私立だけじゃない! 東京の公立学校に「屋内温水プール」が増えているワケ

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私立だけじゃない! 東京の公立学校に「屋内温水プール」が増えているワケ

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日野京子(エデュケーショナルライター)

現在、都心の小中学校で室内プールの採用が増えています。その背景にあるものとメリットについて、エデュケーショナルライターの日野京子さんが解説します。

武術や軍事教育として行われてきた水泳

 夏が近づくと、学校では水泳の授業が行われます。新型コロナウイルスで2020年度は全国的に中止になり、2021年も見送りとなった地域もあります。これまで日本で当たり前に行われきた水泳の授業。しかし世界的に見ると、義務教育課程での水泳の授業や、学校のプールの設置は珍しいです。

 四方を海に囲まれ川の多い日本では、水泳は武術や軍事教育として行われてきました。

 江戸時代には会津藩の日新館(福島県会津若松市)と長州藩の明倫館(山口県萩市)に水練場が設けられており、明倫館の水練場が現存しています。足を運べば、幕末の志士たちが水練に励んでいた往時をしのぶことができます。

 戦後、学校教育が再開するなかで水泳の授業中や水難事故で、児童生徒の命に関わる事故が多発。これを受けて国が動いて学校施設としてプールが設置され、現在に至ります。

私立学校だけではない屋内プール

 さて、皆さんは「学校に屋内プールがある」「温水プールがある」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか? 恐らくほとんどの人が公立学校ではなく、私立学校でしょう。

 しかし東京都心では少し事情が異なるようです。東京都内の一部の公立学校では学校のプールが屋内化、温水プールになっているのです。

屋内プールで泳ぐ子ども(画像:写真AC)



 こうしたプールは都内でも23区に集中しており、港区では区内七つの公立小中学校のプールが屋内かつ、温水プールになっています。世田谷区の公立中4校も屋内温水プールになっており、天候に左右されずに水泳の授業が行えます。

 レインボーブリッジからほど近い場所にある、港区立小中一貫校のお台場学園港陽中学校(港区台場)では地下にプールが設置されており、温水。このほかの公立学校も従来の学校プールとかけ離れており、もはやスポーツジムといっても過言ではありません。

地域社会のスポーツ増進も担っている

 屋内温水プールを持つ公立学校は東京都に集中していますが、これは土地が少ない都心ならではの問題です。プール施設を造るには敷地の確保が必要であり、また都心の学校の校庭や屋上にプールを設置すると近隣のビルから見えてしまいます。

 このように、高層ビルに囲まれた都心で新たにプールを作るには難題が山積していますが、体育館といった運動施設に屋内プールを併設すれば、敷地の確保や、盗撮被害など防犯上の問題をクリアできます。

 また、これらのプールは児童生徒だけでなく、地域住民にも開放されています。前述の世田谷区では、屋外プールを持つ中学校も含め、夏休み期間中は例年一般開放されており地域社会に貢献しています。

屋内プール(画像:写真AC)



 つまり一部の東京の公立学校は、単に学校のプールという性格だけでなく、地域密着型のスポーツ施設としての1面も持っているのです。 

屋内温水プールのメリット

 余計な土地がない都心部において、屋内温水プールの存在価値は高く、決して無駄な施設とは言い切れません。

 新型コロナウイルスの影響で以前のような水泳の授業はできませんが、屋内では天気に左右されることなく子どもたちに指導できるメリットもあります。

 ただ、学校のプールでありながら公的であることの両立は東京だから成り立つ話です。地方では少子化や高齢化が進んでいるため、学校のプールを刷新してもメリットが少なく、全国に普及するとは考えにくい状況です。

「官民連携による学校体育施設の有効活用等について(水泳プール関係)」(画像:文部科学省)

 場所によっては、老朽化したプールを建て替えすることなく、近隣の民間プールや市営プールを利用して授業が行う自治体も出てきています。

 そんなわけで、同じ公立学校でも、東京都の学校は異色の存在といえるでしょう。

プールは水難事故の教育に不可欠

 昨今のアウトドアブームもあり、学校での着衣したままの水泳教室を通じた水難事故予防や啓発活動の必要性が高まっています。

 施設の老朽化や維持費の拡大から、学校のプールを新調する動きは今後鈍くなると考えられますが、緊急時の対処法や水の怖さを学ぶのにプールはなくてはならない施設です。

プールの水面(画像:写真AC)



 また水泳の授業は、子どもの命を守る教育としてのニーズがあり、新型コロナウイルスの感染予防を考慮しながら実施することが望まれます。

 自然のイメージから最も縁遠い東京都心の方が、学校で水泳を学ぶ環境が整っており、水に親しみ、水の怖さを知る機会に恵まれている現実は、何とも皮肉なことです。

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