「電車に乗って行くのはNG」 町中華ブームを作った張本人が語る、本当の楽しみ方とは

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「電車に乗って行くのはNG」 町中華ブームを作った張本人が語る、本当の楽しみ方とは

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下関マグロ

サンポマスター、食べ歩き評論家

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近年盛り上がりを見せている「町中華」。その神髄について、「町中華探検隊」副隊長で食べ歩き評論家の下関マグロさんが解説します。

アンチに対してひと言いいたい

 先日、立ち食いそばや「町中華」(地元に根ざした大衆的な中華料理店)について批判的な某月刊誌に関する記事をネットニュースで読みました。

 記事が書かれた背景には、メディアなどの影響で、必要以上にブランディングされた近頃の立ち食いそばや町中華に対するアンチテーゼがあったようです。筆者(下関マグロ、食べ歩き評論家)はこの記事を読んだとき、正直いって「こういう記事がやっと出てきてくれたか」とうれしくなりました。

町中華のメニューイメージ(画像:写真AC)



 筆者は2014年に「町中華探検隊」という団体を結成し、副隊長に就任しました。若い頃から通っていた町中華が前年の2013年暮れに閉店し、昭和時代に創業した店がどんどん消えつつあると危機感を覚えたからです。

 そして結成後からさまざまな町中華を巡り、ブログなどに記録し始めました。といっても、読者に取り上げた店へ行ってほしいということではなく、「こんな店、あなたの住んでいる地域にもありませんか?」と問いかける意図で始めたのです。

2016年発売の書籍で幅広く知られるように

 町中華の表記は当初「街中華」にしようと思いましたが、当時この言葉でインターネット検索すると横浜にある中華街が出てきたこともあり、検索結果が出なかった「町」にしました。

 その後、2015年から首都圏情報誌『散歩の達人』(交通新聞社)で町中華に関する連載が始まり、2016年には『町中華とはなんだ』(立冬舎)という単行本を北尾トロ(町中華探検隊隊長)、竜超(りゅう すすむ)とともに出しました。

2018年に文庫本となった『町中華とはなんだ』(角川文庫)、左は丼型のポップ(画像:下関マグロ)

 この単行本を出したことがきっかけとなり、メディアでも町中華という言葉が使われるように。最初は説明するのが大変だった町中華も、少しずつ知られるようになっていきました。

 また、2017年からはCSのテレ朝チャンネルで『ぶらぶら町中華』という番組に、前述の北尾トロ、鈴木アカミさんとともに出させてもらうと、かなりの人が町中華という言葉を使うようになりました。

 町中華に批判的な意見が出てきてうれしいと冒頭で書いたのは、「そこまで浸透したのか……」と感慨ひとしおだからなのです。

町中華の楽しさ三つのポイント

 筆者が考える町中華の魅力は、

1.消えゆくものへのペーソス(哀愁)
2.ひとつとして同じ店はないこと
3.エンターテインメント性

の三つです。順を追って説明していきましょう。

 まずは、ひとつ目の「消えゆくものへのペーソス」です。前述のように取材した店のうち、大半はもう閉店しています。そのため、「今行かなければなくなってしまう」という切羽詰まった感情が町中華にあるのです。

 筆者は昭和時代の真ん中ぐらいの生まれなので、当時から使っていそうな椅子やテーブルがある町中華へ行くと、たまらなく懐かしい気分になります。同時にそうした雰囲気は「永遠ではない」という思いにも。だからこそ、今じっくり味わいたいのです。

 老夫婦が経営する町中華を久しぶりに訪れて、まだやっているんだということを確認するだけでも幸せな気分になります。

 次に「ひとつとして同じ店はないこと」です。東京には中華チェーンが多くあり、基本的にどの店でも同じメニューを出しているため、同じチェーンであればどこへ行っても安心して入れます。

 対して個人経営の町中華は、メニューや味付けなど、その店ならではのものばかり。そのため、初めて入った店ではどのような味付けなのかわからず、ドキドキします。同じではないからこそ、食べ歩きの楽しさがあるのです。

 例えば、広東麺というメニューがあります。一般的に広東麺といえば「五目あんかけラーメン」ですが、店によって具材や味付けが異なります。町中華ファンのなかには、広東麺だけを食べ歩いて、その違いを記録している人もいるくらいで、そういった意味において、町中華はさまざまなアプローチがあります。

台東区小島にある「幸楽」の典型的な東京チャンポン。塩味で具材たっぷり。あんかけでとき卵も入っている(画像:下関マグロ)



 東京の町中華にはチャンポンというメニューがあって、筆者はこのチャンポンを食べ歩いていた時期があります。

 チャンポンといえば長崎ですが、東京の町中華で出されているものは長崎とまったく異なるものです。店によっては本場のチャンポンを見たことも食べたこともないにもかかわらず、想像で作ったというところもあるので、実に面白いメニューといえます。

 多くは塩味で、野菜などを卵でとじていますが、単なるタンメンをチャンポンとして出しているところもあり、店ごとに違うこともしばしばです。

三つ目のポイントとは

 そして三つ目は「エンターテインメント性」。食事をするだけでなく、それ以外の楽しみがたくさんあるということです。

 町中華はカウンターだけの小さな店が多く、カウンターに座れば厨房(ちゅうぼう)が見渡せます。注文を受けて店主が中華鍋をふるいながら料理をする様子を見るのも楽しく、また、そこに集まる客と店主の会話も見逃せません。

 ただ、客の多くは寡黙です。入り口に置いてあるスポーツ新聞などを手に取り、すぐに注文、新聞をひたすら読みながら料理を食べます。他人から話しかけられるのを新聞でブロックしつつ、会計を済ませてさっと出ていく人が多いです。

 どちらかというと筆者もそのタイプで、初めて入った店ではスポーツ新聞などを取って着席します。店を見回して、本棚に漫画「ゴルゴ13」のシリーズが置かれているとさらにいい感じです。

町中華の本棚にある「ゴルゴ13」(画像:下関マグロ)



 2014年から消えゆく町中華を訪問してきた筆者ですが、当初は自宅から歩いて行ける店を中心に足を運んでいました。なぜかというと、町中華は

「わざわざ電車に乗って出掛けるようなものではない」

と思っているからです。

町中華訪問の「神髄」とは

 それでは最後に、筆者が自宅から歩いて訪れる町中華のなかで、特に個性的ですてきな店を紹介しましょう。

●幸楽(台東区小島)
 まるで、昭和時代で時間が止まったような外観がなんともすてきです。人気メニューは中華料理店なのになぜかインドネシア料理のナシゴレン。これがおいしいんです。ちなみに本場のナシゴレンとは味が少し異なります。

●あさひ(台東区浅草)
 戦前から続く老舗の町中華です。こちらの中華丼は少し変わっており、なぜか中央に目玉焼きがのっています。4代目いわく「先代からずっとそうだった」。昔ながらのメニューもあれば、「パクパクパクチーそば」といった攻めたメニューもあります。

●一寸亭(台東区谷中)
 のれんが印象的な谷中の町中華です。もやしそばが有名ですが、個人的には見た目も美しいチャーハンがオススメ。地元の人に愛されており、行列してでも行きたい店です。

町中華のメニューイメージ(画像:写真AC)

 繰り返しになりますが、筆者がこれからも皆さんに伝えたいのは「〇〇という町中華の店に行ってみよう」ではなく、「みなさんの近所にこんな店はありませんか?」という提案です。町中華はわざわざ電車に乗って出掛けるようなものではありません。だから素晴らしいのです。

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