新大久保がインドに大変身? 路上に「100円チャイ店」が突如出現、SNSでも話題に
新大久保に「路上のチャイ店」が突如登場し、インターネット上で話題になっています。いったいどのような店なのでしょうか? アジア専門ライターの室橋裕和さんが解説します。新大久保に満ちる南アジアの香り 新宿区「新大久保駅」のそば、通称「イスラム横丁」と呼ばれる一角に、チャイ店が現れました。たっぷりの砂糖を入れ、ショウガやシナモンなどを利かせたミルクティー。紙コップ1杯100円です。 このチャイの入ったポットが、2020年末からケバブ屋の軒先とスパイスショップの前に登場し、話題となっているのです。 チャイは極めてアバウトな感じで販売されている(画像:室橋裕和) レストランの店内ではなく、路上にポットを置いただけと極めて適当な感じで販売し、行きかう人たちを眺めながら飲むスタイルが、まるでアジアを旅してるようだとツイッターなどでも盛り上がりました。 しかしチャイはインドをはじめ、南アジア一帯で広く愛されている飲み物です。それが「なぜイスラム横丁に?」と思うかもしれません。 ですが、イスラム教はワールドワイドな宗教でもあります。南アジアでいうと、パキスタンとバングラデシュがイスラム教を国教としていますし、インドでも人口のおよそ13%、1億8000万人がイスラム教徒です。 ハラル食材店が約20年前から増加 そんなインドの南部、ケララ州からやってきたイスラム教徒が、新大久保で食材店を開いたのは20年ほど前のこと。当時はまだハラル(イスラム教の教義に従っていると判断されるもの)の店が少なかったこともあり、次第に繁盛していきます。 インドのスナックやビリヤニなども合わせて店頭販売(画像:室橋裕和) ほかにもハラル食材店が増えはじめ、やがてイスラム横丁と呼ばれるようになっていくのですが、その「核」となっているのはインド系のイスラム教徒です。だから集まってくるのもやはり同胞のインド系イスラム教徒や、文化の近いパキスタン人やバングラデシュ人が中心です。 私たちが想像する中東の人たちも客として結構いますが、それでもこの街の主力は南アジアの人たちなのです。いまではそこにイスラム教徒ではないネパール人たちも加わり、かいわいはどんどんにぎわいを見せています。 ですから、イスラム横丁というより「南アジア横丁」「インド亜大陸横丁」という方が実情を反映しているようにも思います。 カオス化が進む「イスラム横丁」カオス化が進む「イスラム横丁」 なお近年、このエリアはどんどんカオス化が進んでいます。 次々とハラル食材店が登場し、ローカルそのままのネパール料理店がいくつもオープン。南アジアを専門にする送金業者も軒を連ね、一部マニアの間では 「新大久保インド化計画」 とささやかれるほど異国感が深化してきたところに、とうとう満を持してチャイ店まで現れたのです。 チャイとサモサ(じゃがいもをスパイスで和えて揚げたスナック)、チキンロールの軽食。計450円(画像:室橋裕和) インドなど南アジアを旅行すれば、きっと誰もが毎日何杯も飲むであろう、チャイ。下町の雑踏の中で屋台のチャイをすすった経験を持つ元バックパッカーも多いことでしょう。 新大久保のチャイ店はまさにその街角スタイル、コロナ禍で海外に行くことができないいま、余計にアジア旅行ファンの心を打ち、イスラム横丁の外国人よりもむしろ日本人に人気となっている……というわけです。 ちなみにチャイ店の店主はバングラデシュ人で、茶葉もバングラデシュのものを使っているのだとか。 街の共通語は日本語とヒンドゥー語 そんなチャイを飲みながらかいわいを眺めてみると、気がつくことがあります。外国人たちが意外に、日本語で会話をしているのです。 スマートフォンショップのバングラデシュ人がアフリカ系の人となにやら日本語で料金交渉をしています。ネパール人と中国人が日本語で談笑している姿もあります。多民族が集まってくるこの街では、当然といえば当然なのですが、日本語が共通言語となっているのです。 チャイ売りのバングラデシュ人も、路上に向けて「らっしゃい、らっしゃ~い」と日本語で声を張り上げ客を呼んでいて、街に活気を与えています。日本の文化の中で、彼らも商売をしているのです。 加えて、インドの公用語であるヒンドゥー語もよく話されています。イスラム横丁がインド系の人たちによって形成されてきたこと、それにヒンドゥー語はパキスタンの主要言語であるウルドゥー語、バングラデシュのベンガル語、さらにネパール語とも近く、ある程度の意思疎通ができるからです。 アジア旅行ファンの間で評判になっている1杯100円のチャイ(画像:室橋裕和) こうして日本語・ヒンドゥー語をベースに、多種多様な民族が集まり、学び、ビジネスをし、暮らす新大久保。チャイはその多様性の象徴のようにも思えてくるのです。
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