「日本橋三越」「伊勢丹新宿」再開発へ 未来の姿を大胆予想、ヒントは高島屋と大丸にあった?

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「日本橋三越」「伊勢丹新宿」再開発へ 未来の姿を大胆予想、ヒントは高島屋と大丸にあった?

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若杉優貴

都市商業研究所

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先日、再開発計画が発表された日本橋三越本店と伊勢丹新宿本店。いったいどのような形へと変貌するのでしょうか。都市商業研究所の若杉優貴さんが予想します。

「築100年前後」を迎える三越・伊勢丹本館

 百貨店大手の「三越伊勢丹ホールディングス」が近い将来、基幹店の日本橋三越本店(中央区日本橋室町)と伊勢丹新宿本店(新宿区新宿)の再開発に着手する意向を表明しました。ふたつの老舗百貨店は都心を代表する店舗です。一体どういった再開発が想定されるのでしょうか――。

 ふたつの百貨店のうち日本橋三越本店は1673(延宝元)年、呉服店・三井越後屋として日本橋で創業。1683年に現店舗がある場所(旧店の隣接地)に移転しました。現在の本館の建物は1914(大正3)年に建設されたものです。

日本橋三越本店と日本橋の街並み。手前が三越本館、奥が新館。どのような再開発が行われることになるのか(画像:若杉優貴)



 その後も複数回の増築が行われており、1932(昭和7)年には三越が建設費を負担するかたちで東京地下鉄道(現:東京メトロ)銀座線の三越前駅が設置され、地階と駅が直結。

 さらに、1935年の増築では吹き抜け空間「中央ホール」にパイプオルガンが登場し、現在も週末を中心に生演奏が行われています。

 この中央ホールを中心として館内に古い内装が多く残っていることもあり、2016年には

「我が国における百貨店建築の発展を象徴するもの」

として国の重要文化財に指定。

 2018年には「おもてなしの森」をテーマに、建築家・隈(くま)研吾氏プロデュースのもとで内装を一新しましたが、そうしたリニューアルも元の躯体(くたい。構造の主要部分)を維持するかたちで行われています。

都選定歴史的建造物の伊勢丹新宿本店

 一方の伊勢丹は1886(明治19)年に神田旅籠町で呉服店・伊勢屋丹治呉服店として創業。1933年に現在伊勢丹新宿本店となっている建物へと移転しました。

伊勢丹新宿本店。アールデコの外装が印象的ですが、内部の建築当時の面影は階段室のステンドグラスなどごく一部にとどまる(画像:若杉優貴)

 新宿三丁目交差点側の正面部分は1925年に建てられたライバル百貨店・ほてい屋を1935年に買収したもので、1936年にはふたつの百貨店の建物が接続されて、ほぼ現在に近いかたちとなりました。

 その後、1957年に建物の裏側が増築されたほか、1959年には営団地下鉄(現:東京メトロ)新宿三丁目駅の開業に合わせて地階と駅が直結されています。

 伊勢丹新宿本店の外観は建築時の意匠を色濃く残す反面、内装については幾度もリニューアルを繰り返しており、建築時の面影はあまり見られず、また東京都選定歴史的建造物に指定されているものの、国の文化財となっていません。

百貨店の再開発、近年の例を見る

 それでは、このふたつの百貨店はどういったかたちでの再開発が想定されるのでしょうか。計画の詳細についてはまだ発表されていないものの、「近年再開発を行ったほかの老舗百貨店」にヒントがありそうです。

 近年再開発を行った老舗百貨店のうち、日本橋三越本店と同じく国の重要文化財に指定された本館を持つのが、2018年9月に全面リニューアルした日本橋高島屋(中央区日本橋)です。

 同店は重要文化財となっている1933(昭和8)年築の現本館の躯体を損なうことなく、三井不動産(同区日本橋室町)などの参画により、同店に隣接していた別館や駐車場などがあった場所を再開発し、新館と東館を建設。高層階はオフィス、低層階は100店舗以上のテナントが出店する「日本橋高島屋 S.C.(ショッピングセンター)」となりました。

再開発で新館(写真左奥)を建設、本館と接続した日本橋高島屋 S.C.。新館には多くの専門店が出店、高層階はオフィスとなっている(画像:若杉優貴)



 日本橋三越本店も日本橋高島屋と同様、国の重要文化財となっている本館に隣接して南側に「新館」が立地しています。新館の正面部分(日本橋側)は2004(平成16)年築と新しいものの、西側は低層の立体駐車場となっています。そのため、次の再開発では日本橋高島屋のように、本館以外の建物を建て替えて高層階をオフィス、低層階を売り場とする可能性が高いでしょう。

大丸心斎橋店というヒント

 それでは、伊勢丹新宿本店はどうでしょうか。伊勢丹も隣接して伊勢丹メンズ館や伊勢丹会館など複数の建物があるため、本館に手を付けることなく隣接する建物のみを再開発することも可能です。

 しかし、同店は日本一の売り上げを誇る百貨店である上、内装に建築当時の面影は少なく国の文化財などにも指定されていないため、さらに大規模な再開発を行うことも容易と言えます。

 そこで思い出されるのが、1726(享保11)年に開店した関西屈指の老舗であり、再開発により2019年9月に新たな建物での営業を開始した大丸心斎橋店(みせ、大阪市)です。

2019年に新たな建物となった大丸心斎橋店。外装は以前のイメージのまま「高層階を上に載せた」ような建物に。内装も一部が復元されている(画像:若杉優貴)

 大丸心斎橋店の旧本館は1922年築。アメリカ人建築家・ヴォーリズの手による内外装は芸術的に高い評価がありましたが、空襲の際に高層階が焼失したこともあり、建物は文化財には未指定。

 大丸最大の売り上げを誇る旗艦店としては売り場面積が狭かった上、老朽化が進んでいるとして、正面部分の外壁を残して解体、旧店よりも高層の新たな建物を建築することとなりました。新しい建物は1階を中心に旧店舗の内装部材が多く用いられたほか、すでに失われていた装飾を復元した部分も見られます。

 このように、伊勢丹新宿本店についても大丸心斎橋店に倣って、シンボリックな外壁デザインを残したまま内部を解体して新たな建物を建設することになるかも知れません。

再開発は「10~20年後の将来に向けたもの」

 大丸心斎橋店の建て替えのカギとなったのが代替店舗の存在です。

 同店が建て替えの際に売り場を移設した大丸北館は、もともと2009年に閉店したそごう心斎橋本店の建物。旗艦店の建て替えは近隣に売り場の移設先があったからこそ成しえたとも言えます。

 それでは伊勢丹はどうでしょうか。伊勢丹は隣接地にメンズ館などの建物が複数あるほか、伊勢丹の斜め向かいビックロの建物(1929年築の新宿三越ビル、旧三越新宿アルコット)も三越伊勢丹が所有しています。

 現時点でビックロの賃貸契約期限は2022年まで。伊勢丹新宿本店の再開発を前にして、この新宿三越ビルの動向についても注目されます。

伊勢丹の斜め向かいにある「ビックロ」は2012年まで「新宿三越」として営業していた建物。2022年に賃貸契約の更新時期を迎える予定。果たして今後は(画像:若杉優貴)



 三越伊勢丹ホールディングスの細谷敏幸社長は、今回の再開発計画を「10~20年後の将来に向けたもの」だとしており、現時点では再開発の規模や概要については検討段階であるとしています。

 約100年にわたって日本橋の、そして新宿のシンボルとなってきたふたつの百貨店。もし両店ともに大規模な再開発が行われ、そして旧来の百貨店の常識を覆すような店舗となれば、都心の街づくりにも大きな影響を与えることになるでしょう。

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