本当に「ヲタクに恋は難しい」のか? オタクの婚活現場で見た「結婚に不可欠なモノ」とは
オタクは「恋愛不適合者」なのか 2020年2月に公開された映画『ヲタクに恋は難しい』は、2014年にイラスト投稿サイト「pixiv」でスタートしたWEB連載漫画が原作。 既刊8巻は電子書籍を含めて900万部を突破し、高畑充希さんと山埼賢人さんダブル主演の映画は、公開3週めで興行成績ランキングの4位をマークしています。これは「オタク」という、かつて裏カルチャーの代表格だった存在がいよいよ表舞台に華々しく躍り出た、メルクマール的出来事といってよいのかもしれません。 公開中の『ヲタクに恋は難しい』(画像:(C)ふじた/人迅社、(C)2020映画「ヲタクに恋は難しい」製作委員会、東宝) 東宝のサイトによると、映画のキャッチコピーは「恋愛不適合な愛すべきヲタクたちの悲哀と歓喜の協奏曲」です。 果たしてオタクたちは本当に恋愛不適合者で、彼ら・彼女らに「恋は難しい」のか? そしてオタクは今、日本でどの程度「市民権」を得られたのか。普段あまりなじみのない業界の今を、のぞいてみたくなりました。 年齢・性別を超えて広がるオタク市場年齢・性別を超えて広がるオタク市場 まずオタク市場をめぐる動向です。 矢野経済研究所(中野区本町)が2019年11月に発表した「オタク主要分野市場別規模推移」によると、2019年度は13分野のうち10の分野で前年度比増を予測。特にアニメとアイドルは2016年度以降、毎年度10~20%前後の伸びを見せています。 13分野の売上・出荷金額の合計は8195億円(前年度比104.6%)。これは、オタクと対極的なイメージのある「アウトドア市場」(販売額ベース)と比べて実に1.6倍の規模に達しています。 矢野経済研究所が公表した「オタク主要分野別市場規模推移」(画像:(C)矢野経済研究所) 経済産業省内に「クール・ジャパン室」が開設されたのは2010(平成22)年。以来、アニメや漫画、アイドルといったオタク的カルチャーは、海外だけでなく日本国内でも着実にファン層を拡大してきました。 NHKが2019年7~9月に放送した『だから私は推しました』は、アラサーの女性会社員が地下アイドルにハマっていく様子を描いた深夜ドラマ。この作品が指し示すように、「ドルオタ(アイドルを応援するオタクたち)」ひとつを取っても、その領域は従来のイメージに収まりきらない性別や年齢、属性の人たちへと浸透していっているようです。 「オタコン」開催予定は東京だけでも162件「オタコン」開催予定は東京だけでも162件 さて、それではオタクの恋愛模様はどうなっているのでしょう。 街コンや婚活パーティーなど出会いの場を提供するサイト「machicon JAPAN」で「趣味コン(共通の趣味を持つ人などが集うイベント)」一覧を検索してみると、ボルダリングやカクテル作り、パワースポット巡り、はしご飲みなど「陽キャ」感全開なイベントに交ざって、「オタク婚活(オタコン・オタパ)」というタグを発見。 見れば東京都内だけで、すでに162件のイベントが予定されています。だいたい20歳から50歳ぐらいまでが対象年齢で、おおかたのイベントは男性参加希望者の枠から先に埋まっているようですが、なかには女性の数が上回っているものもあります。 machicon JAPANの「オタク婚活(オタコン・オタパ)」のページ(画像:(C)リンクバル、machicon JAPAN)「アニメやマンガ 共通の趣味で盛り上がろう」「マンガ・アニメ・ゲーム好き、またはオタク関連の趣味に理解のある人限定」といったキャッチコピーと並んで、「毎週のように結婚の報告が届いています」とオタコンの成果をアピールする宣伝文句も。 会員制交流サイト(SNS)ツイッターでオタコン参加経験者たちの声を拾ってみると、「(自分は)コミュ力皆無のキモオタだからどの女性にも相手にされなかった」「(相手の男性が)全くしゃべらなくて、ずっとこっちから話題を振ってた」など、気になる書き込みも散見されましたが、何にせよオタコンに興味関心を持つ人が増えていることは間違いないようです。 さらに「オタク専用・結婚相談所」まで登場さらに「オタク専用・結婚相談所」まで登場 そして今や、オタクの人に特化した結婚相談所まで登場しています。 2011年からオタク婚活パーティーを開催、累計約12万人を動員したアイムシングルエージェンシー(豊島区東池袋)は、同名の専用サイトで「結婚したいけど、趣味は継続したい」人向けとPRします。 また、オタクの聖地・秋葉原を中心に萌(も)え系同人誌などの販売を展開する虎の穴(千代田区外神田)は、「オタクに寄り添う結婚相談所」と銘打って「とら婚」なるサービスを展開しています。 2020年2月15日(土)には、とら婚の創業3周年を記念したイベント「オタク婚活ウソ?ホント?」を新宿区内で開催。せっかくの機会なのでその様子を見学させてもらうことにしました。 「とら婚」創業3周年を記念して開かれたトークイベント(画像:2020年2月15日、遠藤綾乃撮影) 参加者は約80人。男性9割、女性1割といった感じでした。 「とら婚」を利用して実際にゴールインを果たしたという商業漫画家の男性が登壇し、自身の体験を赤裸々告白。相談所を通して知り合ったのは、漫画ではなくゾンビ映画や80年代ロックといった趣味が合う女性だったといいます。 ただ、例えば成年向け同人誌などを好むオタクにとって、自分の趣味を誰かに開示するのはまだまだ勇気の要ることのよう。登壇した男性漫画家も、自身の作風について、義両親には「ファンタジー漫画です」とぼやかして説明していることを明かしました。 九州から参加した40代男性は、「クール・ジャパンと言われて注目を集める『表のオタク文化』と、関心のない人たちにはあまり見られたくない『裏のオタク文化』があって、その二極化は今後も進んでいくんじゃないかな、と思っています。オタクが市民権を得てきたと言ったって、内容によっては、やっぱり理解されにくいことが多いですから。だから婚活で出会うなら、僕と同じ漫画好きな女性がいいなと思っています」 オタクの恋を、もっと易しく、そして優しくオタクの恋を、もっと易しく、そして優しく 時代や価値観が変わっても、「他人に理解されないもの」はどうしたってあります。 それでもイベント担当の男性スタッフは、 「自分に好きなもの・ことがあるのと同じように、相手にだって好きなものがある。そのことを認め合うという、ただそれだけでいいのです。そうすればオタクにとってだけでなく誰にとっても、恋愛や結婚はそう難しいものではなくなるはずだと思っています」 と明るく前を向きます。 互いを認め合い、尊重し合う男女のイメージ(画像:写真AC) そう、詰まるところオタクとは、ひとつ(または複数)の事柄に特化してトコトン極める趣味人たちの有りようのこと。そしてその趣味とは、インターネットの発達によりあらゆる情報を検索し入手できるようになった現代において、極めて多様化・細分化されたものになっています。 何もアニメや漫画、アイドルに限ったことではなく、「盆栽が好き」「90年代ポップカルチャーが好き」「巨大団地の外観が好き」「給水塔の形状に萌える」などなど、圧倒的にマニアックな趣味を持つ人は、今後もますます増えていくことでしょう。 各分野に猛者が潜む、令和時代の趣味(=オタク)の世界。同じ趣味を持つ者同士で会話や活動を楽しみたいと思う気持ちは、ごく自然なことです。 けれどもうひとつ大切なのは、趣味の違う者同士でも、互いに深く理解し合わないまでも、相手の「好き」を尊重し、受け入れること。それは、多様化が進み「島宇宙」などと称されて久しい現代において、誰にも欠かせない姿勢なのだろうと、オタクの婚活市場を通してあらためて感じさせられました。
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