元塾講師が語る、私が出会った「勉強が苦手な子」と「学習障害の子」 その伸ばし方を教えます

  • ライフ
元塾講師が語る、私が出会った「勉強が苦手な子」と「学習障害の子」 その伸ばし方を教えます

\ この記事を書いた人 /

中山まち子のプロフィール画像

中山まち子

教育ジャーナリスト

ライターページへ

一見似ているようで、まったく異なる「勉強が苦手な子」と「学習障害が疑われる子」。その対応について、子どもの教育問題に幅広く携わってきた、元塾講師でライターの中山まち子さんが解説します。

塾で出会った学習障害が疑われる生徒たち

 塾講師として働いていたとき、勉強が苦手な子の中に「授業についていけない」タイプの子がいることに気がつきました。当時は学習障害に対する考えが少しずつ浸透してきた頃。塾の担当の先生たちは「学校での様子が気になる」「親に伝えるべきか」と口々に言っていました。

「勉強が苦手」と「学習障害」の違いとは(画像:写真AC)



 そのような子どもは一昔前なら、「怠け癖のある子」とされてきましたし、現在でも「やる気がないだけ」で済ませてしまう親がいることは否めません。ということで今回は、「勉強が苦手な子」と「学習障害が疑われる子」の違いと、その対処法交えてご紹介していきます。

 なお、今回登場する生徒たちは「勉強が苦手だから」「個別形式でみっちり勉強させたい」という親の考えで塾に入会した、ごく普通の小学生や中学生です。

●ケース1
 中学3年間担当したAちゃんは、中学1年生の最初の定期テスト後に入会しました。英語の結果が大変悪く、お母さんがあわてて連れてきたのです。小学生時代にヘボン式ローマ字を習うため、「アルファベットはそれなりに書けるはず」と筆者は考えていました。しかし最初の授業で、Aちゃんにアルファベットを書いてもらったところ、大文字は空欄が目立ち、小文字にいたっては1~2割程度しか書けませんでした。

 英語を学ぶにあたり、アルファベットを正しく書けることは何よりも大切です。その点を優先しつつ、同時に「box」や「pen」などの基本的な英単語の練習を繰り返しました。真面目なAちゃんはコツコツと勉強しましたが、努力の割には定着しませんでした。「真面目に勉強しているのに結果が出ないと、確実に英語嫌いになる」と不安を抱いていたとき、筆者は彼女のふとした言葉で対処法を発見したのです。

「歌詞はすぐに覚える」Aちゃんへの対処法とは

 音楽が好きだというAちゃん。

「歌詞はすぐに覚えるんですけどね。耳で勝手に覚えるみたいなんですよ」

と話します。「書いて覚えるより、音で覚える方が得意なのでは?」とひらめいた筆者は、宿題としてアルファベットの表や単語を見ながら音読したり、耳で聴いたりする復習に変更しました。また、教科書の音読を積極的にやるように指示。「書く練習はいいですか?」と聞き返してきたAちゃんに、「とりあえず音で覚えるよう意識してみよう」と提案しました。

勉強方法を変えることで劇的な効果が出ることも(画像:写真AC)



 それから1週間後、アルファベットの大文字はパーフェクト。課題だった小文字も7割近くまで書けるようになっていました。英単語の定着も格段に改善し、Aちゃん本人も驚き、なぜここまで伸びたのか分からない様子でした。その後も音読を中心に真面目に取り組んだ結果、英語が得意な子へと変身したのです。

●ケース2
 クリっとした丸い目が印象的な小学2年生のB君が塾に来たのは、秋が深まりつつある10月のことでした。送迎をしていたおばあさんの話によると、B君のお母さんは育児放棄気味で、見かねたお父さんが引き取る形で離婚したそうです。

 離婚後はお父さんの実家に移り住み、祖父母と4人で暮らしていたところ、9月に父親が急に転勤を命じられて単身赴任になったといいます。

 3人での生活を始めたものの、もともと落ち着きがなく勉強もやる気がなかったB君が、学校で問題を起こしたり、勉強をしなかったりで、困っていると嘆いていました。確かに初日からフラフラ歩き回ったり、字を乱雑に書いたり、周囲の子に危害を加えようとしたりするB君は、絵に描いたような問題児でした。

複雑な家庭環境のB君への対処法とは

 複雑な家庭環境のB君には勉強を教えることより、彼の話に耳を傾け母親的に接することを心がけました。母親からの愛情を渇望しているのは明らかでした。そして、些細なことでも褒めました。怒られ慣れているB君は、褒められる経験が少ないと判断したからです。

ときには母親的に接し、承認することも大切(画像:写真AC)



 筆者はB君をおだて、やる気を出させる戦法に出ました。B君が最初、キョトンとした表情を浮かべていたのを今でも鮮明に覚えています。叱ることより褒めることを重視した結果、勉強へのやる気が芽生えていきました。

 ちょうどその頃、「多動」が目に余っていたこともあり、学校の先生がB君の祖父母に専門機関への受診を勧めました。受診したB君には発達障害の診断が下され、発達支援センターに週1回通うことに。その後、B君の症状は少しずつ改善し、授業で集中する時間が長くなっていきました。

 子どもを「怠け者」扱いする親は、専門の先生に診てもらうという発想を持っていません。しかし、塾の先生が気がついたことろで根本的な解決方法にはたどり着かないため、「何か気になる」と感じたら迷わずに行動に移すことが求められます。

 しかし学校の先生は親からのクレームを恐れ、専門機関への受診を積極的に勧めないのが現状です。適切な療育を受けず、問題を抱えたまま成長すると、子どもは進学や就職の際、壁にぶつかります。そのような状況を回避するためにも、早期に受診し、支援センターに通所しましょう。専門家に相談し、最適な勉強方法を見つけることで、子どもが自信を持てるようになります。

関連記事