コロナ不況の今なぜ? 東京郊外「超マイナー駅」でカフェ開店、兄妹の思いとは

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コロナ不況の今なぜ? 東京郊外「超マイナー駅」でカフェ開店、兄妹の思いとは

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星谷なな

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新型コロナウイルスの感染拡大によって時短営業を迫られる飲食店には、休業・閉店を決断する店も少なくありません。そんなコロナ不況下の今あえてオープンしたカフェがあります。しかも、都心の繁華街ではなく、あまり知られていない小さな駅で。どんな思いで切り盛りしているのか、ライターの星谷ななさんが取材しました。お店の名前は、カフェ「アンポン」――。

小さな駅のカフェに人が集まる理由

 中神(なかがみ)駅、と聞いてすぐにどこにあるか分かる人は、たとえ東京在住者でも決して多くはないかもしれません。

 多摩エリアの主要ターミナル・立川駅からJR青梅線で三つめ、昭島市朝日町にあるのが中神駅です。JR東日本が発表する1日平均の乗客数(2019年)は1万1447人。最も多い新宿駅(77万5386人)と比べると、70分の1程度という小さな駅です。

 その駅前ロータリーの一角に2020年11月、石丸智浩さん、かおりさんの仲良し兄妹が営むカフェ「unpont(アンポン)bake & drip」がオープンしました。

昭島市にあるJR中神駅のすぐ近くに2020年11月、「アンポン」という名前のカフェがオープン。どんなお店かというと……(画像:星谷なな)



 そのカフェでは、兄・智浩さんが注文後に豆をひきハンドドリップで入れてくれるコーヒーと、妹・かおりさんが毎日手作りするタルトやマフィンなどのお菓子が楽しめます。

 店内は洗練された内装とインテリア、それにドライフラワーなどが飾られて、太陽が差し込むゆったりした雰囲気は、郊外の駅前というよりまるで表参道や代官山にある空間のよう。

 でも、人通りが多いとは言えない中神駅への出店。ましてや新型コロナウイルス禍で、多くの飲食店が苦境に立たされているさなかです。なぜ今この時期この場所を選んだのでしょうか。

兄妹ふたりで温めてきた開店の夢

「学生時代、ふたりで一緒にアルバイトをしていたカフェがあるのですが、そのお店もあまり立地が良くありませんでした。にも関わらず、連日行列を作る人気店だったのです。魅力的なお店なら、立地は関係ないんだと知りました」

「また僕ら自身も、そのカフェで働くのがとても楽しかったので、いつかふたりでカフェができたらいいね、と話すようになったんです」(智浩さん)

 卒業後、ふたりはカフェを持つという夢の実現に向け、それぞれの道へ進んでいきます。

 智浩さんは有名ホテルを経営する企業に就職し、ホテル併設カフェの立ち上げを経験。かおりさんは有名パティシエのもとで数年働いたほか、フランス留学し、腕を磨きました。

洗練された外観と内装のアンポン。兄妹の石丸智浩さん、かおりさんが営んでいる(画像:星谷なな)



「4、5年ほど前から、実際にお店を持つことを見据えて年一度、1日限定のカフェイベントを行いました。実際に出すメニューを考える良い機会でした。また並行して物件探しもしていましたが、実はホテルで働いていたときに、偶然話しかけてくださったお客様のご縁で今の物件を見つけたんです」

「それからコーヒーも、ホテル時代に出会いお世話になっていたロースターさんにブレンドしてもらった豆なんです。これがまた抜群においしくて!」(智浩さん)

 さまざまな出会いや偶然が重なって、ふたりの夢はこの場所に結実しました。

店をきっかけに住民同士がつながる

 現在ふたりはそれぞれ結婚し、子育てをするパパとママでもあります。特にかおりさんは、早起きして子どもの送り迎えをしながら、日々お店に立ち続けています。

 お互いに家庭があり、かつコロナ禍でお店を出すことに不安は大きかったそう。しかし、家族の支えもあり一念発起。そして実際に始まってみれば、開業から2か月あまりにも関わらず、平日約150個、休日は300個近く作るお菓子がたびたび完売するほど繁盛しているといいます。

 人気の理由は、おいしいコーヒーとおいしいお菓子。またそれらをテイクアウトできるという手軽さ。でも、それだけではありません。週2、3回利用する女性客は、アンポンの魅力をこう話します。

「味が良くても雰囲気が悪い、というお店ありますよね。でも、ここのお店は違うんです。お菓子の味もおいしいし、店の雰囲気もいい。何よりおふたりがとっても素敵なんです。だから週2、3回、仕事が休みの日は必ず来ています」

おいしいコーヒーにお菓子、それから温かいお店の雰囲気にひかれて週2~3回来店する客も(画像:星谷なな)



 実はこの女性客、「落ち着いた時間なら、智浩さん、かおりさんと話せる」と、わざわざ開店と同時に入店。しかも一緒に来店した女性とは、この日が初対面だというのです。アンポンのインスタグラムのコメント欄で意気投合し、都合を合わせて来たのだと楽しそうに語ってくれました。

「アンポンがお客さんの懸け橋になりました!」

 ふたりの様子を見て、喜ぶ智浩さん。

都心のカフェとは違う「良さ」

「アンポン」という店名はフランス語で「ひとつの橋」という意味。人と人の懸け橋になりたいという思いが込められ、地域のコミュニティの一部になる店作りを目指しています。

 都心のカフェは、客がそれぞれの場所からやって来て、個々の時間を楽しみ、またそれぞれの場所へと戻っていくところ。その良さももちろんあるけれど、アンポンは対照的に中神という土地に根付いて、ときにはお客さん同士を結ぶきっかけにもなるお店。

 地元の人との会話を楽しめるのは、お店を切り盛りするふたりにとっても大事なことだと言います。そうしたふたりの考え方は、たとえコロナ禍のような苦境であってもお客の途絶えない店とは何かということを示唆しているようにも感じられます。

同店を営む石丸智浩さん(左)、かおりさん。人と人との懸け橋になりたいとの思いを店名に託した(画像:星谷なな)



「この人のためにサービスしたい、そう思えるのが良いな、と思っています」(智浩さん、かおりさん)

 おいしいお菓子、コーヒーに、素敵な兄妹ふたり。アンポンに来ればいつでも人の温かさに触れられます。ありそうで、ないカフェなのです。

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