「負け癖」がついてしまった日本を救う「国譲り」という現実的思考方法
「国譲り神話」を持つ先進国、日本 先日、普段は行かない東京の「東側」をぶらぶら散策していて、神田明神(千代田区外神田)や将門塚(千代田区大手町)などの一帯はオオクニヌシ(大国主)が祭られているゾーンだ……と感じることがありました。 オオクニヌシは苦労しながら国造りを行ったと言われる神様で、私は常々、不思議な存在だと感じていました。国造りの功労者なのですが、「国譲り神話」では出雲に引っ込んでしまう神様でもあるのです。 神田明神(画像:写真AC) オオクニヌシは相手に「あなたがたの長と同じぐらい立派な宮殿を建ててくれるなら、私は引っ込みましょう」という条件をつけます。つまり、被征服者が「征服者と同じレベルの宮殿を建ててほしい。そうしたら納得して新しい国に参加するよ」と言っているのです。 世界各国を見回したときに、少なくとも先進国と呼ばれる国のほとんどは一神教(唯一の神を信仰する宗教)であり、こうした「国譲り神話」が基礎となっている国はほとんどありません。征服した側と征服された側が明確に分けられ、完全な支配か完全な滅亡が国の正統性をうたい上げることが一般的です。 しかし日本神話はそうではありません。征服された側は征服した側と同じくらい尊重され、それと同時に征服した側と同じ国造りに参加することを受け入れる(もしくは、受け入れなくてはならない)という構造なのです。 「煮えきらなさ」が必要とされる時代 いわゆる「判官びいき」な日本人の性質と相まって、これは ・時代の権力へ簡単になびくことを嫌い、敗者側に心理的な共感を常に持つ 一方で、 ・新しい時代が始まったら、秩序への協力を受け入れる という、矛盾しているように見える日本人の性質につながっているのではないでしょうか。 単純なイデオロギー(思想傾向)ですべてを斬り伏せたい20世紀的な個人主義者にとって、こういった見方は煮えきらなくて憎らしい……となりがちです。 しかし1周回って、国譲り神話的に「敵を完全に征服せず、一緒に協力しあうことでお互いを受け入れる」という解決のあり方が必要とされる時代が、世界的にやってきていると私は考えています。 訪れた「第2波グローバリズム」の時代訪れた「第2波グローバリズム」の時代 フランスでは最近、イスラム文化などとの多文化共生にあたり、 「マイノリティーへの配慮はもちろん必要だが、イスラム系移民にもフランス文化の基礎になじむ努力をしてもらう」 という、「お互いさま」な姿勢を取り入れる政策が国民の広い範囲の賛同を得て、実現しています。こういう政策は欧州で徐々に広がっていく見通しです。 パリの街並み(画像:写真AC) マイノリティーへの寛容さや、彼らが生きやすい社会にすることは大事です。しかし、その社会がこれまで大事にしてきた価値観を足蹴(あしげ)にすることを許すのが「寛容さ」である時代は世界的に終わりつつあります。私はこういう現象を「第2波グローバリズム」と呼んでいます。 地域社会の調和を大事にせず、グローバルなシステムだけで置き換えようとするこの30年間の「第1波グローバリズム」が限界に到達し、現在は各地域社会の連帯がバラバラに引き裂かれて、混乱が激しくなっています。 それとは逆に、地域社会のあり方とグローバルな潮流をいかに調和させるかが最重要課題なのが「第2波」です。 20世紀的なイデオロギーによって社会全体が「右」「左」にわかれて混乱するなら、いっそ中国のように強権的な制度を使うしかないのか――という結論に時代はなりかねないレベルになっています。 そのようなことからも、第2波グローバリズムの時代は日本人的な「敵を断罪しきらない、しきれない」性質をうまく活用していくことが必要となるでしょう。 「変われない国」だったからこそ着実に変われる「変われない国」だったからこそ着実に変われる もちろん過去30年間に、「敵を断罪しきらない、しきれない」日本のマイナス面として決められない・変われない部分が現れた時代だったことは否めません。 しかし、果てしなくローカル社会の連帯を引きちぎるような第1波グローバリズムの世界的風潮から日本は距離を置いていたからこそ、来る第2波グローバリズムの混乱に惑わされず、さまざまな意見を寄せ合い、童話「ウサギとカメ」のカメのように、現実的な変化を起こせる可能性が生まれているのです。 その具体策については、次回書こうと思います。 私たち日本人が国譲り神話的本能を基にして、ひとりひとりの知恵を持ち寄れば、こんまりさんのお片付けが世界中でオリエンタル(東洋的)な知恵として消費されたように、欧米文明的なイデオロギーを超える新しい社会運営方法も、どこかのタイミングで受け入れてもらえるでしょう。 2010年出版『人生がときめく片づけの魔法』が世界的大ベストセラーになった、片づけコンサルタントのこんまりこと、近藤麻理恵さん(画像:河出書房新社) どうも最近の日本人は負け癖がついてしまって、どうせ自分たちなんて……となるか、逆に妄想レベルの「日本はすごい」話に熱中するか……になりがちですが、世界の潮流を冷静に見つつ、世界が必要としているものをしっかり練り上げ、提示していく――そういう着実なビジョンを描いていければいいですね。
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