奇才・椎名林檎の1stアルバム『無罪モラトリアム』 曲順通りに聴くと浮かび上がる“メッセージ”とは

1998年のデビュー以来、四半世紀近くにわたって常に時代のトップを走り続けてきた奇才、椎名林檎。彼女の目に映る「東京」という街は、この間どう変化してきたのでしょうか。音楽ライターの松本侃士さんが歌詞を読み解きます。


まずは「丸の内サディスティック」から

 さまざまな著名アーティストが歌詞に歌い、時代ごとの情景を切り取ってきた街、東京。今回は、そんな「東京」にまつわる椎名林檎の楽曲を紹介していきます。

 福岡県からの上京を経験した椎名林檎は、「東京」という街をどのような観点から見据え、そして、それぞれの楽曲を通してどのような物語を紡(つむ)いでいるのでしょうか。

2019年11月に初のベスト盤『ニュートンの林檎』を発売。極めて幅広い世代から支持を集めるアーティスト椎名林檎(画像:ユニバーサルミュージック)



 1曲目は「丸の内サディスティック」です。

 1999(平成11)年2月発売の1stアルバム『無罪モラトリアム』に収録された初期の代表曲であり、最近でも、椎名林檎がボーカルを務めるバンド東京事変がテレビの音楽番組でライブパフォーマンスを披露しているため、世代を問わず、一度は耳にしたことがある人が多いのではないでしょうか。

 楽曲タイトルにある「丸の内」は、地下鉄の東京メトロ丸ノ内線のことを指しており、実際に曲中には、「御茶ノ水」「銀座」「後楽園」「池袋」といった駅名が登場します。

<報酬は入社後平行線で
 東京は愛せど何も無い
 リッケン620頂戴
 19万も持って居ない 御茶の水>

<青 噛んで熟って頂戴
 終電で帰るってば 池袋>

自身の上京を重ね合わせたような「正しい街」

 楽曲の冒頭に<東京は愛せど何も無い>という歌詞があることから、この物語の主人公は、おそらく地方から上京してきたこと、そして、東京という喧騒(けんそう)の街に虚しさを感じていることが読み取れます。

丸ノ内線が走る御茶ノ水。椎名林檎の曲を聴いて現地を訪れたというファンも(画像:写真AC)



 この楽曲が収録されたアルバム『無罪モラトリアム』について振り返ると、1曲目には、「上京」をテーマとした楽曲「正しい街」が位置付けられています。

 歌詞の中に、福岡の「百通浜(ももちはま)」「室見川」というワードが登場することから、この「正しい街」の物語は、福岡出身の椎名林檎が自身の上京体験を映し出したものであると捉えることもできます。

<何て大それたことを
 夢見てしまったんだろう
 あんな傲慢な類の愛を押し付けたり>

<あの日飛び出した
 此の街と君が正しかったのにね>

 そしてこのアルバムは、2曲目の「歌舞伎町の女王」へと続いていきます。

 2ndシングルとして1998年9月に発表されたこの楽曲は、当時の音楽シーンにおけるムーブメント「渋谷系」に掛けて造られた「新宿系」という言葉と合わせて非常に大きな注目を集め、「丸の内サディスティック」に並ぶ彼女の初期の代表曲となりました。

東京の混沌をみずから体現「歌舞伎町の女王」

「上京」をテーマとした「正しい街」とは異なり、この楽曲の歌詞はとてもフィクション性が高いですが、混沌(こんとん)とした「東京」の街について歌っている点は共通しています。

 ちなみに、この楽曲の後半に登場する<「一度栄えし者でも必ずや衰えゆく」>という言葉は、「丸の内サディスティック」の中の<盛者必衰>という歌詞に通じています。

椎名林檎が2ndシングルの題材に選んだのは新宿・歌舞伎町だった(画像:写真AC)



<「一度栄えし者でも
 必ずや衰えゆく」
 その意味を知る時を迎え
 足を踏み入れたは歓楽街>

<JR新宿駅の東口を出たら
 其処はあたしの庭
 大遊戯場歌舞伎町>

 アルバムの冒頭から「正しい街」「歌舞伎町の女王」、そして「丸の内サディスティック」を通して聴くことで、上京してきた者の目に映る「東京」という街のイメージが浮かび上がってくるはずです。

 このアルバムがリリースされたのは1999年であり、すでに四半世紀近い月日が経っていますが、これらの楽曲が映し出した「東京」観と、その街で懸命に生きようとする各楽曲の主人公の心情は、今から振り返っても決して古びることはないでしょう。

 このように椎名林檎は、「東京」の街を舞台とした1stアルバムを発表した後も、長い音楽家としての活動の中で、いくつもの「東京」に関する楽曲を発表してきました。

20年超の活動で見えた「東京」への視座の変化

 2004(平成16)年に始動したバンド東京事変も、そのバンド名に「東京」を冠していることから、彼女にとってこの街はとても強い思い入れがあると言えるでしょう。

 最後に、数ある「東京」にまつわる椎名林檎の楽曲の中から、2017年に発表された、トータス松本とのコラボレーション楽曲「目抜き通り」を紹介します。

 この楽曲のタイトル「目抜き通り」とは、特に人通りの多いメインストリートのことを指す言葉で、同曲は、2017年4月に銀座にオープンした商業施設GINZA SIX(中央区銀座)のテーマ曲となりました。

東京で最も華やかな街のひとつ、銀座(画像:写真AC)



<本番さショータイム終らない
 ああ 生きている間ずっと
 愛し愛され歩いて行こうよ
 銀座は、春>

<つらい仕事にご褒美のないときも
 惚れた人が選んでくれないときも
 不幸だった訳がわかっている今は
 損しただなんてまるでおもわない>

<飛び出しておいで目抜き通りへ!>

 このように「目抜き通り」の歌詞を振り返ると、椎名林檎の「東京」観がポジティブな方向へと変わっていることが分かります。

曲の数だけ多様な「東京」が描かれている

 もちろん、それぞれの楽曲によって「東京」という街を捉える角度は異なり、2019年に発表したアルバム曲「TOKYO」のようなダーク側面を描いた楽曲もありますが、キャリアを重ねる過程で、多様な「東京」の歌が生まれていることは、とても興味深いと感じられます。

 ここで紹介した楽曲はごく一部で、椎名林檎の楽曲の中には、まだまだ「東京」を舞台とした物語を紡ぐ楽曲が数多くあります。

 ぜひあなたも、ご自身にとっての「東京」ナンバーを探してみてください。


【いくつ言える?】椎名林檎の歌詞に登場する「東京の路線」

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