注目スイーツ「マリトッツォ」 東京に先駆けてブームを起こした2都市はどこ?【連載】アタマで食べる東京フード(18)

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注目スイーツ「マリトッツォ」 東京に先駆けてブームを起こした2都市はどこ?【連載】アタマで食べる東京フード(18)

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畑中三応子

食文化研究家・料理編集者

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味ではなく「情報」として、モノではなく「物語」として、ハラではなくアタマで食べる物として――そう、まるでファッションのように次々と消費される流行の食べ物「ファッションフード」。その言葉の提唱者である食文化研究家の畑中三応子さんが、東京ファッションフードの今と歴史を巡ります。

流行のスタートは西日本から

 いま東京でブームがうたわれている「マリトッツォ」は、まず西日本で人気に火がついたイタリアンスイーツです。

2021年夏、あちこちで耳にするようになった新スイーツ「マリトッツォ」とは?(画像:写真AC)



 最初に作ったのは大阪の洋菓子店「パティスリー トルクーヘン」といわれ、2014年と飛び抜けて早かった。行列ができる福岡の人気ベーカリー「アマムダコタン」が手がけたのも2020年春と早く、この2店が流行の発信源とされます。

 2021年の4月初旬には京阪神一円でブームが巻き起こっていて、まだ名前を知る人も少なかった東京とは温度差を感じましたが、流行がやって来る予感はありました。

 基本、パンとクリームだけという単純な組み合わせなので、特別な開発をしなくても、すでにあるアイテムを有効活用して簡単に商品化でき、単純だからこその自由自在なアレンジが可能。

 現地そのままより、アレンジされた洋菓子を好む日本人にうってつけのアイテムだといえます。

 案の定、東日本でも着実に知られるようになり、5月には山崎製パンの袋入りマリトッツォが東京のスーパーにお目見え。あれよあれよという間にセブンイレブンも発売し、ファミリーマートからはマリトッツォ風の「クリームシフォン」が登場しました。

 実際にブームになる前からブームがささやかれ、気がついたらスーパーとコンビニにも普及していた。おそるべきスピード感です。タピオカ以来、食品業界が待ちかねていたヒット作の到来でした。

発祥は古代ローマ時代?

 ティラミス、パンナコッタ、ジェラートは例外として、イタリア菓子は素朴すぎるためか、日本人受けはいまひとつ。マリトッツォは珍しいイタリア菓子のヒット作ですが、とりたててイタリアっぽさを打ち出しているわけではありません。

日本で人気のイタリア菓子といえばティラミスやジェラートなど(画像:写真AC)



 マリトッツォ風が出るからには、本家本元があるはず。しかし、一般に持たれているイメージは「丸いパンの横に切れ目が入っていて、生クリームがたくさん挟まっている菓子」程度の認識です。

 マリトッツォとマリトッツォ風はどう違うの? そもそも、どうしてこんなに平凡で、どこにでもありそうな菓子がブームになったのか?

 そこでマリトッツォとはなんであるかを調べると、古代ローマ時代のレシピに行き当たりました。当時はレーズンや松の実、ハチミツを練り込んだ大型のパンだったようです。

 マリトッツォの語源である「マリートmarito」は、イタリア語で夫のこと。時代が下ってサイズが小さくなり、四旬節(復活祭前の40日間)のみに作られるようになったこのパンの中に指輪を隠し、3月の第1金曜日に男性が婚約者、夫から妻にプレゼントしたのが名前の由来といわれます。

 現在、マリトッツォは首都ローマのあるラツィオ州を中心にイタリア中南部で作られ、土地によって形が違います。

製パン会社やコンビニが続々参戦

 有名パティシエのレシピによると、エクストラバージンオリーブオイルをたっぷり練り込み、蜂蜜、すりおろしたオレンジの皮とバニラビーンズの風味を加え、レーズンと松の実を散らしたリッチで甘い丸形パン。ふわふわで、弾力が非常に強いのが特徴です。

 対して、いま日本で流行中なのは、具のないプレーンなパンに白いクリームを挟むタイプで、ローマのバール(カフェとパブを一緒にしたような店)やパスティッチェリア(菓子店)で一般的なスタイル。

 正式名は「マリトッツォ・コン・ラ・パンナ」すなわち生クリーム入りのマリトッツォです。

 イタリア人は朝食に甘い菓子パンを食べる人が多く、マリトッツォのほかに、カスタードクリームを挟んだクロワッサン(イタリア語ではコルネット)やドーナツ(同ボンボローネ)をはじめ、バラエティーは実に豊富。

 なお、どういうわけかイタリアでは甘い菓子パンを総称して「ブリオッシュ」と呼ぶそうです。

 このように、イタリアではマリトッツォのごく一部でしかないローマスタイルのマリトッツォ・コン・パンナをもとに、目下さまざまな和製マリトッツォが進化発展中というわけです。

左がセブンイレブンのマリトッツォ、右がファミリーマートのマリトッツォ風クリームシフォン。そもそものレシピがあいまいなので、いくらでもアレンジがきくのがマリトッツォの強み(画像:畑中三応子)



 山崎製パンは、オレンジピール入りクリームの第1作に続き、チーズクリーム入りの第2作を8月1日に発売。セブンイレブンは「オレンジピール&ベリーソース仕立て」に続けて「ストロベリー&ラズベリーソース仕立て」を発売しました。

 これにカフェやベーカリーを加えると、すでに相当のバリエーションが出現中。

さらなる進化とブームの定着に期待

 ローマスタイルではシンプルに泡立てただけの生クリームを挟むのに対し、マスカルポーネチーズ、フルーツのピューレ、ビスタチオナッツのペーストを混ぜるなど、クリーム自体のアレンジも多種多様です。

 パンもブリオッシュだったり、スイートロール系だったりと味も食感もさまざま。

 今後、メロンパンやデニッシュを使うなど、パン自体の応用範囲が広がって原型をとどめないようなマリトッツォが現れるかもしれません。

 まずはブームが定着するかどうかに注目です。

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