有名私立大学を敬遠する動きが加速
大学生の東京一極集中を是正するため、私立大学の定員厳格化が導入されました。これにより、大学が合格者数を規定より多く出すと国からの助成金が削減されることとなり、その結果、私立大学の入試難易度は上がりました。
それを受け、受験生の安全志向は加速。早慶(早稲田大学、慶応義塾大学)や上智大学(千代田区紀尾井町)、東京理科大(新宿区神楽坂)に始まり、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)を敬遠する動きが広がりました。
流れは日東駒専(日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学)にも及びます。アメリカンフットボール部の不祥事による志願者減少から回復した日本大学(千代田区九段南)を除き、2020年度試験の志願者は軒並み2019年を割りました。
また2021年から始まった大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を回避しようと、受験生の現役志向も高まり、安全志向はさらに顕著なものとなりました。
そこに、新型コロナウイルスの感染拡大や地方に住む受験生の地元志向の高まりも加わり、大学入試にまつわる状況は混迷を極めています。
早稲田志願者が10万人割れ
2021年の早稲田大学(新宿区戸塚)の志願者数は9万1659人と、2020年の10万4756人から1万3097人減り、10万人を切り話題を呼んでいます。
また、明治大学(千代田区神田駿河台)の学力試験の志願者数は9万9009人に。これは共通テスト利用入学試験の後期日程の志願者数が含まれていませんが、3学部(商学部、理工学部、総合数理学部)の募集人員は合計52人と少なく、2020年の同試験の志願者は約430人ということを考慮すると、志願者は10万人を割り込みそうです。
一方、立教大学(豊島区西池袋)の志願者は2020年より4000人以上増加し、有名私立大学のなかでほぼ唯一減少しませんでした。
政経の人員削減に踏み切った早稲田
早稲田大学は今回、看板学部である政治経済学部の一般入試の募集人員を300人、共通テスト利用試験の募集人員を50人としました。これは2020年までの募集人員(一般入試:450人、大学入試センター利用試験:75人)から、全体の約33%にあたる175人も減ったことになります。
この削減のほか、政治経済学部の一般入試では、学部独自入試として日米両言語の長文を読んだ上で解く記述式問題のほか、共通テストの国語、英語、数学I・数学Aを必須科目に設定。共通テストの地歴・公民、数学Ⅱ・数学B、または理科から1教科1科目を選択する大学独自の問題と、共通テストの結果で選抜する方法に変更しました。
募集人員削減と入試制度の刷新もあり、政治経済学部の一般入試志願者は2020年より2000人以上減少しました。学部間併願者が多い社会学部でも一般入試の志願者が約2600人減に。
また例年、10学部程度で合格者の3割から4割を既卒者が占める早稲田にとって、既卒者の受験生が減少したことも要因となっています。
ほかにも、早稲田大学のように従来の入試を刷新した大学があります。
青山学院大学(渋谷区渋谷)は募集人員が最も多い一般選抜の個別学部日程で、経済学部を除く全ての学部で共通テストと学部独自の問題を課すなど、入学者の受け入れ方針を反映した内容にかじを切りました。その影響もあり、個別学部日程の志願者数は2020年より約1万6000人減少しました。
地方試験会場を設ける私大は軒並み減少
大学側が求める学生像を鮮明に打ち出して入試改革を行った早稲田大学や青山学院大の志願者は減少しましたが、2021年の私立大学はこれ以外にも、地方都市の受験会場での入試を行っている大学の志願者が伸び悩むという現象が起きています。
早慶や上智大学は地方会場を設けていませんが、MARCHは立教大学を除く全ての大学で積極的に取り入れています。
特に中央大学(八王子市東中野)は多摩キャンパスと後楽園キャンパスを含み、最大全国16都市17会場を準備し、大規模なものとなっています。しかし学力試験の志願者数は2020年より9000人以上減少。また、明治大学の全学部統一入学試験(地方会場を含む8会場で実施)の志願者も約3700人減っています。
2月に入り、各私立大学の志願者は確定しましたが、地方会場での入試を行っている各大学の志願者数の動向をみると、東京の大学を避ける動きが真実ということを裏付ける結果となっています。
しかし前述のように、立教大学は前年比4000人以上の志願者を増やしています。一般入試は池袋キャンパスと新座キャンパスのみで行われているため、他大のように地方会場の受験者に左右されません。加えて青山学院大学の入試改革も志願者増の要因のひとつとして考えられます。
立教大学と青山学院大学の関係性
立教大学、青山学院大学はともに本部を都心に置くミッション系大学で、双方の志願者が併願校として選ぶ傾向があります。
立教大学は2021年から入試内容を変更し、これまで学部ごとの日程だった一般入試を全学部日程に統一。それにより最大2回だった一般入試の受験機会を文学部では最大6回、理学部を除く他学部で最大5回まで増加させています。
地方会場を実施していないことや受験生にとってチャンスが増える入試制度、そして併願校として選ばれやすい青山学院大学の入試改革というさまざまな要因が重なり、立教大学は志願者減から脱却したと推察されます。
少子化待ったなしのなか、私立大学は今後、経営を維持しながら入試改革を行い「欲しい学生」「大学が与えるメリット」をアピールしていく必要があります。2020年代は各校の入試制度が大きく変わる、序章となるのかもしれないのです。