街中の女性トイレ個室に「動画広告ディスプレー」いったい何のため? 企業担当者に聞いた

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街中の女性トイレ個室に「動画広告ディスプレー」いったい何のため? 企業担当者に聞いた

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品川区内のある企業が2021年8月から、ショッピング施設や区役所などにある女性用個室トイレ内に「動画広告」が再生されるディスプレーの設置を開始します。多くの女性にとってうれしいサービスが受けられるこの取り組み、一体どういうものなのでしょうか。

都内では中野・豊島区役所に導入

 ショッピングモールやオフィス、公共施設の女性用個室トイレ内に、小型の動画広告ディスプレーを設置する取り組みが2021年夏から始まります。

女性用個室トイレの中に「動画広告」のディスプレーを設置。一体何のために?(画像:オイテル)



 横幅はトイレットペーパーホルダー2列型ほどのサイズで、利用者が便座に座るとセンサーが感知し動画広告(1本あたり15秒)が自動で再生されるというもの。

 三井ショッピングパークららぽーと富士見のほか、東京都内では、中野区役所(同区中野)や豊島区役所(同区南池袋)などで8月から稼働予定です。

 ただ実はこのサービス、単に動画広告を視聴できるだけでなく、ほかにも大きなメリットがあるのだそう。一体どのようなものなのでしょうか。

無料でナプキンを受け取れる

 同サービスを展開するのは、ウェルネス事業を手掛けるオイテル(品川区旗の台)。2021年2~3月にららぽーと富士見で実証実験をすでに行っており、8月以降、年内に計1000台の設置を目指しているといいます。

 このサービスの最大の特徴は、動画広告のディスプレーが生理用ナプキンのディスペンサーを兼ねていて、ナプキンを必要とする利用者が無料で受け取れるという点。

 スマートフォンに専用アプリをダウンロードし、起動させたアプリ画面をディスプレー(ナプキンのディスペンサー)に近づけると、ナプキンがひとつ出てきます。

広告収入でまかない、無料を実現

 ナプキン代は企業から得る広告費によってまかなうため、利用者は無料でナプキンを入手できるという仕組みです。

 ナプキンは、一般的に最も需要の高い「多い昼用」サイズ。1台のディスペンサーに約60枚をストックします。

ディスプレー(ディスペンサー)に専用アプリを近づけると、生理用ナプキンが提供される仕組み(画像:オイテル)



 中野区は区役所1~9階の女性用個室トイレ計19か所に、豊島区は区役所本庁舎のほか男女平等推進センター、としま区民センターの個室トイレ計14か所に設置予定。

 公共施設としては中野区・豊島区・横浜市の3自治体が全国初の導入になるとのことです。

ナプキン常備が当たり前の社会に

 なぜこのようなサービスを始めようと思ったのか? その理由は、同社が掲げる「社会課題をビジネスで解決する」という理念からうかがい知ることができます。

 同社専務の飯崎俊彦さんは、

「(外出先のトイレに)トイレットペーパーが無料で設置されているのと同じように、女性トイレにナプキンが当たり前に常備されている社会を目指したいと考えています。そのための持続可能な仕組み作りとして今回のサービスをスタートさせました」

と、発案の狙いを話します。

2021年2~3月にオイテルが実証実験を行ったららぽーと富士見(画像:オイテル)

 その言葉通り、利用者である女性だけでなく動画広告を出す企業側にとっても大きなメリットが見込まれるのが本サービスの重要なポイント。

1. 利用者が便座に座るとセンサーが感知し動画が開始するため、確実性の高い視聴効果が期待できる

2. エリアや施設の業態、時間帯などの細かい設定が可能。また天候や気温などの外部データと連動することで最適な広告配信が可能になる

3. 配信の間隔を設定できるため、時間帯などに合わせて広告のリーチ(広告に接する利用者の人数)やフリークエンシー(各利用者が広告を視聴する回数)を最適化できる

と、広告媒体としてのターゲティングに極めてすぐれた側面を持ち合わせているのです。

経済的な「生理の貧困」だけでなく

 生理や生理用品をめぐっては、新型コロナ禍で「生理の貧困」というキーワードがにわかに世間の注目を集めました。

 コロナ禍で収入が激減するなどして必要十分な生理用品を購入できない女性、またはその状態を指す「生理の貧困」。

 生理による不平等の解消を掲げる団体「#みんなの生理」が2021年3月に発表したアンケート調査によると、過去1年に金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがあると答えた女性は、5人にひとりに当たる20.1%。

 さらに、生理用品を交換する頻度を減らしたと答えた割合は、実に37.0%に上りました(日本国内の高校、短期大学、四年制大学、大学院、専門・専修学校などに在籍しており、過去1年間で生理を経験した人671人が調査対象)。

経済的理由から生理用品の入手に苦労する女性、生理用品の交換頻度を減らす女性は決して少なくない(画像:写真AC)



 こうした課題の解決に向けて、行政も動き出しています。内閣府男女共同参画局が発表した資料によると2021年5月19日現在、「生理の貧困」に関する取り組みを実施しているまたは実施を検討している自治体は全国で255。

 東京都内では、都のほか15区9市が名を連ねました。

 一方、飯崎さんは、同サービスは必ずしも経済的な理由で生理用品を入手できない女性だけを対象としているわけではない、とも話します。

「たとえば今すぐにナプキンが必要だけどコンビニまで買いに行くのは難しい、といった状況を経験したことのある女性は少なくないはずです。そうしたときトイレ個室内にトイレットペーパーと同じように当たり前にナプキンがある、という状況がつくられていれば、助かる女性は大勢いると思うのです」

女性トイレの混雑を招かないのか?

 行政による公的支援や、非営利団体による支援活動は、限られた税源や一部の団体の善意に依拠しているという意味においては、負荷の避けられない取り組みとも言えます。

 その点、ビジネスという形でナプキンの設置が拡大すれば「利用する女性も、広告を出す企業も、ディスペンサーを設置する施設も、誰もが利益を得ることができ持続可能な仕組みとして確立されていく」(飯崎さん)というのが同サービスの重要な狙いでもあります。

 誰もがハッピーになる仕組みづくり。そのために、システムの設計においては細かな点にまで配慮を巡らせました。

 たとえば、ナプキンを受け取るための専用アプリの登録に必要な個人情報は、生まれ年・職業・メールアドレスのみと、最小限の個人情報にとどめました。生年(つまり年齢)と職業は、広告を出す企業が利用者の属性を把握するために生かします。

 また、一度ナプキンを受け取った利用者はその後2時間は受け取れない設定になっているなど、本当に必要な人に行き渡るよう工夫がなされています。女性の生理周期を勘案し、25日間でひとり計7枚まで提供を受けられる設定にしました。

 さらに、気になるのは、個室トイレ内にディスプレーを設置することで利用者がつい動画に見入ってしまい個室内での滞在時間が長くなってしまうのではないか、という点。

 現状でも多くの人で混雑する休日のショッピングモールなどでは、女性トイレの前に長い行列ができることは珍しくありません。

女性トイレの混雑を招くのでは、との懸念を解消するための措置も取っている(画像:写真AC)



 この懸念を解消するため、女性が小用に要する平均滞在時間が約2~3分という統計をもとに、放映時間を制限し一定時間(2分間)が過ぎると入室中でも放映が終了するように配慮されています。

 動画は無音声のため、トイレ内全体にさまざまな広告の音声がバラバラに響きわたるということもありません。2分以内に便座を離れた場合も動画は終了します。

 ここ数年で社会の関心が集まっている、女性の健康課題とその解決に向けた取り組み。同サービスは、民間企業ならではの視点やスピード感が加わることで一気に取り組みが加速する好例と言えそうです。

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