たった3人のために上映された「レイトショー」が、ある夜サラリーマンの心を癒した

東京で暮らし、働く男性たちは、日々何を見て何を思いながら過ごしているのでしょう。イラストレーターでライターのズズズ(zzz)さんが、自身の「何でもない今日」をイラストともに切り取ります。今回のテーマは「品川のレイトショー」。


ロビーに漂うキャラメルポップコーンの香り

 映画も良いけど、映画館も良い。

 仕事を終えた夜20時、私(ズズズ。イラストレーター、ライター)は品川駅にある映画館「T・ジョイPRINCE品川」(港区高輪)に立ち寄りました。

 ロビーに入るとキャラメルポップコーンの甘く香ばしい香りが仕事で疲れた身体を優しく包み込み、まるで「お疲れさま」とでも言ってくれているような、そんな気にさせてくれます。

 上映開始まで時間があるので売店でビールとチキンナゲットを購入して、近くの椅子に座って小腹を満たします。定番のキャラメルポップコーンも良いのですが、平日の仕事帰りの映画館ではこのコンビを欲してしまいます。

 自分も年を重ねたなとセンチメンタルな気持ちに浸ることができて、それもまた心地良いのです。

 休日の賑やかな映画館とは違って平日のレイトショーはとても静かな空間で、たまにシアターから重低音が漏れてきます。

 周りを見渡すとただただ静かにビールを流し込む50代くらいの男性会社員が数人、スマホでチケットの写真を撮る30代くらいの女性がひとり、楽しそうに話すスーツを着たカップルがひと組いました。

レイトショーの待ち時間、人影はまばら。皆思い思いに時間をつぶして上映を待つ(画像:ズズズさん制作)



 みんな映画が好きなのかな? 今日は良いことがあったのかな?それとも何か嫌なことがあったのかな? そんなことを考えていると、仕事帰りという限られた時間を精一杯有意義に過ごそうとする仲間のように思えてきます。

 映画が終わったのか、シアターからぞろぞろと人が流れてきて、一瞬静寂が途切れます。

筆者、30代風女性、50代風男性の3人きり

 映画館を出ていくお客さんを見ると私服のカップルや学生、子供連れなど、これからレイトショーを見るわれわれとは明らかに異なる客層です。再び訪れる静寂。

 ほろ酔いでシアター清掃が終わるのを待っていると、30代くらいの女性は先ほどの写真をSNSにあげているのかスマホ操作に夢中で、男性会社員は空になったビールのカップを手に宙を見つめていました。

 しばらくすると開場のアナウンスが響き、ロビーにいた全員が荷物をまとめだします。シアターへ続く通路の入り口で短い列になり、スタッフにチケットをもぎってもらう。

 シアターへ向かう時間はみんな無言ですが、少しだけ早足になっているところに、あふれ出すワクワクを感じました。映画、楽しみですよね。

広いシアターに観覧客はたった3人。静かな場内で上映は始まる(画像:ズズズさん制作)



 席に着くと大画面でお知らせが始まり、私と30代くらいの女性、50代くらいの男性会社員の3人のためだけに映画が始まる。映画館には申し訳ないのですが、大画面をたった3人で眺めるのはこの上ないぜいたくな時間です。

 映画館は喜怒哀楽どんな感情にも寄り添ってくれます。つらいことがあったらコメディーを見て笑うのも良いですし、悲しい映画を観て思いっきり感情の底まで落ちて大粒の涙を流すのも良い。

 映画館の暗闇は、とても身近で、とても素敵な非日常空間なのです。

 映画館の楽しみ方はこのように平日と土日でも異なりますし、シネコンとミニシアターでも異なってきます。東京にはさまざまな個性的な映画館があって飽きることがありません。

新文芸坐で朝まで映画を見た若かりし日

 例えば、飯田橋にあるギンレイホール(新宿区神楽坂)であればレンガ造りの外観と男女が寄り添う看板がとてもクールで、ロードショーが終わった作品を2本立てで鑑賞できます。

 池袋の歓楽街を抜けた先にある新文芸坐(豊島区東池袋)は土曜日の夜にオールナイト上映が開催されています。

 20代前半でまだ上京したばかりの頃はこちらの映画館でよく朝まで過ごしました。血みどろホラーナイトといったホラー系作品を集めた企画もあれば、ビル・マーレイ特集のように特定の俳優や監督にフォーカスした企画もあり、幅広い層から支持されています。

自粛期間後、少しずつ戻り始めた客足

 企画ごとに客層も異なる点も見所です。血みどろホラーナイトは男性が多く、ビル・マーレイ特集はソフィア・コッポラ監督の映画「ロストイントランスレーション」の影響かおしゃれな女性の割合が少しだけ多かったように思います。

 その他の映画館でも爆音上映や合唱上映(作品の主題歌を歌うなど発声OKな回)などさまざまな企画を目にしていましたが、2020年はコロナで苦戦していて、ミニシアターを支援するためのクラウドファンディングなども実施されていました。

 そんな状況にも少しずつ光が見えてきて、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が大ヒットしたりと映画館に徐々にお客さんが戻ってきています。

 今回の記事ではシネコンよりもミニシアターの方が良いとか、大ヒット作品よりもマイナーな作品が良いという話ではなく、ただただ映画館という素敵な場所へ多くの人が足を運ぶきっかけになれば良いなと思います。

エンドロールを見届けて

 さて、「T・ジョイPRINCE品川」での映画鑑賞も終わり、エンドロールが流れてきました。私たち3人は席を立たずにエンドロールの後に何か起こらないかを見つめます。何もないことを確認するとシアターに照明が灯る。

 この日はおしゃれなラブストーリーでも正統派アクションでもなく、日常から程遠いパニックムービー。ハラハラしたシーンもありましたが基本的には突っ込みどころが満載で笑いを噛みしめながら見ていました。

 荷物をまとめてシアターを出ていく私たち3人。同じ映画を共有したふたりに勝手に親近感を覚えて、映画の感想なんて話し合いたいなと思いますが、そんな気持ちを抑えて歩き出す。

 レイトショーが終わる頃には売店も全て閉まっていて、全員出口まで一直線で歩いていきます。

 映画館を出て駅へ向かう中で、またそれぞれの日常に戻っていくのです。


【画像】筆者が訪れた品川の映画館

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