ライバルではなく、夢を追う仲間「NiziU」がギスギスしていないワケ

  • ライフ
ライバルではなく、夢を追う仲間「NiziU」がギスギスしていないワケ

\ この記事を書いた人 /

かなぴすのプロフィール画像

かなぴす

ライター

ライターページへ

最近、たびたび名前を聞くようになった9人組ガールズグループ「NiziU」。彼女たちはなぜ突然、これほど注目を集めるようになったのでしょうか。ライターのかなぴすさんが、ヒットの理由を考えます。

デビュー前にも関わらず渋谷のど真ん中に

 流行の発信地・東京は渋谷のど真ん中にそびえる地上47階建ての複合ビル、渋谷スクランブルスクエア。その外壁に設置されたデジタルビジョンに2020年夏、9人組ガールズグループ「NiziU(ニジュー)」のビジュアル画像が映し出されました。

 ソニーミュージック(千代田区六番町)と韓国のJYPエンターテインメントによる日韓合同オーディション「Nizi Project」から誕生した彼女たち。

 プレデビュー曲「Make you happy」を6月30日(火)に配信リリースすると、オリコン週間デジタルランキングで史上初となる初登場3部門1位の記録を樹立。まだ正式なデビュー前にもかかわらず、すでに絶大な人気と注目を集めています。

 今回は、そんな彼女たちのヒットの要因を考えます。

ステイホーム中の視聴者をフック

 ひとつめの要因は、2020年1月から6月にかけて「オーディション過程を放送した」ことです。

「Nizi Project」は、動画配信サイト「Hulu」で放送されただけでなく、朝の情報番組「スッキリ」(日本テレビ系)でも取り上げられ、お茶の間人気を獲得していきました。

 折しも新型コロナウイルスの感染拡大により「ステイホーム」が盛んにうたわれていた時期。家族でテレビを見る時間が増え、学生や社会人など普段は朝の情報番組を見ない世代の知名度を獲得できたことも、ヒットにつながった一因と言えるでしょう。

 彼女たちの魅力は、全員10代の少女とは思えないハイレベルなパフォーマンス。韓国合宿での審査では、デビュー前にも関わらずプロ並みのステージセットが用意され、彼女たち自身もその場にふさわしいダンスを披露しました。

それぞれの個性が光る9人組ガールズグループ「NiziU」(画像:(C)Sony Music Entertainment (Japan) Inc./JYP Entertainment.)



 かっこいい、と称されることの多いこうした要素は、「あこがれ」や「羨望(せんぼう)」の対象にはなるものの「親近感」とは本来かけ離れているはずのものです。

 にもかかわらずファンたちは、メンバーに対して「親近感が持てる」と言います。なぜなのでしょうか。

表も裏も“包み隠さず”披露する

 それは、洗練されたパフォーマンスとは対照的な「等身大の素顔」をも放送したことと関係があるようです。

 例えば、もともとJYPエンターテインメントの練習生として韓国に渡っていたミイヒ(16歳)。

 グローバル地域予選で通過を告げられた際、「お母さんに会いたいときもいっぱいあったけど、辛いことを乗り越えたらこんなにいいことがあるんだ」と涙を浮かべるシーンが。堂々とした歌唱をこなす未来のスターから、等身大の当時14歳の少女に戻った瞬間を見せていました。

 また、宿舎で家族からのビデオメッセージを見るメンバーの姿も放送。家族の顔を見た途端に泣きじゃくる少女たち。ステージでは堂々としたパフォーマンスを見せているのにも関わらず、裏側では等身大の少女の姿をのぞかせています。

 このような部分が見えるからこそ、彼女たちは視聴者に親近感を抱かせ、応援したいと思わせるのではないでしょうか。

ライバルではなく、まるで「姉妹」

「オーディション番組」というと、どのような様子を思い浮かべますか? 選ばれる、選ばれないを決めるという意味では、AKB48グループの「選抜総選挙」などを連想する人もいるかもしれません。バチバチとした対抗意識や、殺伐とした雰囲気を思い浮かべる人も、なかにはいるでしょう。

 しかしNizi Projectの選考過程を振り返ると、そうしたイメージとは対極的なムードがありました。あえて言葉にするなら「優しさ」という表現が似合います。ここに、ふたつめの要因があるように感じます。

 もちろんNizi Projectにも熾烈(しれつ)な争いはありました。個人の順位を競う合うという仕組みも、AKBグループと似ています。

その場を包む空気の名は「優しさ」

 しかし、他のメンバーがステージに立つ前には「頑張れ」と声をかけて緊張をほぐしてあげ、ステージに上がる姿を見つめながら祈るような視線を送る。

 ライバル関係であるにも関わらず、本心から「うまくいってほしい」と思っているような彼女たちの姿は、端から見たら不思議にも思えます。

 しかし、彼女たちのなかには、「他人を蹴落とすよりも自分が成長しよう」という空気感がありました。

それぞれの個性が光る9人組ガールズグループ「NiziU」のメンバー(画像:(C)Sony Music Entertainment (Japan) Inc./JYP Entertainment.)



 約6か月間に渡る最終審査が行われたのは、韓国。異国の地で生活をするだけでも不安な中、さらにメンバー選考という重圧がのしかかります。

 親元を離れて日本から出てきた少女たちの間には、そんなストレスフルな日々をともに支え合う相互関係が生まれたのかもしれません。だからこそ、仲間の成功を心から祈れるのでしょう。

「ライバル」ではなく、ともに夢を追う「仲間」。プロジェクト全体に通底するそんなムードを体現するシーンも数多く見受けられました。

 例えば最年長のマコ(19歳)が、メンバーに手料理を披露しながら話を聞いてあげる場面。年上のメンバーが年下のメンバーを心配そうに見つめたりアドバイスを送ったりする姿は、まるで本当の「姉妹」のように視聴者の目には映りました。

 新型コロナウイルス禍でどこか殺伐とした空気が世間を覆う中、Nizi Projectは忘れかけていた「優しさ」を思い出させてくれる存在だったのかもしれません。

プロデューサー名言に視聴者も思わず

 そんな彼女たちのプロデューサーJ.Y.Park(パク・ジニョン)氏も、Nizi Projectのファンを増やすことになった立役者のひとりです。含蓄ある彼の言葉は、SNSなどでもたびたび注目を集めました。

 ファンの間で特に話題にされたのが、芸能一家に生まれたリマ(16歳)にかけた言葉です。

日常で忘れていた三つの重要なこと

 パフォーマンスの才能もスター性もあり、環境にも恵まれている。そんなリマに「優れた才能を持っているのになぜそんなに不安そうなのか?」と問いかけた氏。

 戸惑いながら、「父や母が芸能人だけど、私がすごいというわけじゃない。自分の力でできることを見せたかった」と答えたリマに対して、「君は才能であふれている子だよ。ただ自分自身を見せてくれたらいい。肩の力を抜いても、君はすでに特別な子」と声をかけました。

 肩の荷が下りたように泣きじゃくるリマを、パク氏はじっと見つめていました。

 パク氏はまた、ダンスや歌のパフォーマンス向上に葛藤していた候補生たちに「歌とダンスの実力が全てではありません」と声をかけます。

 そして「立派な人柄を持ってほしい。君たちが世の中に良い影響を与えてほしいから」と語りかけ、「真実・誠実・謙虚」という三つの言葉を伝えました。

 いわく、「真実」とは、隠す必要がない人になれ。「誠実」は、自分との戦い。そして「謙虚」は、隣にいる人の短所ではなく、長所だけを見て感謝すること――。

 いかがでしょう。このような言葉をもし日常生活の中で面と向かって言われたら、多くの人は面食らってしまうか、何だか気恥ずかしくて赤面してしまうか、いずれにしてもなかなか素直に受け取れないのではないでしょうか。

 しかし、それを「名言」として受け取らざるを得ないほど視聴者に感情移入させるのがNizi Project。ハードな練習に耐え、いくつもの選考をクリアし、励まし合い、支え合いながらここまで来たメンバーを見守る視聴者は、気づけば彼女たちと同じような気持ちでパク氏の言葉に聞き入ってしまうのです。

圧倒的に感情移入させる演出の妙

 真実も、誠実も、謙虚も、生きていくうえでとても大切な根源的要素ではあるけれど、一方で大人になるほど日常に忙殺されて忘れてしまうものでもあります。

 それらを真正面から真摯(しんし)に受け止めようとする彼女たちの姿勢に視聴者は、自分自身を重ね合わせ、自分もこうありたい、と共感を覚える。その感覚を通してある種のカタルシスを得ているのです。

 前述した「親近感」の源は、こうした番組の演出の妙にもあるのでしょう。SNSで「Nizi Projectを見ると心が浄化された気持ちになる」という意見が散見されるのは、このように普段の日常生活では得にくい感情を揺さぶられる視聴体験によるところも大きいようです。

 成長過程を応援できる楽しさ、仲間を思いやる「優しさ」や、大切な気持ちを思い出させてくれる「名言」。そんな「Nizi Project」の魅力が、「NiziU」のヒットにつながったのだと筆者は考えます。

関連記事