ヒグマ対策から食糧危機まで! 遊びながら社会問題を学べる「シリアスゲーム」とは何か
ゲームをしながら社会問題も学べるシリアスゲーム。その最新状況について、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。シリアスゲームとは何か? 皆さんはシリアスゲームをご存じでしょうか? シリアスゲームとは社会問題をシミュレーションするゲームで、2000年代はじめに米国で生まれたゲームジャンルのひとつです。 通常のゲームとの違いは純粋に娯楽としてのゲームではなく、あくまで社会問題の解決を目的としていること。実際に起きている課題を取り上げるので、リアルな設定が特徴です。基本的にはパソコンを使ったテレビゲームが主流ですが、近年はボードゲームなどのアナログゲームも登場しています。 シリアスゲームは欧米を中心に普及していますが、日本でも2000年代後半から紹介され、大学で研究されたり、大手企業が共同でゲームメーカーを設立したりしました。ゲームはメディアにも取り上げられたので、その時期に知った人もいるでしょう。しかし、その後は今ひとつ大きな盛り上がりにはならず、一般的にはあまり知られていないかもしれません。 シリアスゲーム「Food Force」(画像:ゲームランドジャパン) 具体的にはどのような内容なのでしょうか。2005(平成17)年に公開された「Food Force」は国際連合世界食糧計画(WFP)が世界の飢餓や人道支援活動について理解を深めるために開発した教育系ゲームです。プレイヤーはWFPの一員として、インド洋の架空の島国「シェイラン(Sheylan)」の飢餓で苦しむ人たちに食料を届け、街の復興を支援するミッションをこなします。 2008年に公開された「Foldit」はワシントン大学で開発されたタンパク質構造解析のオープンサイエンスゲーム。専門的な知識がなくともパズルゲームとしてプレイすることができ、ゲーマーが研究に大きな成果を上げました。 感染症に関するシリアスゲームもあり、2009年にシリアスゲームが盛んなオランダで新型ウイルスの感染拡大を防ぐゲーム「The Great Flu」が開発されました。 また「Pirates of Somalia」はソマリア沖での海賊行為に対応する指揮官訓練用シリアスゲームです。主人公は商船を護衛する護衛艦の船員。商船に対して危害を加えようとする海賊を未然に察知し、商船を海賊から守ります。 ゲームで当事者意識を醸成できる?ゲームで当事者意識を醸成できる? 近年、私たちの社会はさまざまなリスクが増大しています。今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大もそうですが、相次ぐ災害や異常気象、格差の拡大、貧困、世界各地で起こる暴動やクーデターなど、環境や経済構造の限界が見え始めており、先行きの不透明感が拭えません。 近年注目が集まる環境問題(画像:写真AC) 社会が大きな変革期を迎えていることは間違いなく、今まではなかった事象が次々に起こり、さまざまな課題が降りかかってきます。対応力が求められる時代において、重要な物事の判断が一部の人にゆだねられるシステムには限界を感じざるを得ません。 このような時代、改めてシリアスゲームが注目されます。さまざまな分野の多くの人が関わることが可能で、それだけ視野が広くなり、新しい着想を取り入れることが期待できます。 関わった人の分だけ数多くのシミュレーションをこなせることから効果も大きく、それだけ多様な選択肢を得ることができます。さらに多くの人がゲームに参加することによって幅広い層で今ある社会的課題を共有し、当事者意識を醸成することが期待されます。 日本においては教育分野での活用が先行しましたが、どちらかと言うと学習にゲーム要素を取り入れる(教材にゲームっぽい遊び要素を入れたり、キャラクターを登場させたりする)学習効率を上げる方向性に進展しました。 「親世代もゲーム世代」という親和性 思い返すと2000年後半は長引く景気低迷やリーマンショックもあって、若者や親など世間の関心事は安定した就業であり、社会問題にはさほど興味がないこともあったのではないでしょうか。しかし、ここ数年で急速に地球環境など社会問題への関心は高まりました。 子ども世代においては地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)が現実のものとなっており、同年代の環境活動家も出てきて、もはや人ごとではありません。親においても不安定な時代における子どもの対応力を重視するようになってきています。 このような変化からも、改めて日本でもシリアスゲームへの関心が高まる可能性が拡大しているでしょう。机に座って文章を読んだりして勉強するのが苦手な子でも、シリアスゲームならば感覚的・体感的に課題を認識することができ、その課題に対して理屈ではない対応力をつけることが期待できます。 今の若年層では学習の質も変わってきており、親世代もゲーム世代であることから、昔よりは普及しやすい環境になったと言えるでしょう。 八王子市片倉町にある東京工科大学(画像:(C)Google) 都内では、 ・慶應義塾大学(港区三田) ・東京工科大学(八王子市片倉町) ・東京都立大学(同市南大沢) などのメディア系やデジタル系、社会学系の学科でシリアスゲームを研究している大学が数多くあり、今後の教育現場への展開が期待されるところです。 都内でもイベント開催都内でもイベント開催 都内でイベントも開催されています。 2017年にはオランダ王国大使館(港区芝公園)で「シリアス&アプライドゲームサミット」が開催されました。「シリアスゲームジャム」はゲーム製作に興味のある人が集まり、短期間にゼロからゲームを作るイベントで、2019年には「ゲームの力で世界を救え!みんなのバリアフリー」と銘打って、東京都立川市で開催されました(2021年はオンライン座談会を開催)。 「シリアスボードゲームジャム 2021 図書館と一緒にシリアスボードゲームジャム!」は9月11日と12日にオンラインで開催されます。今回は「食べることのジレンマ」がテーマ。シリアスボードゲームは、現代のアナログゲーム人気もありシリアスゲームの入門には最適かもしれません。 「シリアスボードゲームジャム 2021 図書館と一緒にシリアスボードゲームジャム!」のウェブサイト(画像:SBGJ2021準備委員会) 一方、ユーザーからすれば、シリアスゲームはシリアス(深刻)な内容だから興味をひかれるということもあります。いくらゲームになっているからと言って、 ・ありきたりなテーマ ・切実さのないテーマ ・リアルではないゲーム性 では興味がわきません。 その意味では教育系ばかりではなく、今後は自治体などで地域の抱える課題をシリアスゲーム化していくことが望まれます。課題を広く知ってもらい、さまざまな知恵を活用するためにもシリアスゲームの活用が期待されます。 「ともに生きるBear」はシリアスボードゲームを多数手がけるPine Treeとハイパーイナカクリエイトが開発したシリアスボードゲームです。舞台は、ヒグマによる農業被害に悩まされている北海道七飯町。プレーヤーは住民とクマに分かれ、住民はクマ対策(クマは殺さない)をしながら農地を開拓し、クマは農作物や観光客が捨てるゴミなどから食料を調達。この一連の流れからクマの生態を学び、人とクマが共存できる方法を考えます。 このゲームの開発にはクラウドファンディングを活用されており、目標50万円のところ100万円以上の資金を集めることができました。興味のある人は、ぜひシリアスゲームを体験してみてください。
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