東京都が公立「小中高一貫校」開校の衝撃 開始は2年後、12年間の「国際人育成」目標は吉と出るか凶と出るか
2022年4月から東京都で始まる、全国初となる公立の「小中高一貫校」とその可能性について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。既存の「中高一貫校」は都内に11校 東京都は2022年4月、全国初となる公立の「小中高一貫校」を開校します。学校の理念に基づき12年間の教育を行う私立学校は少なくありませんが、公立となると前例がありません。 小中高一貫校を目指す、立川市曙町の立川国際中等教育学校(画像:(C)Google) 公立の中高一貫校の設立ラッシュは2000年代、全国的に広がりました。 都立では2005年度の白鴎高等学校・付属中学校(台東区元浅草)を皮切りに、 ・完全中高一貫校 ・中高一貫校(併設型一貫校。高校からの外部入学あり) は合わせて10校に上り、千代田区立の九段中等教育学校(千代田区九段北)も加えると、計11校存在します。 全国に先駆けて東京都が開校 中高一貫校のメリットは、高校入試でスポーツや芸術系の習い事を中断することなく継続できたり、自治体肝いりの学校運営で理数系や国際交流に力を入れられたりといった、公立でありながらも「私立に近い多様なカリキュラム」を経験できることです。 学校によっては倍率が5倍を超すなど人気ですが、東京都教育委員会(新宿区西新宿)はさらに一歩踏み込み、12年間という長期的な一貫教育を始めるのです。 新たに設ける小中高一貫校は、立川国際中等教育学校(立川市曙町)に隣接するグラウンドに設置された同校の付属小学校です。 東京都立小中高一貫教育校のウェブサイト(画像:東京都立小中高一貫教育校 開設準備室) 都立の中高一貫校が開校して15年以上が経過した今、東京都教育委員会は私立学校のような長期的な視野に立った学校を開校する目的について、 「人や社会に貢献し、世界を舞台に活躍する人材を育てるため」 としています。 なぜ12年間の一貫教育をするのかなぜ12年間の一貫教育をするのか 東京都が12年間という長期の一貫教育を行う背景には、都内の中学受験熱の高さから起きている「私立学校優位」の是正があります。 2000年代初頭から都立高校では学力重点校を指定し、学区を撤廃するなど公教育改革を進めてきました。そして、大学合格実績が一時低迷していた日比谷高校(千代田区永田町)のドラマチックな復活劇を演出しました。 千代田区永田町の日比谷高校(画像:(C)Google) それに並行するように、都立中高一貫校を次々に開校。各校が特色のある学びを提供し、 「中学校から私立に入るのは経済面で厳しい」 「高校入試がない分、6年間を好きなことに打ち込んで過ごしてもらいたい」 という保護者の要望とマッチ。人気を集めてきました。 2013年度から委員会設置 東京都の場合、家庭環境や親の経済力で教育機会が大きく異なり、早い段階から学力差が出始めている実態を受け、東京都教育委員会は2013年度、小中高一貫校開校に向けた準備委員会を設置し、さらに踏み込んだ公教育改革を行う動きを加速させます。 公立で小中高一貫を設けることで、経済的な困窮があっても、児童の能力を高める先進的な教育を受けられるチャンスを広げようとしているのです。 経済的困窮のイメージ(画像:写真AC) 12年間という長い期間で斬新な教育を行っている私立学校の教育費は膨大ですが、公立では親への負担も抑えられます。 東京都は生徒に寄り添った手厚いサポート体制を敷いて、生徒児童の能力を最大限に引き出し、同じ学校で12年間学んで社会貢献できる人材育成を目指しています。 モットーは「高い語学力を持つ国際人を育てる」モットーは「高い語学力を持つ国際人を育てる」 東京都は2013年度に委員会を立ち上げた時点で、理数系に特化した人材育成を目標に掲げ、12年間の振り分けも通常の「6・3・3」制ではなく、「4・4・4」制にする予定でした。 しかし、入学時に子どもの特性を見極めるのは困難です。学校の敷地確保の問題もあり、立川国際中等教育学校に付属小を設置することで落ち着きました。 国際交流のイメージ(画像:写真AC) そして当初の理数系重点から、「高い語学力を持つ国際人を育てる」をモットーにした学校作りに方向転換したのです。 義務教育で1000時間以上多い英語学習を 小学校の開校は2年を切りましたが、すでに9年間の義務教育期間に、通常の公立学校より1000時間以上多い英語学習の実施を公表しています。 小学校の頃から英語以外の第2外国語に触れる機会を設け、中等教育学校では第2外国語を選択必修に。なお、公立学校で第2外国語を学べるのは異例なことです。 バイリンガルのイメージ(画像:写真AC) 国際社会ではバイリンガルは当たり前。母国語も含めた3か国語以上を話せる人は珍しくありません。 日本は島国であり、東京都と言えども、他言語を周囲から日常的に聞ける地域は限られています。今回の実施によって、「世界の常識」を小学生時代から感じさせ、国際人としての自覚を向上させる狙いが見て取れます。 日本の公教育を変えるほどの大胆な挑戦日本の公教育を変えるほどの大胆な挑戦 全国初となる公立の小中高一貫校は全国の教育関係者から大いに注目を集めており、成果次第では他の自治体でも導入に踏み切る可能性が考えられます。 しかし、教育改革に関しては時間がかかります。2022年度に付属小に1期生が入学し、卒業するまで12年間の歳月を待たなければなりません。 勉強する小学生のイメージ(画像:写真AC) 東京都の試みは、日本の公教育を変えるほどの大胆な挑戦です。 小学6年、中学3年、高校3年と区切られてきた、公立学校の普遍的なシステムが今後どう変わっていくのか――。長い歳月をかけて検討する時期がやってきたようです。
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