東京都心、実は「山」だらけだった 東京タワーお膝元の「最高峰」をご存じ?【連載】分け入っても低い山(1)

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東京都心、実は「山」だらけだった 東京タワーお膝元の「最高峰」をご存じ?【連載】分け入っても低い山(1)

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二上山小鹿

低山評論家

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ビルばかりが立ち並ぶ東京23区にも、実はいくつも山があるのをご存じでしょうか。ただし高さが「低い」という条件付きですが……。というわけで、低山評論家の二上山小鹿さんがあなたをゆる~くナビゲートします。

コロナ禍もバッチリな趣味「登山」

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、なかなか出歩く機会が減りました。

 自粛のムードも半年以上を過ぎて、気になるのは体力の低下です。コロナ太りも避けたいのですが、さらに体力まで落ちると今後の生活に不安を感じてしまうもの。

 そろそろソーシャルディスタンスの作法も身についてきました。次第に涼しくなってくる時期におすすめなのは、都心の散歩ならぬ「登山」ではないでしょうか。

想像以上に高低差が激しい東京の街

 関東平野に位置する東京の街。だいたい上京して来た人はあぜんとするでしょう。関東平野って聞いていたのに、ずいぶん高低差があるじゃない、と。

 同じく平野にある街、例えば大阪や広島は、ずうっと真っ平らな土地が続きます。こうした土地に暮らしている人は、街の中にあるごく一般的な坂を「これこそ急な坂だ」と認識しています。

 ですから東京に来ると驚きます。自分の住んでいた街よりもキツい坂が、当たり前のようにあるのです。

東京タワーから北へ600mちょっと。都心最高峰の山とは?(画像:(C)Google)



 皇居(千代田区千代田)の外周、三宅坂(みやけざか)あたりから麹町のある西の方角を見ると、開けた視界の向こうに崖を登るような道が続いている……慣れていないうちは、そんな風に見えるものです。

 東京は決して標高の高い土地ではないという人もいますが、武蔵野台地の標高は20~30m。

 市街地の標高が最大でも5mくらいの広島市の人などからしたら、ビル5~8階分ほど上、驚くほど高いところに街が広がっているように感じます。

江戸時代、山は格好の行楽地だった

 今では、東京の高低差を風景として見ることはなかなかできません。土地の高い部分がビルに隠れてしまっているからです。

 かつて、まだビルなんてなかった江戸時代、東京の風景にはたくさんの山々が存在しました。そして、山は景勝地や行楽地として人が集まるスポットになっていました。

 山に登ること自体が娯楽でしたし、雄大な景色を眺めることができたからです。

 今では当時のように景色を見ることは難しいかもしれませんが、気軽に頂上まで上って土地の移り変わりを感じることができます。都心の登山は、いわば歴史散歩のひとつのスタイルとして、もっと普及していいのではないかと思います。

目指せ都心最高峰 まずは港区愛宕山

 もし都心の登山を志すなら、最初に目指したいのはやっぱり「最高峰」です。

 ○○最高峰というと、大抵はちゃんと装備をして上らないと危険が待っていますが、都心の山なら大丈夫。そんなに難しくありません。会社帰りにハイヒールや革靴でも登ることはできるかも……いえ、足を痛めるかもしれないので、やっぱり靴はちゃんとしたものを履きましょう。

 まず目指したい「最高峰」は、港区愛宕の愛宕山(あたごやま)。ここは都心に残された「天然の山」の最高峰です。その標高は25.7m。

「出世の階段」と呼ばれる石段を登った場所が、都心最高峰の天然の山、愛宕山(画像:写真AC)



 この山へのアプローチルートはたくさんあります。東京メトロ「神谷町駅」(同区虎ノ門)など適当な駅から歩くといいでしょう。

 まず使いたいルートは、講談「寛永三馬術(かんえいさんばじゅつ)」の中の曲垣平九郎(まがき へいくろう)で知られる階段です。

 これは、梅が満開の時期に愛宕山を訪れた将軍・徳川家光が、石段の上に咲く梅を取ってくるようにと命じたもの。

 急勾配な階段ですので、誰も家臣は「ならば自分が」と名乗り出ません。そこにひとり馬に乗って駆け出したのが、四国・丸亀藩の家臣で曲垣平九郎という者。見事に梅を献上した平九郎は「日本一の馬術の名人」とたたえられたといいます。

 以来、愛宕山の石段は「出世の階段」として御利益を得たい人が集まるようになったのです。

現代的? 車ルートもエレベーターも

 ちなみに、石段の先にある愛宕神社は防火・防災の御利益でも知られています。

 この有名な石段も楽しいのですが、実は愛宕山は車でも上ることができる愛宕新坂というルートもあります。意外に知らない人が多いのか、ちょっと驚かれるルートです。

 ほかにも現在ではエレベーターが設置されてバリアフリーになったりと、新しいものをどんどん取り入れているあたりが東京ならではの雰囲気です。

 愛宕山登山では大抵は石段を使うでしょうが、帰りは別の道を使うのがおすすめです。特に、愛宕トンネルの脇に降りる階段は、ちょっと不思議な雰囲気を味わえて楽しいはず。

続いて高さが都心一 新宿の箱根山へ

 さて、愛宕山登山を終えたら、その足でもうひとつの最高峰を目指しましょう。新宿区は戸山公園にある箱根山(同区戸山)です。

都心で最も高い山、新宿区戸山の箱根山(画像:新宿観光振興協会)



 徒歩で向かうなら愛宕山から約7km、2時間かからずに到達できると思います。最も、暑い季節には無理はやめて地下鉄を利用したほうがよいかもしれませんね。

 戸山公園の中にある箱根山は標高44.6m。都心の最高峰となっています。

 ただ、この山は自然の山ではありません。もとは、戸山荘と呼ばれた尾張藩の下屋敷に、箱根に見立てて築かれたものです。

 江戸時代は名前も玉円峰(ぎょくえんぽう)というものだったのですが、明治時代になって箱根山と呼ばれるようになりました。明治以降、下屋敷は廃され、陸軍戸山学校を経て戸山ハイツになりましたが、山だけは残されてきました。

 戸山公園そのものに高低差がありますが、箱根山への登山自体はすぐです。緩い階段をちょっと上れば、そこは標高44.6mの都心で一番高い土地になるのです。

周囲に広がる景色に漂う歴史の香り

 愛宕山の急勾配と比べれば登りやすいので、ふたつめの山として続けて挑戦すると、ちょっと達成感は得にくいかもしれません。ですので、やっぱり愛宕山から歩いて箱根山に向かうのがよいかもしれません。

 なにしろ、わずか2時間で都心の高低差を存分に味わうことができます。

箱根山の周囲に立ち並ぶ戸山団地(画像:(C)Google)



 この箱根山ですが、最も歴史を感じられるのは周囲にある団地でしょう。

 かつては多くの人が暮らした団地も今は古びて、リノベーションも始まっています。それでも、団地の1階には古くからの商店や懐かしい雰囲気の中華料理店も残っていて、そこに歴史の流れを感じられるのです。

 歴史を感じる登山。それは都心ならではの楽しみかもしれません。

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