ドラマ『大豆田とわ子』 恋敵の「元夫3人」がなぜだかいつも馴れ合ってるワケ

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ドラマ『大豆田とわ子』 恋敵の「元夫3人」がなぜだかいつも馴れ合ってるワケ

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谷保乃子

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フジテレビ系連続ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』。とわ子の元夫という共通項を持つ3人の男性たちの、どこかコミカルで温かい不思議な関係は本作の大きな見どころのひとつです。またそこには、現代固有の「ちょうどよい人間関係」を見ることができます。

現代の「東京らしさ」を描く群像劇

 フジテレビ系連続ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(火曜21時)。第2章のスタートとなる第7話が2021年5月25日(火)夜に放送されます。

関西テレビのウェブサイトのスクリーンショット(画像:(C)カンテレ)



 主演・松たか子さんの無二の存在感は言わずもがな、元夫を演じる松田龍平さん・角田晃広さん・岡田将生さんという3人もまた、極めて強烈な個性を放っている作品です。

 今どきバツ1やバツ2、もしかしたらバツ3だって珍しくない世の中かもしれませんが、しかし元配偶者が3人そろって顔を合わせる場面というのは相当レアなケースでしょう。

 しかも作中の3人の元夫たちは、毎話毎話必ず集合し、大豆田とわ子への未練をにじませ合ったり、ああだこうだと小競り合いを起こしたり、しみじみと感傷に浸り合ったりしているのです。

 5~6話に至っては、元妻とわ子の誕生日を祝うために奥渋谷のレストラン(ひとりめの夫が経営)に集まるほど。すでに終わった婚姻関係とはいえ、ドラマ当初は“恋敵”のように火花を散らし合っていた者同士が、いつの間にか当たり前のように肩を並べる関係へと変化していったのでした。

 元夫たち同士のこの微妙な距離感の描写に表れるもの。それは、現代固有の人間関係の在り方であると捉えることができます。

恋愛で自己実現を果たせなかったとき

 舞台は東京。しかも都心。ハイソサエティーなマンションやレストラン、オフィス、カフェに、華やかな仕事。それでもどこか満たされない思いを抱えた現代人を描くドラマ自体は、バブル崩壊後の90年代以降を中心にこれまでも数多く制作されてきました。

 恋に仕事にまい進する輝かしい過去の作品群と、本作「まめ夫」とで大きく異なる点を挙げるとすれば、本作の主要人物4人がいずれも「すでに恋に破れた人たち」であるということ。少なからぬ恋の(結婚の)痛手を抱えながら、なお長く続いていく大人時間の今を生きています。

大人として過ごす時間は、想像以上に長い(画像:写真AC)



 しばしば恋愛は「自己実現の手段」とも語られますが、もしその方法で自己を実現できなかったとき、“ポスト恋愛”とも呼べる残りの長い時間を、人はどのように生きればよいのでしょうか。

 そのひとつのヒントが、「血縁にも恋愛にも拠(よ)らない人間関係」として本作には描かれています。

 恋愛が自己実現の手段と捉えられやすいのは、交際相手という他者によって自分の心身を隅まで満たしてもらえるから。ただ同時に、恋愛関係が永続的なものではないこともまた、私たちは自身の体験を通して知っています。

 恋人同士という関係は満たし満たされ合う交換の上に成り立つもので、利害をはらむものであると言い換えることもできます。

ダラダラとしたなれ合いの先に生まれる友情

 一方、「とわ子の元夫」という共通項でたまたま知り合った3人は、利害という視点で言えば相反するような立場にありながら、いつしか付かず離れずの友情にも似た関係を構築し始めます。

 3人とも独身、ひとり暮らし(少なくとも6話時点までは)。30~40代の“いい年をした”大人にとって、新しい友人をつくることも、自分の居場所を見つけ出すことも、決して容易でありません。

 いがみ合っていたかに見えた3人(特にふたりめと3人めの夫)が、劇的な共通体験を経るわけでもなく(あえて言うならば)ダラダラとしたなれ合いの先に友情を紡ぎ上げる様は、ひとりであることを抱えている視聴者に、救いにも似た幸福感を覚えさせるのです。

最も人が多く、最も孤独な街・東京

 そもそも東京とは、極めて孤独を感じやすい街と言えます。

 東京都の単身世帯は、47.3%(2015年)と全国で断トツ。その一方で、都道府県別の人口密度(2020年)では全国平均の18倍超に当たる過密さです。

 国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、東京で暮らす約1400万人のうち半数近い45.6%が他県出身。上場企業の50.6%が東京に本社を置き、東京圏の大学に進学した学生の88.0%がそのまま東京圏で就職します(国土交通省調べ)。

 地元を離れて夢を追う人々が多数集まり、それゆえ最も人が多い街であるにもかかわらず、最もひとりぼっちの多い街というのが東京の実相なのです。

 仕事にせよ恋愛にせよ、自分自身で何かを選び取るために上京した街で、その自己実現を果たせなかったら――。それはまれなケースではなく、上京者の大多数が多かれ少なかれ経験するものでしょう。

「理由も名前もない関係」という小さな幸せ

 そんな現代的・都会的な孤独を感じる街において、血縁でも恋愛でもなく、理由も呼び名もない関係のまま緩やかにつながり合う(コミカルながらも温かい)人間同士の交流を3人の元夫たちに見るとき、「こんな間柄の誰かが自分にもいたらな」と、つい思った視聴者は少なくないのではないでしょうか。

 本作の脚本家・坂元裕二氏のファンであれば、TBSテレビ系ドラマ『カルテット』を思い出した人も多いでしょう。

 演奏家の男女4人がカルテット(四重奏)を組んで、ひとつ屋根の下でぶつかったり気をもんだりしながら一緒に暮らすストーリー。片思いはいくつも起こるけど、両思いはついに起こらない。

TBSドラマ『カルテット』で描かれたのも、血縁でも恋愛感情でもないもので結び合う男女4人の物語だった(画像:写真AC)



 情動に左右されることこそ醍醐味(だいごみ)のひとつである恋愛をあえて「即物的」と表現するならば、その短命な関係を超えていく緩やかで深い交流を、視聴者はこのふたつの作品に見るのです。

 近年、「胸キュン」と評される作品が民放ドラマの視聴率ランキングを席巻(せっけん)してきました。現実ではなかなか味わえないシンデレラストーリーをフィクションの世界で堪能する楽しさが支持を集める一方で、本作「まめ夫」のように、また違う関係性の人間ドラマを求める視聴者層がいるのも確かです(2021年の作品では、同じくフジ系ドラマ『その女、ジルバ』が高い評価を受けました)。

3人の元夫たちの今後

 3か月1クールのドラマの中で大恋愛の末に結ばれたカップルが、その後どうなったかは誰も知りません。

 もちろん3人の元夫たちだって、この先どういう間柄でいるのかは全く想像がつきませんが、付かず離れずだからこそ続く関係があるということを視聴者に予感させるのは、坂元作品ならではの妙技と俳優陣の見事な演技によるところが大きいのでしょう。

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