アリ?ナシ? 女性の「ぼっち酒」、酒場ライターがその本質に迫る
平成の30年間は、女性の社会進出と自立が進んだといわれる時代です。女性と酒場の関係には、どのような変化が見られたのでしょうか。酒場ライターのパリッコさんが、「女性のひとり飲み」を考察します。ひとり飲み女子はカワイソウ? 今回のコラム執筆に関する打ち合わせをしていた時、担当の編集者さんが以前、知人の30代女性から「毎夜ひとり飲みをしている私って可哀そうなのかな?」と相談されたという話が出ました。 女性のひとり飲みに対して、ネガティブなイメージを持つ人もいるという(画像:パリッコ) 詳しく話を聞いてみると、「仕事帰りにひとりで飲んでいることを同世代の友達に話したら『なにそれ、ぼっち(独りぼっちの略)のマイナスオーラが増すからやめなよ!可哀そう』と哀れな目で見られちゃって。バーで静かにグラスを傾けている大人の女性のイメージだったのに……」とのこと。 そこで、他にもそういう声はあるのか、簡易的にアンケートをとってもらうと、「母親に『女のひとり飲みなんてみっともないからやめなさい』と言われた」とか、「女ひとりで飲み屋に入るのは恥ずかしい」などの声がちらほら。一方で、「男の人におごってもらうのが当然になっている人よりいい」「自立した人という感じでカッコイイ」という声も。 そこで今回は、女性の社会進出が加速したといわれる「平成」の時代が終わる今、女性のひとり飲みについて考えるコラムを書いてみましょうということになりました。 平成時代の女性と酒場の関係を振り返る あらためて今回のテーマを要約すると、「ひとり飲み女子は『可哀そうなぼっち』なのか『自立した女性』なのか」。 いきなり個人的な結論から申し上げるに、はっきり言って「そんなの人それぞれ」としか言いようがないです。 日本の女性と酒場の関係を平成の始めくらいから振り返ってみると、バブル期に「オヤジギャル」なる言葉が現れ、居酒屋で女性がお酒を飲むことは、なんでもない、ごく当たり前のことになりました。 その頃から、バブルへのカウンターカルチャーとして、居酒屋研究家の太田和彦さんなどが筆頭となり、「大衆酒場」を再評価、研究する流れも生まれます。 そして、バブル崩壊から続く長い不況時代を経て人々の価値観は変化。そこにがっちりとハマったのが、中島らもさんが生み出した「せんべろ」(1000円程度でべろべろに酔える価格帯の酒場の俗称)という造語です。 この言葉は、大阪の酒飲みオヤジたちがせせこましくも愉快に酔っぱらう様を描いた当初の意味から大きく発展。グルメサイトには「焼肉」や「ラーメン」などと並んで「せんべろ」の検索項目がありますし、せんべろ専門のムック本が多数出版されるなど、いまや酒場業界におけるいちジャンルとして百花繚乱の盛り上がりをみせています。 「せんべろ酒場」を謳(うた)うお店側にも、値段なりではない創意工夫を凝らした料理や、スタイリッシュな雰囲気をともなったお店がいくらでもあることはご存知の通り。昔は「座席がないぶん安い」イメージだった立ち飲み屋も、イタリアンやエスニックからフレンチまで、ないジャンルはないと言えるほどの充実ぶり。 同様に、かつてはどこか危険な雰囲気すら漂っていた、酒屋の一角で客に酒を飲ませる業態である「角打ち」もずいぶんと変化。こだわりのワインや日本酒が味わえる店、手の込んだおつまみを出すお店など、ブームに乗った新店が次々生まれています。仕事帰りにサクッと寄れる気軽さも受け、もはやこういったお店に敷居を感じる人のほうが少ないのではないでしょうか。 具体例を挙げれば、浅草で130年の以上の歴史を誇る老舗酒屋「相模屋本店」が数年前にオープンさせた「相模屋本店 角打ち」(台東区浅草)。その店名の響きからは想像できないほどスタイリッシュな店内で提供される酒類のメインは、イタリア直輸入ワイン。こうなってくるとむしろ、場末専門の酒飲みである僕のほうが入るのを躊躇してしまうほどの華やかさです。 ひとり酒が心の支えになることもひとり酒が心の支えになることも ここで、先ほどのテーマをこのように置き換えてみましょう。 「ひとり飲み男子は『可哀そうなぼっち』なのか『自立した男性』なのか」 「知るか!」って話ですよね。「勝手にしろ!」と。 例えば、僕自身を例にとってみると、まず酒場でのひとり飲みは大好き。そういうときに「俺って可哀そうなぼっちだよなぁ……」なんてことは考えません。むしろ「この時間があるからこそ生きている!」と心の中で叫びたくなるような、いたって優雅な気分。 毎日仕事をし、その対価で、家賃、光熱費、税金、その他生活にかかる費用に加え、酒代まで捻出しているのだから、一見「自立した男性」ではありそうです。が、自分の人生に関わってくれている誰の支えがひとつ欠けてもぐらつくような不安定な存在であることも確か。 そもそも僕、酒を飲んでいるとついウトウトしてしまうクセがあり、以前友人が撮った写真を見せてもらって自分が一番驚いたんですが、上半身を器用にカウンターに横たえて、立ったままスヤスヤと寝ているではありませんか! これが自立した男性の姿でしょうか? いえ、「かろうじてカウンターに引っかかって立っている男性」でしかありません。 そんなことをふまえるに、あらためて、酒場にいる女性、いや老若男女、すべては人それぞれ。 恋人と別れたばかりで「私は可哀そうなぼっち」という気分に浸りながら飲んでいる女性もいれば、バリバリのキャリアウーマンで、仕事後、立ち飲み屋での一杯が自分へのご褒美という女性もいる。ニートもいれば社長もいる。保育士もいれば詐欺師もいる。一般人もいれば芸能人もいる。二十歳もいれば百歳もいる。ミニマリストもいれば捨てられない女もいる。政治家もいれば革命家もいる。 誰もが落ち込んだり元気になったり、自立したりばたんと倒れたりと、山あり谷ありの人生を送っている。そんななかで、ひとり酒場で飲む酒が、ときに心の支え、明日への活力になったりもする。 なんか当たり前のことしか書いていないような気がしますが、「ひとり飲み」とはそういうものなんじゃないでしょうか。 ただ、どんな世代の女性であれ、酒場で自分の世界に浸り、幸せそうにグラスを傾けている姿を見ると、「かっこいいな」なんて思っちゃいますけどね。
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