老舗洋食チェーン「キッチンジロー」大量閉店の衝撃 原因はコロナ禍だけでなかった

東京都心を中心に展開する洋食チェーン「キッチンジロー」が2020年9月末までに大半の店舗を閉店することを発表しました。東京に残るのは1店舗のみ。いったいなぜでしょうか。都市商業研究所の若杉優貴さんが解説します。


老舗レストランチェーンが突然の閉店

 東京都心で長年にわたって親しまれてきた洋食レストラン「キッチンジロー」が2020年9月末までにほとんどの店舗を閉店することを発表。

「老舗洋食店」といった雰囲気のキッチンジローのランチメニュー(画像:若杉優貴)



 特に昭和時代から店舗がある神田・秋葉原かいわいを中心に、長年親しまれてきた老舗洋食レストランの閉店を悲しむ声が多く上がっています。

 50年以上続いた老舗レストランの大量閉店――。そこには、同店が新たな成長戦略の要として生み出したばかりだった「新業態の存在」も大きな影響を与えていました。

秋葉原からは姿を消すことに

 キッチンジローは1964(昭和39)年に、神田神保町で創業。最盛期には50店舗以上を展開していましたが、2020年8月現在は、東京都内と大阪市内に洋食レストラン15店舗を展開。また、一部店舗では弁当販売や宅配も実施していました。

秋葉原の街並みになじんだジャンク通りの「キッチンジロー外神田店」も9月30日に閉店予定。同社のなかでも老舗店舗で、2008年に火災の被害に遭ったことも記憶に新しい(画像:若杉優貴)

 かつては神田・秋葉原などの下町エリアに多くの店舗があり、特に約40年にわたって電気街を訪れる人の胃袋を満たし続けてきた外神田店(千代田区外神田)は近年、その土地柄ゆえ「シュタインズゲート」や「アキバズトリップ」など、数多くのゲームやアニメ作品に登場。作品とのコラボレーション企画を実施することもありました。

 また、秋葉原駅ビルの「アキバトリム」(千代田区神田佐久間町)に出店していたこともあるなど、秋葉原を代表する老舗のひとつだったと言えます。

 2020年9月末までに閉店となるキッチンジロー(「ほろよいジロー」含む)は、東京23区内にある

・南神保町店
・錦町店
・神田鍛冶町店
・外神田店
・ニュー新橋店
・新虎ノ門店
・シーバンス浜松町店
・芝大門店
・アトレヴィ巣鴨店
・渋谷店
・深川ギャザリア店
・ペディ汐留店

そして大阪市にあるOBPツイン21店の13店舗。10月以降も残る店舗は東京・大阪の各1店舗のみとなります。

2018年、西日本最大手ファミレスの傘下に

 それでは、キッチンジローはなぜここにきて「大量閉店」に至ったのでしょうか。

 もちろん、最も大きな要因といえるのが新型コロナウイルスの感染拡大ですが、特に近年キッチンジローが参入したばかりだった「新業態」の存在がコロナ禍のなか大きな影響を与えることになったと考えられます。

 東京都心を中心に展開する小規模チェーンだったキッチンジローですが、近年は競合店の増加などにより、苦戦を強いられており赤字が続いていました。

 そのため、同社が手を組んだのが西日本最大手のファミレス「ジョイフル」(大分県大分市)。キッチンジローは2018年に同社の傘下となり、経営再建を図っていたのです。

 ジョイフルはファミリーレストラン業界3位で、西日本を中心に約800店舗を展開しているものの、東日本には店舗が少なく、東京23区内には2015年に初進出を果たしたばかりでした。

ジョイフルで唯一の東京都心店・ジョイフル赤坂店(通常時は24時間営業)。東京メトロ赤坂見附駅の近くにあり、地元のジョイフルを懐かしんで来店する上京者が多いため「店内から常に九州や四国の方言が聞こえる」とのうわさも(画像:若杉優貴)



 一方で、東京都心の店舗はジョイフル赤坂店(港区赤坂)のみで、全ての店舗がキッチンジローとは競合関係になく、両社の提携はベストマッチングであったと言えるでしょう。

夜間はバル業態で「二毛作」展開

 ジョイフル傘下となったキッチンジローが新たな成長戦略の柱に据えたのが「ちょい飲みへの参入」でした。

 キッチンジローは2018年10月、新虎ノ門店を皮切りに、昼間は一般的なキッチンジローのメニューを、加えて夜間はアルコールやおつまみを提供するバル業態「ほろよいジロー」の展開を開始。

 いわゆる「二毛作店舗」とすることで店舗の売り上げ増を図り、経営規模の拡大をめざしました。

2019年10月30日にオープンしていた「キッチンジロー&ほろよいジロー錦町店」。9月末に閉店(画像:(C)Google)

 また、2019年には多くのパート・アルバイト社員(ジョイフル本体など含め全1万6929人)を無期労働契約へと切り替えるなど、大手企業の強みを生かして従業員の待遇改善も進めました。

 ほろよいジローは基本メニューのほとんどが500円という分かりやすい料金システムで人気を集め、2019年には渋谷店など既存店の転換を中心に順調に店舗網を拡大していきました。

「ちょい飲み参入」がコロナ禍であだに

 しかし、2020年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大により東京都心の多くの飲食店が休業を強いられることに。

 特に東京23区内では9月現在も、22時以降の営業自粛要請が続いています。東京都心に多くの店舗を構え、しかも「ちょい飲み業態」に活路を見いだしていたキッチンジローが苦境に陥ったのはいうまでもありません。

閉店を発表した「キッチンジロー アトレヴィ巣鴨店」(画像:若杉優貴)



 2020年6月には親会社のジョイフルが新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、グループの不採算店約200店舗を近く閉鎖することを発表。

 つまり、キッチンジローはその立地に加えて、新業態の存在があだとなり、ほとんどの店舗が「不採算店」として閉店することになってしまった、という訳です。

東西に残った「虎の子」的存在の2店舗

 2020年10月以降も営業を続けるキッチンジローの店舗は、東京メトロ・都営地下鉄九段下駅近くにある「キッチンジロー&ほろよいジロー九段下店」(千代田区九段北)と、大阪の「キッチンジロー中之島フェスティバルプラザ店」(大阪市)2店舗のみ。

10月以降も営業を続ける「キッチンジロー&ほろよいジロー九段下店」の内観(画像:ジョイフル)

 しかし、ここで注目したいのは「全店閉店」ではなく「2店だけ残る」ということです。

 赤字続きであったキッチンジローはコロナ禍前の2019年6月期決算時点で約5億円の債務超過状態であり、これを機に「全店閉店」となってもおかしくない状況でした。

 わざわざ残した「虎の子」的存在の2店舗。

 今後は、この2店を軸として長年にわたって培われたキッチンジローのノウハウを生かしつつ、再度の経営の立て直しに挑む可能性もあります。

 近い将来には、神田や秋葉原の街に、見慣れた「キッチンジロー」の看板が再登場するかも知れません。


【画像】10月以降、都内で唯一残る「キッチンジロー」を見る

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