コーヒーに負けっぱなしの「紅茶」に名誉挽回を! 大手ブランド「リプトン」が挑んだ非日常的作戦とは
紅茶にしかない「強み」とは? レストランや喫茶店に入ったとき、たいていの場合「紅茶にしますか? コーヒーにしますか?」と聞かれます。 この記事をご覧の皆さんは普段、紅茶派ですか、それともコーヒー派ですか? ホッとひと息つきたいときに飲むドリンクの「二大選択肢」として並べられることの多い両者ですが、実際の消費量にはかなりの開きがあります。 紅茶飲料はコーヒーの約3分の1 飲料メーカーなどで組織する全国清涼飲料連合会(千代田区神田須田町)のデータによると、清涼飲料水商品の品目別生産量推移(2000~2019年)はコーラなどの「炭酸飲料」がトップで、2番手はミネラルウオーター。 3番めの「コーヒー飲料」は過去10年間にわたって増加しており、2019年の生産量は300万kl台前半を記録しています。対して「紅茶飲料」の生産量は、コーヒーの3分の1程度にとどまる100万kl台前半(同年)です。 「緑茶飲料」より、「果汁飲料」より、さらには麦茶などの「その他の茶系飲料」よりも低い12品目中9番めという紅茶の順位を目の当たりにすると、もしかしたら冒頭の2択の問いは成立しないのでは……とちょっと心配になってしまいます。 紅茶ブランド「リプトン」。「紅茶派」拡大のため、さまざまな取り組みを展開中(2020年7月、遠藤綾乃撮影) なぜ紅茶は、コーヒーに比べてこれほど飲まれていないのか。理由は諸説あるようですが、街角のカフェチェーンを見ればその差は一目瞭然です。 タピオカブームを追い風にしてタピオカブームを追い風にして 駅前などに必ずあるカフェチェーン。その看板商品は多くの場合コーヒーで、たまに紅茶専門の喫茶店があっても、1杯1000円前後する高級路線が主流のよう。 2013年には、月刊情報誌『日経トレンディ』の「ヒット商品ベスト30」の1位に「コンビニコーヒー」が選ばれました。現代人に欠かせない生活インフラであるコンビニで、おいしく手軽にわずか100円ちょっとで購入できるようになったことが、コーヒーをますます消費者の定番ドリンクとして浸透させたと言われています。 一方、後塵(こうじん)を拝す紅茶にも、近年明るいニュースがないわけではありません。 記憶に新しいのは、2019年に社会現象ともいえる大ヒットを起こしたタピオカブームです。タピオカミルクティーは、タピオカの年間輸入量(1万6774t)から1年間で推計約5億6000万杯分が消費されたといわれ、紅茶と消費者との距離を近づける一助を果たしました。 2019年に一大ブームを巻き起こしたタピオカミルクティー。消費者が紅茶に親しむ一助になった(画像:写真AC) 日本紅茶協会(港区東新橋)のまとめでは、2019年の年間紅茶輸入量は数量ベースで前年比113%。2020年に入っても1~5月は同116%と堅調を維持しています。 そして、その大半が使われているのは、各清涼飲料メーカーの紅茶飲料です。 前述した清涼飲料品の品目別生産量推移は、全品目中で見れば紅茶飲料の値は低いものの、2019年には近年で最も顕著な伸びを示しているのが見て取れます。 紅茶の可能性を体現するカフェ紅茶の可能性を体現するカフェ 紅茶にとって追い風ともいえるこうした情勢を背景に、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング(目黒区上目黒)が展開する紅茶ブランド「リプトン」も攻勢を強めています。 そのひとつが、渋谷区代官山町などで展開中の期間限定のティースタンド「Fruits in Tea」です。好みの紅茶(アイスティー)とさまざまなフルーツを選んで、ハーブやシロップなどと一緒にタンブラーボトルに詰めて楽しむ新感覚のドリンク。 2016年から実施しているこのティースタンドは、カラフルなフルーツがたっぷりというSNS映えの良さなどから、若い世代を中心に注目を集めています。 さらに、夜の20時45分からは同店舗で「Lipton TEA BAR」も開店中(週末限定、予約制)。 提供されるのは、紅茶を使ったカクテルとスイーツそれぞれ3種類。アールグレイとリンゴをベースにしたカンパリスプモーニに、リンゴのタルトタタン、アッサムとミルクを使ったピニャコラーダに、パイナップルのバターサンドなど、紅茶入りカクテルとスイーツのペアリングが楽しめるのが特長です。 代官山駅前で週末にオープンしている「Lipton TEA BAR」。プロのバーテンダーが目の前で紅茶カクテルを作ってくれる(2020年7月、遠藤綾乃撮影) バーカウンター越しにプロのバーテンダーが作る紅茶カクテルは製作工程も、完成品の見た目も斬新で「思わず写真や動画に残したくなるような非日常の体験」というのが売りなのだそう。 カクテルはしっかりアルコールを感じられるだけでなく、紅茶の香りが上品に立って、リプトンならではのオリジナリティーあふれる仕上がり。一緒に楽しむペアリングのスイーツも甘過ぎず味わい深く、カクテルを上手に引き立ててくれます。 「何とも合う」懐の広さが魅力「何とも合う」懐の広さが魅力 リプトンがこのようなカフェを展開するのは、「紅茶の『新しい』楽しみ方を多くの消費者に提供する」ためだといいます。 事業を担当するユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングの内藤礼さん、ハッピーアワーズ博報堂の藤井一成さんによると、一般家庭での紅茶の消費量はコーヒーのおよそ10分の1。また飲み方もホットが多いため、特に夏場は売り上げが20%も落ち込むといいます。 「コーヒーは生活習慣に溶け込む『スタイル化』をいち早く成功させました。コンビニコーヒーだけでなく、コーヒースタンドも今や街中で数えきれないほど見かけます。一方の紅茶はというと、昭和の香りが残る喫茶店が中心。……もちろん喫茶店ならではの良さは間違いなくあるのですが、紅茶の可能性はもっともっと広げられるものと考えています」(内藤さん、藤井さん) 2020年夏、代官山などで楽しめるリプトンの「Fruits in Tea」(画像:ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング) この店舗で提供しているフルーツ入りのアイスティーや紅茶カクテルだけでなく、例えば冬にはオレンジやリンゴなどのドライフルーツを入れた飲み方なども提案。季節やシーンや形を変えて、さまざまな紅茶のアレンジを発信しているといいます。 このように、コーヒーには無い紅茶ならではの強みのひとつは、ほかのさまざまな食材やドリンクともマッチし、合わせたり混ぜたりすることで楽しみの幅が広がること。自宅で手軽に試せる飲み方も数多くありそうです。自分の好みに合わせて既製品をうまくアレンジする若者世代には、特に受け入れられやすい特長と言えるかもしれません ※ ※ ※ さてあらためて、あなたは紅茶派ですか? コーヒー派ですか? お菓子業界の「きのこ・たけのこ論争」と同じくらい長きにわたって並び称されてきたこの両者が名実ともに“真のライバル”となる未来が、もしかしたら近く訪れるのかもしれません。
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