もう止まらない『鬼滅の刃』旋風! 超国民的アニメとの比較で見えた「ヒットの法則」とは

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もう止まらない『鬼滅の刃』旋風! 超国民的アニメとの比較で見えた「ヒットの法則」とは

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星野正子

20世紀研究家

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大人から子どもまで幅広い支持を受ける『鬼滅の刃』。そんな作品の元祖と言えば、やはり『ドラえもん』でしょう。20世紀研究家の星野正子さんが両者の共通性について解説します。

猫もしゃくしも『鬼滅の刃』な現在

 とどまるところを知らない『鬼滅の刃』のブーム。都内で見かける親子連れが何らかの『鬼滅の刃』グッズを持っている光景は、もはや日常と言っても大げさではないでしょう。

 先日、筆者が自宅近くにある幼稚園の前を通ったところ、ちょうどお迎えの時間で、『鬼滅の刃』をほうふつとさせる格子柄の上着を着ている子どもを見かけました。10月のハロウィーンはディズニーキャラよりも『鬼滅の刃』のコスプレの子どもが多いと感じていたのですが、ここまで来るとはいやはや驚きました。

 10月16日(金)に公開された映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も31日間で興行収入は233億円を記録。観客動員数は1750万人を突破し、歴代興行収入ランキング5位にランクインしています。

TVアニメ『鬼滅の刃』(画像:(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable、エクシング)



 気になるのは『鬼滅の刃』が一時のブームで終わるのか、長く愛される定番となるのかということ。原作は引き延ばされることなく潔く完結したので、アニメ化しても最後まで盛り上がることは間違いありません。

50年間愛され続ける『ドラえもん』

『アンパンマン』『きかんしゃトーマス』などを始めとして、子どもが好む定番は息の長い作品が多くありますが、もっとも知られているのは『ドラえもん』でしょう。

ドラえもん50周年記念、てんとう虫コミックス「ドラえもん 0巻」(画像:(C)藤子プロ、小学館)

 そんな『ドラえもん』が小学館の学習雑誌で連載を始めたのは、今から約50年前の1969(昭和44)年のこと。その人気たるや、2019年11月に各雑誌に掲載された6種類の第1話をまとめた単行本「0巻」を発行したところ、初版10万部の予定が発売前に2度も重版になったほどです。

単行本人気からテレビ放送再開へ

 しかし『ドラえもん』は人気に火がつくのに、少し時間がかかっていることをご存じでしょうか。

 というのも、1973(昭和48)年にアニメ制作プロダクション「日本テレビ動画」によってアニメ化され、日本テレビ系列で放送されたものの、制作会社が同年9月に解散して打ち切り終了となってしまったからです。

 この影響もあってか、連載は1974年に終了となりかけましたが一転継続。その後、単行本が人気になったこともあり、1979年にシンエイ動画(西東京市田無町)の制作の下、テレビ朝日系列での放送が始まります。これが、大山のぶ代さんから水田わさびさんへと受け継がれ、現在も続くアニメの『ドラえもん』です(正確には声優が交代した2005年4月で、1期と2期にわかれるそうです)。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(画像:(C)藤子プロ、ポニーキャニオン)



 2019年10月には、放送時間が金曜日19時から土曜日17時に代わり、視聴者の生活スタイルの変化という話題と併せて注目されましたが、1979年4月の放送開始当初は日曜日の8時30分(現在でいう「ニチアサ」)の放送枠でした。一部の地域では、これに加えて毎日夕方に10分間放送していました。

 地方局の放送時間はバラバラで、加えて放送していなかった地域もあるので「むかし、ドラえもんは毎日放送されていた」と言うと、信じない人もいます。

『ドラえもん』と『鬼滅の刃』との共通点

 さて、この1979年4月から開始されたアニメは瞬く間に人気になりました。

 子どもたちが「ドザエモン(水死体)」に似た名前の、ダルマのようなロボットに夢中になっている……という姿は大人たちの注目を集めます。同年11月時点での単行本の累計発売部数は2400万部。ドラえもんの機関誌的存在とも評された『コロコロコミック』は毎月50万部を発行。編集部には毎月ファンレターが10万部届いていました。また10月に19時から1時間の特番を放送したところ、視聴率は20.8%だったといいます(『週刊サンケイ』1979年11月29日号)。

 この『週刊サンケイ』の記事では、売れているマンガとして当時大人気だった『ドカベン』と比較し、版元の秋田書店(千代田区飯田橋)からコメントを得ています。

「今年は浪商の香川君のおかげで一時良かったのですが、それにしても今年のコミック界はドラえもんに始まりドラえもんに終わったという感じですな。正直いって頭が下がります」(秋田書店販売部)

 ファンの誤解を恐れずにいうと、現在から見ると『ドカベン』は過去の作品になった印象があります。読者層も作品のテイストも異なるため、一概に比較することなどできませんが、

・長く読まれる作品
・今でも読まれている作品

の違いは何かと考えさせられます。

11月20日(金)に公開した『STAND BY ME ドラえもん2』(画像:(C)Fujiko Pro/2020 STAND BY ME Doraemon 2 Film Partners、リクルートマーケティングパートナーズ)



 また、同じ記事で『コロコロコミック』の千葉和治編集長(当時)は、こんなコメントを寄せています。

「学校に持って行ってもいい唯一のコミックでしょう。ただ知名度の点では子どもの世界に浸透していても、高校以上にはまったく知られていなかった。それがテレビとの相乗効果で幼児やオトナの世界に広がりを持ったんです」

『鬼滅の刃』にも見られるように、大人も子どもも安心して一緒に楽しむことができる――それがヒット作の法則のひとつと言えるかもしれません。

この『ドラえもん』のブーム。

 1967(昭和42)年に建てられた小学館の旧本社ビル(2013年解体)は『オバケのQ太郎』の利益で建った「オバQビル」と言われていました。それが『ドラえもん』のブームで、「今度は『ドラビル』か」とさえ言われるほどでした。それくらい、『ドラえもん』は巨大な利益をあげる超人気作だったのです。

 1979年の時点で『ドラえもん』の道具のアイデアは500種類とされているのですが、現在はいくつあるかと調べてみると、2008(平成20)年発行の『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』では1600種類となっています。これではもう暗記できません。

『ドラえもん最新ひみつ道具大事典』(画像:小学館)



 こうして、1981年10月に「ニチアサ」から金曜日19時というゴールデンタイムに移動し、さらにヒット。劇場版も春の定番映画として定着していきます。

 とりわけ2005年以降は、大人も笑える要素が濃厚になっています。そんな要素が入った筆者のオススメは、のび太が「世界昼寝大会」で世界の猛者と対決する「ひるね王選手権」の回です。

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