ソフトバンクの白戸家CMでも人気 昭和の名女優「若尾文子」から学ぶ魅力ある女性の生き方とは
キネマ旬報社によるファン投票で、日本映画女優部門「第2位」に選ばれた、日本を代表する名女優・若尾文子の魅力について、フリーライターの立花加久さんが解説します。主要女優賞も立て続けに受賞 日本を代表する名女優・若尾文子(あやこ)の出演映画41作品が日替わりで上映される「若尾文子映画祭」が、「角川シネマ有楽町」(千代田区有楽町)で4月2日(木)まで開催されています。 勝ち気でキュートな現代女性を描いた「お嬢さん」の若尾文子(画像:(C)KADOKAWA) 若尾がスクリーンデビューを飾ったのは、弱冠19歳のとき。1952(昭和27)年の「死の街を脱(のが)れて」という、終戦直後の中国大陸に取り残された女性と子どもの過酷な生きざまを描いた、とても重く硬派な映画でした。 ファン投票で日本映画女優部門第2位に選出 若尾はスター女優の仲間入りを果たすと、その後、溝口健二や小津安二郎、川島雄三、増村保造といった世界的巨匠の作品に起用され、名女優としてのキャリアを確実に積み重ねていきます。 1960年代を中心に、キネマ旬報賞、NHK映画賞、ブルーリボン賞、日本映画記者会賞、ホワイトブロンズ賞といった主要女優賞も立て続けに受賞。人気だけではなく、実力派女優としての地位も次第に確立していきました。 若尾映画の名作の舞台となった銀座・有楽町周辺(画像:立花加久) 映画出演総数は160本(2015年時点)で、2014年に行われたキネマ旬報社(中央区銀座)によるファン投票では、日本映画女優部門第2位にも選出されるなど、今なお日本を代表する名女優として輝き続けています。 女性の生き方が学べる若尾映画女性の生き方が学べる若尾映画 記憶に新しいところでは、国内通信大手ソフトバンク(港区東新橋)のCMでおちゃめなおばあちゃんとして出演し、映画を知らない若い世代にもアピールしています。 サラリーマンの聖地新橋もまた若尾映画の舞台となった(画像:立花加久)「とにかく悪女から純粋無垢(むく)な町娘まで、若尾さんがこれまで演じてきた主人公のキャラは振れ幅が大きいんです」 こう語るのは、本映画祭の宣伝担当の倉林実央さんです。 「20代女性は社会に出たときに役にたつ立ち振る舞いやしゃべり方を、30代女性は男性の転がし方を(笑)、そして40代女性はこれまで体験してこなかった別の生き方を追体験し、社会的教養として作品を楽しんでもらえたら」(倉林さん) 女性である倉林さんの目からみて、さまざまな役が演じられた若尾映画は女性の生き方が学べる教科書だと言います。 「できる女」を目指す女性は必見の作品 その上で若尾映画から学ぶキーワードとして、 ・共感 ・憧れ ・怖さ を挙げる倉林さん。 「『共感』して学べる作品は『お嬢さん』(1961年)です。主人公は、家族や周囲から『良い人と結婚して幸せになりなさい』と言われ続けている、若尾さん演じる女子大生です。 しかし、主人公はなかなか言うことを聞きません。結婚しないわけではないけれど、自分で決めたいわけです。原作は(ノーベル文学賞候補になった)三島由紀夫ですから、文学的な美しいせりふが頭でっかちなところもありますが、インテリジェンスは十分詰まっています。特に『できる女』を目指す人は必見かもしれません」 ビジネス街のキャリアウーマンのイメージ(画像:写真AC) 若尾文子のファッションもとてもおしゃれで、自己プロデュース力やマネジメント力を学べる、ラブコメの王道を行く作品と言えるようです。 悪女だが説得力のある魅力を演出悪女だが説得力のある魅力を演出 次に「憧れ」です。 ブラックコメディーとして知られる『しとやかな獣』は4K復元版で公開(画像:(C)KADOKAWA)「『憧れ』とは、やはり男性の扱いを学べる作品です。『刺青』(1966年)、『赤線地帯』(1956年)、『しとやかな獣』(1962年)、そして「瘋癲(ふうてん)老人日記」(1962年)です。 特に『しとやかな獣』は、現在注目の韓国映画『パラサイト』にも似ていると話題です。富裕層を食い物にして私腹を肥やしている貧困家族がいて、その家族の長男が貢ぐ相手の女性が若尾さんです。 この女性は自分が働く会社の社長さんや税理士さんもたぶらかしてお金を巻き上げていくのですが、映画を見ているうちに『この人(若尾)の言うことは正しいよね』ってなるんです。説得力のある悪女――そういった生き方ですね」(倉林さん) ちなみに若尾が持つ説得力は、この作品に限ったことではありません。どんなに不条理な展開の作品でも、最後に若尾の演じる役に共感し、少なくとも同情し、味方になっているから不思議なのです。どうして共感してしまうのか? と考えた末にたどり着いた結果が、彼女の声に理由があることに気が付いたのでした。 高からず低からず、少し鼻にかかった感じの中音で、微妙に揺らいでいるように聞こえて心地よい。どんな役を演じても、理屈っぽくても聞き心地の良いその声音はまさに天性のもの。誤解を恐れずに言えば少なくともこの声が、若尾文子を名女優にしたひとつの要素と言っても間違い無いでしょう。 そしてそんな声が効果的に使われている作品が、『瘋癲老人日記』です。倉林さんはこの作品の主人公に対して、共感を超えて尊敬できるといいます。 「原作は谷崎潤一郎なので、倒錯度が高い作品となっています。若尾さんは嫁に行った先の舅(しゅうと)に気に入られ、その家を乗っ取ろうとする女性の役。体が不自由で死ぬ間際の舅が、嫁の水着姿を見たいとか、少しでも触りたいという願望で生きながらえる作品です。少し触らせ挑発しながら、なのに拒絶する言葉を使うだけで自分の思い通りに舅(男性)を操ることができるって、スゴイですよね」 女の怖さも表現する さて最後の「怖さ」は、恋に盲目となる女性の作品だといいます。ある意味、反面教師として女の怖さを一番学べるのだとか。 「『安珍と清姫』(1960年)です。最初は相手に恋い慕っているのですが、次第にエスカレートして最後は蛇の化身になるんです。恋に恋していればかわいいのに、純粋に愛を突き詰めていくと怖い――。 若尾さんの映画は恋愛に絡んだ物語がとにかく多いのですが、度が過ぎた主人公はだいたい破滅しています。逆に引き際のいい女はたいてい幸せになれることがわかります。女の押し引きは大切ということを教えてくれますね……」 市川雷蔵と共演した、恋にいちずな女の怖さを描いた「安珍と清姫」(画像:(C)KADOKAWA) かつて若尾の美貌を「バロック建築のようだ」と絶賛したのは、世界的建築家であり夫の故・黒川紀章氏でした。シンメトリー(左右対称)なのに冷たくなく、奥ゆかしいのに押し出しのある上品さは、見る者の心に先ほどの「共感」や「憧れ」そして「怖さ」を催し続けてきたのでした。 そんなさまざまな思いに浸れる若尾映画を体験しに、あなたも映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと今の時代を幸せに生きるヒントやせりふに出会えるはずです。
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