1998年公開『ラブ&ポップ』 庵野秀明監督が描いた世紀末の渋谷と「エヴァ」ロスを埋めた女子高校生たち

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1998年公開『ラブ&ポップ』 庵野秀明監督が描いた世紀末の渋谷と「エヴァ」ロスを埋めた女子高校生たち

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ミゾロギ・ダイスケ

ライター、レトロ文化研究家

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女子高校生の援助交際を題材にした庵野秀明監督の映画『ラブ&ポップ』は1998年の公開時、世間に衝撃を与えました。そんな同作について、ライターのミゾロギ・ダイスケさんが解説します。

エヴァの監督が手掛けた実写映画

 2021年3月公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』をメガヒットさせ、『シン・ウルトラマン』(企画・脚本を担当)の公開、さらに監督作『シン・仮面ライダー』を控える庵野秀明監督。そんな庵野氏が初めて手掛けた実写映画は『ラブ&ポップ』という作品です。

 1998(平成10)年に公開されたこの映画は、村上龍の同名小説を原作としたもので、当時、社会問題化していた女子高校生の援助交際を題材としています。

『ラブ&ポップ』は、庵野監督が『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年公開)で『エヴァ』をいったん完結させた直後の新作として注目を集め、特に“エヴァ的なもの”に渇望していた人たちは劇場に殺到しました。実写作品ながら、巻頭で特集するアニメ雑誌があったほどです。 

 主人公は裕美という女子高校生(三輪明日美)です。彼女は同じ高校に通う友人3人(希良梨、工藤浩乃、仲間由紀恵)と、渋谷を拠点に援助交際でお金を稼いでいます。

 そんな裕美は「消えてしまうもの、移ろいゆくものの今をつなぎとめておきたい」という理由で、日常の風景をいつもカメラに収めています。デジカメの普及は2000年代なので、彼女の愛用カメラはフィルムを用いるタイプです。

 実は、庵野監督も裕美と同じようなことをしています。『ラブ&ポップ』のロケは渋谷のさまざまな場所で行われたため、映画そのものが、“消えゆく、移ろいゆく世紀末の渋谷の風景”をつなぎとめた記録でもあるのです。

 では、そこにはいかなるものが映っていたのでしょう?

作中に大型ビジョンは確認できず

 まず、映画の序盤に駅前のスクランブル交差点周辺のシーンがあります。

DVD『ラブ&ポップ』(画像:キングレコード)



 そこで、ハチ公口改札を背にして向かって左斜前の一帯に巨大なクレーンが見え、大規模な工事が行われていることが分かります。現在、そこには渋谷マークシティ(渋谷区道玄坂1)が建っています。

 TSUTAYAが入っているビルQ FRONT(同区宇田川町2)も建設中です。Q FRONTがないということは、あの大型街頭ビジョン(デジタルサイネージ)のQ’S EYEもありません。映画ではほかにも、

・グリコビジョン = 三千里薬局のすぐ上
・DHC Channel = 大盛堂書店があるビルの上部
・渋谷駅前ビジョン = ガストの入っているビルの上部
・シブハチヒットビジョン = マークシティ」に隣接する雑居ビル上部

なども確認できません。

 女子高校生たちはPHSか携帯電話(いわゆるガラケー)を持っていますが、まだ街のあちこちに電話ボックスがあり、そこから電話をかけることもあります。LINEはもちろんメールで連絡を取り合うことすらなく、音声通話オンリーです。

 なぜなら、まだキャリアメール(携帯メール)のサービスすら始まっていなかったからです。

新陳代謝を繰り返す渋谷

 また彼女たちは渋谷PARCO Part1前を待ち合わせ場所にしていますが、その建物も老朽化により建て替えられ、向かいにある映画館「シネマライズ」も今はありません。

在りし日の渋谷PARCO Part1。2015年撮影(画像:(C)Google)

 東急百貨店東横店屋上の「ちびっ子プレイランド」が登場します。

 昭和の時代、デパートの屋上は観覧車などさまざまな遊具を設置した遊園地として機能していました。90年代の渋谷にはそれがまだ残っていたのです。なお、「ちびっ子プレイランド」は2013年に閉鎖され、東急百貨店東横店自体も2020年の3月に閉館しました。

 JR山手線の線路と明治通りに挟まれていた旧・宮下公園での場面もあります。当時はフットサルコートやクライミング施設などがない牧歌的な雰囲気だった「宮下公園」は、今は複合施設「ミヤシタパーク」の屋上に移設されています。

スタバがない渋谷は建設現場だらけ

 女子高校生4人が宇田川通りに面したシェーキーズでおしゃべりをする場面はありますが、スターバックスなど、シアトル系コーヒーの店の姿が通りに見当たりません。スタバは日本進出後ですが、店舗数は僅少で、まだ女子高校生の人気店ではなかったのです。

 裕美たちはさまざまなところを歩き回るため、とにかく渋谷のあちこちが工事中だということが分かります。街が再開発される前なので、マークシティに限らず、渋谷ヒカリエ(同区渋谷2)、渋谷スクランブルスクエア(同)、渋谷フクラス(同区道玄坂1)などは影も形もないのです。地下鉄や私鉄の駅が現在のように機能的にリニューアルするのは遠い未来のことです。

 映画のエンディングでは、4人の女子高校生が靴を履いたまま、ルーズソックスをぬらしながら、水量の少ない渋谷川をバシャバシャと歩く映像が流れます。

 渋谷川周辺は現在、渋谷リバーストリートとして景観が美しく演出され、遊歩道も整備されています。しかし、その当時は、おしゃれな雰囲気がほとんどありませんでした。

渋谷リバーストリート(画像:(C)Google)



『ラブ&ポップ』の物語はフィクションですが、長い時間を隔てて見ると、今から23年前の渋谷という街を描いたドキュメンタリー映画のようにも感じられます。

 それは、90年代後期の東京で青春時代を過ごしていた人が、一瞬だけ“あの頃”に帰ることができる貴重な映像資料なのかもしれません。

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