖縄県の北大東島と南大東島に漂着していた軽石は、10日に鹿児島県の喜界島へ到達。南西諸島の沿岸は軽石に埋め尽くされる騒動になっています。

 軽石の量は膨大で、沖縄本島北部の国頭村では漁港に漂着した軽石を1tトラックで40台分ほど回収したものの、まったく追いついていません。沖縄県近海では、巡視艇の冷却装置の配管に軽石が詰まり航行不能になる被害も出ており、漁船は故障を避けるため、出漁できなくなっています。

 今後、軽石は黒潮の流れに乗って本土にも押し寄せると考えられており、太平洋岸の地域では警戒が呼びかけられています。

雲仙普賢岳の噴火より巨大

 福徳岡ノ場は小笠原諸島にあるため「東京の火山」で、その噴火の大きさも注目を集めています。これまでの分析によると、噴煙の高さは1万6000~1万9000mに達し、マグマの噴出量はおよそ3億~10億tに達していると推計されています。

 火山の噴火は噴出物の量を基準に算出されますが、8月の噴火で福徳岡ノ場から噴出した軽石や火山灰は約1億立方メートルで、東京ドームの容積およそ80個分に相当すると見られています。0~8の数値で噴火の規模を示す「火山爆発指数」は4となりました。

福徳岡ノ場。8月15日撮影(画像:海上保安庁)

 最大が8なら4は大したことのないように見えますが、実は相当な規模なのです。1990(平成2)年から5年あまりに渡って噴火を続けた、長崎県の雲仙普賢岳の火山爆発指数は3でした。

 大規模な火砕流が発生し、甚大な被害をもたらしたあの噴火ですら3なのです。10月20日には熊本県の阿蘇山・中岳で大規模な噴火がありましたが、福徳岡ノ場の噴火に比べると規模は「1万分の1」と推計されますから、いかに大規模な噴火かがわかります。

100年に一度レベルの大噴火だった

 よく知られた過去の事例と比較すると、今回の福徳岡ノ場の噴火は

・浅間山の天明噴火(1783年)
・鹿児島県桜島の大正噴火(1914年)

と同等と見積もられています。

 浅間山の天明噴火は、日本の火山災害でも最大規模の被害をもたらしたものと記録されています。溶岩と火砕流だけでなく、川をふさいで洪水を発生させるなど、江戸を含む関東一円に被害をもたらしました。また、噴出した膨大なちりは天明の大飢饉の原因になったとも考えられています。

 また大正噴火は、噴出した溶岩がそれまで島だった桜島を本土と陸続きに変えたとして記録されています。つまり今回の「東京の火山」の大噴火は、100年に一度くらいしか起こらない大噴火だったのです。噴火がはるか小笠原諸島の海上だったため、軽石を除く被害は発生しませんでした。これは不幸中の幸いといえます。

福徳岡ノ場周辺の地質構造図(画像:海上保安庁)



 福徳岡ノ場の噴火が注目された理由のひとつに、噴火によって新島が形成されたことがあります。もしも噴火によって新たな島が誕生した際には、領海や排他的経済水域(EEZ)が広がる可能性もあるからです。

 2013年から活発な噴火を続けた同じ小笠原諸島の西之島では、新たな島が誕生し、西之島と合体しています。対して福徳岡ノ場では、8月15日時点で海上保安庁が新島の出現を確認しましたが、直後から波に洗われて縮小し始め、9月12日には早くも一部が海没しています。

 なお、西之島の新島が噴出した溶岩によるものだったことに対して、福徳岡ノ場は軽石が積もったものであり、波に侵食されやすいのです。これまでも福徳岡ノ場では

・1904(明治37)年
・1914(大正3)年
・1986(昭和61)年

の噴火のたびに新島が誕生していますが、いずれもすぐに消滅しています。

東京は「火山の多い自治体」

 現在注目されているのは福徳岡ノ場と西之島ですが、ほかにも膨大な数の火山が存在しています。海上保安庁の「海域火山データベース」では、

・伊豆諸島:13
・小笠原諸島:9

の火山が登録されています。これらの火山の多くでは現在も活動が観測されており、常に警戒が行われています。

 こうした観測結果から、東京は私たちの想像以上に「火山の多い自治体」であることがわかります。

1986年1月の福徳岡ノ場(画像:海上保安庁)



 全国各地にも活発な活動を繰り返す火山はありますが、これほど活発な火山が集中しているのも東京だけといえます。自然の乏しい大都会と思いきや、東京は大自然の脅威を感じることができる地域でもあるのです。

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