銀座に残る「消えたデパートの面影」――100年前から街を見守る「あるもの」とは?

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銀座に残る「消えたデパートの面影」――100年前から街を見守る「あるもの」とは?

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若杉優貴

都市商業研究所

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再開発が相次ぐ東京。街の風景が変わりゆく中、各百貨店は時代の変化に対応すべく進化を続けています。大正13年開業の松坂屋銀座店は現在GINZA SIXとして形を変えましたが、実は往年の面影を残す場所がひっそりと残されていました。今回は100年前から銀座を見守り続けるある場所について、都市商業研究所の若杉優貴さんがご紹介します。

銀座の街に遺された「消えた百貨店の忘れ形見」とは――

 都内各地で再開発が相次ぐなか、再開発のため「東急百貨店渋谷・本店」、「小田急百貨店新宿本店本館」が一旦閉店。さらに、「京王百貨店新宿本店」、「西武池袋本店」、「伊勢丹新宿本店」、「日本橋三越本店」などでも近い将来の再開発が検討されるなど、コロナ禍にも関わらず都心のデパートを取り巻く動きは激しさを増しています。

1966年から67年にかけて竣工した小田急百貨店新宿本店・新宿駅ビル。 名建築家・坂倉準三氏が手掛けたものですが、再開発のため2022年10月に閉店・近く解体されます。(画像:若杉優貴)



 一方で、永年にわたって地域に親しまれていた老舗百貨店は、店舗や建物は姿を消しても何らかのかたちでその面影を遺しているものが少なくありません。

 都心の一等地である銀座にも、「百貨店の閉店後も『あるもの』だけが残っている」場所があるといいます。百貨店らしい設備としても知られる、その「あるもの」とは――。

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GINZA SIXで見つけた「松坂屋と江戸の町の守り神」

 消えたデパートの面影を探すべく訪れたのは、同じ東京メトロ銀座駅近くに2017年4月に開業した複合商業ビル「GINZA SIX」。このGINZA SIXの前身は、老舗百貨店「松坂屋銀座店」でした。

 銀座に松坂屋が開業したのは関東大震災直後の1924年(1期開業)から1925年にかけてのこと。実は松坂屋は松屋銀座などより古くからある「銀座初の百貨店」で、震災で灰燼と化した銀座の街にとっては「復興のシンボル的存在」でした。

 松坂屋銀座店は開店当初から呉服系百貨店としては珍しかった「下足入店」(当時の呉服系百貨店は靴を脱いで入店する店舗が多かった)や「(和服ではなく)洋装での接客」を実施。戦後も増改築をおこない、1963年には都内百貨店で最大級の高層立体駐車場を開設、さらに2010年には外国人向け免税店や外資系ファストファッション店を導入するなど常に時代の最先端を行く百貨店として親しまれましたが、再開発のため2013年6月に閉店していました。

 松坂屋の後継店舗となった「GINZA SIX」は大丸松坂屋百貨店と住友商事などが運営する複合商業施設で、そのコンセプトは「Life At Its Best-最高に満たされた暮らし」。館内には銀座らしい多くの有名ブランドに加えて、アートに特化した蔦屋書店、観世能楽堂などが入居しています。なお、最近まで館内に松坂屋の売場を引き継ぐかたちで大丸松坂屋が運営する百貨店自主編集売場「シジェーム ギンザ」も出店していましたが、こちらは2022年1月に閉店しています。

まだ真新しいGINZA SIX。松坂屋銀座店の後継施設として開業、今年で6周年を迎えます。(画像:若杉優貴)

 松坂屋閉店から約10年。GINZA SIX開業前ごろまでは近隣にあった別館に「松坂屋」の銘板が残るなど街路のさまざまな場所に名残が見られましたが、その別館も大丸松坂屋グループとなったファッションビル「パルコ」が運営する商業ビル「BINO」として2017年にリニューアルされるなど、松坂屋の面影は徐々に姿を消しています。

 まだ真新しいGINZA SIXの館内。昔のデパートの面影は何処にあるのか…と店内をめぐってみたところ、その名残を発見したのは屋上。GINZA SIXの屋上には約4,000㎡もの広さがある庭園「GINZA SIX ガーデン」が設けられていますが、この一角にはかつて松坂屋の、そして町の守り神となっていた稲荷神社「靍護稲荷大明神(かくごいなり)」が移設・再建され、鎮座しています。

 そう、「閉店後も残った百貨店らしいもの」とは、全国各地のデパートの屋上にも設置されている「屋上神社」なのです。

松坂屋からGINZA SIXに移設された「靍護稲荷大明神」。 社殿は建て替え後に以前の姿を模して再建されたもの。(画像:若杉優貴)

 この靍護稲荷大明神は、もともと江戸時代に根岸(現在の東日暮里)の「いとう松坂屋呉服店」所有地に京都・伏見稲荷神社から勧請され、さらに松坂屋銀座店の屋上にも分祀(ぶんし)されたという歴史あるもの。稲荷神社は火防の神様としても知られるため、火災が多かった江戸の町ではお稲荷さんの勧請が盛んにおこなわれており、その後は永年にわたって松坂屋の、そして根岸の町の守り神となっていました。

 ちなみに、靍護稲荷大明神の本社がある東日暮里の土地はその後長らく松坂屋流通センターとなっており、その一角には稲荷神社も鎮座し続けていました。大丸と松坂屋の経営統合により流通センターは廃止され、跡地は2020年にスーパーマーケット「ライフ東日暮里店」となりましたが、稲荷神社だけは現在もスーパーの片隅に残されています。

 GINZA SIXにある靍護稲荷大明神の社殿は再開発後に以前の姿を模して再建されたものですが、もちろんその神様は永年松坂屋の屋上に鎮座していたもの。社殿の横には、神社の由緒と松坂屋銀座店の歴史を記した案内板も設けられています。

 もし銀座に初売りに行く機会があるならば、GINZA SIXの神社に詣でて銀座の町並みを眺めつつ、松坂屋が開店したモボ・モガの時代に思いをはせてみてはどうでしょうか。

銀座の街が一望できるGINZA SIX屋上庭園。 銀ブラで歩き疲れた時の休憩にもピッタリ。(画像:若杉優貴)

 各地で再開発の槌音が鳴りやまない東京都心。近い将来、再開発によって大きく姿を変える街があったとしても、新たな建物のどこかにかつての面影が感じられる場所を設けて欲しい――変わりゆく都心を見守り続ける靍護稲荷大明神は、果たしてこの願いを叶えてくれるでしょうか。

参考:松坂屋史料室

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